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竜眼の少女  作者: 五十音
アグノードのドラゴン
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ドラゴンの娘が消えた後

 南部も中央もどことなく重たい空気が漂う中、それでも人々は日常を繰り返していた。

 学校は事件の翌日が休校となったのみで、その次の日には再開し、中央に乗り込んで来た王都の人間は南部へ帰って行った。


「あとちょっとでドラゴンの娘を捕まえられたんだ」

「ぼんくら王子が、逃亡に加担したって聞いたかい?」


 中央の通りは噂でいっぱいだった。


「前に解放されたはずの女、子どもが連れ戻されたと聞いたぞ」

「ドラゴンの娘を捕まえるために利用するんだって」

「それにほら、魔力が少ないって言ってた隣の家の子、連れてかれたらしい」

「奴隷を増やすんだってね」


 ほんの数日でこれほど噂が回ることはあまりない。それほど大きな範囲に影響を与えるようなことを、王が行っているということだ。


「北部よりの村は娘を取り返そうとしたけど、無駄だったみたいだね」

「そりゃそうさ。魔力があるのは南部だもの。村一つの人数だって、直轄軍一人も要らない」

「結局みんな殺されたんだって」

「ただでさえ作物も取れにくくなってるのに、犯罪者にやる飯なんてないからね」

「当たり前だよ!私らだって急に税を上げられて苦しいってのに……」

「ドラゴンの娘が大人しく掴まってりゃ良かったのさ。何で逃げるんだか」

「そうだよ、国のために魔力を使うべきだ」

「隣の国も攻めてきそうだっていうのに。やっぱり、この国を壊すのが目的なのかねえ」


 口さがない人々の間をガイラルは無言で通り過ぎる。

 将来進む先が決まっている彼は、先生に面倒ごとを押し付けられやすく、今日は街に買い出しに行って欲しいと頼まれていた。

 ドラゴンの娘が存在したことに感動する人もいただが、たいていはその少女について悪く言う。何故なら彼女が逃げたからだ。

 逃げたといっても、その時彼女は意識を失っていてほとんど攫われた形だったというのに、その場を見てもいない人間は好き勝手に彼女を罵る。


(国を壊すだって?とんでもない!彼女はこの国を救おうとしていた!)


 その優秀さから目をつけられ、危ない立場に追いやられていた一年生。少年だと思っていたが少女だったらしいということはもはやどうでもいい。彼女がドラゴンの娘だった。


 ――私も、できる限りの力でこの世界を変えたい。だからここに来て魔法を学ぶのは、私にとってもいいことで、無理はしてないよ――


 クラブのある日は毎日顔をだしていた彼女に、無理をしていないかと訊ねた時、そう答えていた。

 彼女の言葉に嘘はないはずだ。クラブで共に活動してきたガイラルにはわかる。

 身を隠していれば今回のようなこともなかったはずなのに、魔法を学ぶためにテアントルに入学した。学校の成績を見ていれば、その努力もうかがい知れる。

 サクラがジルトの事情を知っていたのであれば、A.K.クラブがどんなところかわかっていて入ってきたはずだ。彼女が魔法を学び、何を成し遂げようとしているのか、具体的なことはわからなくても、目指す先はわかる。


 A.K.クラブはジルトが在籍していたため現在一時的に活動の休止を命じられてはいるが、表向きの活動は一切にドラゴンに関与しない。すぐにでも再開を認められるだろうし、大した影響はない、と思っていた。

 ドラゴンの娘がA.K.クラブに在籍していた事実は、卒業しそれぞれの地域で活動を続ける者に、強い希望となってしまった。表向きの理由でクラブに入ろうとするものは少なかったし、適当に理由をつけて弾いていた。だから、ドラゴンの娘はA.K.クラブの真の目標を知っている。

 ドラゴンは我らの味方である。

 そう思った人々が、さらに酷くなった王の仕打ちに我慢できず、飛び出して行ってしまったのだ。


(私は何もできなかった。

 今サクラの命が繋がっているのも、彼女の魔力のおかげだ)


 ドラゴンの娘の言葉があるまでは行動を起こさない、と全体に伝えられたため、何とか学生たちを宥めることはできたが、それもいつまでもつか分からない。

 それでもガイラルには待つことしかできない。彼女に渡した通信機から、ガイラル達の持つ通信機に連絡が入るまで。


(ジルト、君からの連絡を待っている。どうか無事で)


 逃げたのではなく攫われたのが心配だった。再び元気に笑う少女の姿が見られるよう、ガイラルは祈るしかなかった。



*



 王都の宿の一室に、二人の兵士がいた。

 一人は藍色の髪に藍色の瞳の青年。もう一人は金色の髪に茶色の瞳を持つ少年。二人とも立派な服を着て、胸に虎の顔の書かれたバッジをつけている。


「ヒユ、気分はどうだい?」

「最悪だ!」


 二人は机を挟んで向かい合って座っていた。藍色の髪の青年――ヒユ・アマラは酷く歪んだ表情で、机に頭を預けていた。

 金髪の青年――リアン・プリムの方は椅子に座ったままじっとヒユを見ている。


「あいつに逃げられるなんて!」

「彼女が逃げたわけじゃない。攫われた」

「どっちも一緒だ!まさか、王族に囲われる以外で、俺の願いが断たれるだなんて思ってもみなかったよ」


 ドラゴンの娘が姿を消した時、ヒユもその場にいた。攫われた場面は見ていないが、どこかに消えたのはすぐにわかった。


「リアンは何で落ち着いていられるんだ?」

「別に僕は彼女を殺したいとは思ってないから」

「俺を止めたいの?」

「まさか。君には賛同してる。ドラゴンの娘が死んだら、この()()も解かれるからね」

「どうせなら殺してやればいいだろ?憎くないのか?」

「もちろん、こんな体になったことは恨めしいよ。けど、彼女を憎む気持ちはあまりないね」

「なぜ?」

「君より永く生きてるからかな。でも僕は君がドラゴンの娘を殺そうとしても止はしないよ」

「前は止めたでしょ」

「君が覚醒前に殺そうとするからだよ」


 ヒユは言い返せなかった。


「そう焦らなくても、ドラゴンの娘はきっと現れる。チャンスはまだあるよ」

「ああ、そうだね。もう既に覚醒したんだ。次会った時、十分に甚振ってから殺してやる」

続きます。

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