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竜眼の少女  作者: 五十音
アグノードのドラゴン
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王宮の地下で

 海の上に浮かぶ小さな島国、アグノードは大いに荒れていた。


「ドラゴンの娘を探せ!!」

「ワープを使える者を全員呼び出せ!」


 南部のそこら中で飛び交う声に、バンダは辟易していた。


(よくもまぁ、こんだけ騒げるもんだ)


 声から逃げるように、冷たく静かな場所へと足を進める。

 王宮の地下には牢がある。ただの犯罪者であればそれぞれの場所にある収容施設に入れればいいが、そんなところには置いておけない人物が入れられるところだ。

 その一つに、バンダの主がいた。


「こんにちは、カトレア様」


 扉は冷たく重いが、その中には豪華な部屋が準備されている。

 バンダの目的の少女は、中央にあるベッドに足を抱えて座っていた。


「バンダ様、くれぐれも、変な気は起こさないでくださいね」

「もちろんだよ」


 見張りとしてやって来たのは、昨年配属されたばかりの若い青年だった。バンダは才を見込まれ、通常よりも早く入学・卒業をしているのでおそらく見張りはバンダより年上のはずだ。

 それでも敬称を使うのは、彼も貴族ではないからかも知れない。


「さて、カトレア様、どうして逃げなかったのかお聞きしても?」


 突然の投げかけに、カトレアは顔を上げて疑うようにバンダを見た。


「別に尋問しに来たわけじゃないです。レオくんに教えてもらった魔法で、会話は私達以外に聞こえないし、当たり障りのない会話が彼には聞こえてます」

「そうか」


 ほっとしたように呟いたカトレアの声は掠れていた。


「まあ逃げなかった理由はわかります。俺のせいでしょう?」


 カトレアは答えなかった。

 バンダはフレグと交戦していた。そのフレグが目の前に現れて、バンダはいない。状況はわからないが、そこでカトレアが姿を消せば、その咎をバンダが負うことになる。

 カトレアが残れば、バンダは余計な疑いをかけられない。フレグと戦ったのはドラゴンの娘を奪われないようにするためとすればいい。

 カトレアは既にジルトと共に食堂に向かってしまった。ドラゴンの娘を捕まえたなら学校に来ていた王宮の関係者のところに連れていけばいいのに、わざわざレオ達のところへ連れて行った。逃がすつもりだったのは明らかだ。普段の学校生活からしても、ドラゴンの娘の関係者と仲が良かったことは知れてしまう。

 カトレアが姿を消せば、バンダにカトレアのことを訊くだろう。そしてバンダへの疑いはなくとも、少しでも情報を聞き出すためによくない魔法を使われるかもしれない。

 だが、カトレアがいればそれは本人に聞けばいいのだし、王族という立場からすぐに何かされることはない。


「俺にだって怪しいところはあるんだから、気にしないでも良かったでしょう」

「お前は怪しさ満載だが、上手くやれる。尻尾を掴まれるようなことも、疑われるようなこともしない」

「買い被りですよ」

「現に、捕らえられることなく、かつ、私に会いに来られる」

「見張りつきでね」


 とは言ったものの、今のこの状況が最上のものだとは理解していた。少しでも疑われていれば、カトレアとの面会は禁じられただろう。


「それで、今どうなってる?」


 情報を遮断されたカトレアが聞きたがるのは予想できていた。


「レオくん達は上手く逃げたようで、まだ見つかっていません。ただ、ジルちゃんを攫った輩については、早々身元が割れるでしょうね」

「お前が協力したのか?」

「一応ね。ジルちゃんが酷い目に遭っているなら、直ぐにでも見つかった方がいい。逆にジルちゃんを見つけられてしまうかもしれませんが、そこは賭けです」

「ジルなら、見つかっても逃げられるだろう。あの男への恐怖がなければ、何だってできる」


 カトレアは祈るように言った。


「彼は、どうなった?」

「王子ですか?」


 食堂でジルトが気を失った時、その向こうに現国王の息子が立っていた。


「カトレア様もご覧になった通り、王子は負傷した少女の救命を行いましたが、途中で王宮に呼び戻されました」

「……サクラは、どうだ?」

「まだ死んではいません。けれど、本当にそういう状態です。王宮も大事に育ててきた子ですからね、それなりの力のある医師がみましたが、助かる確率はほぼないに等しいと」


 カトレアの喉から空気に近い悲鳴が零れる。


「回復魔法が得意な学生がつきっきりで看ていますが、彼が限界を迎えればその子の命も尽きるそうです」

「ウォートか。他に医者はいないのか」

「情けないことに、彼は一番優秀なのだそうで。かつドラゴンの娘と親しかったからか、その魔力と相性が良いと」

「魔力?」

「ジルちゃんが暴走させた魔力を、その子は吸収したそうです。ジルちゃんの魔力は、魔女の魔力でもあり、生命の力が宿っているのではないかと考えます。

 他の連中は何も知らないから、不思議がっていますがね」

「そうか、ジルの魔力が」


 カトレアの顔が少し明るくなる。


「それで、王子の方ですが、今はあなたと同じこの地下牢にいます」

「なぜだ?彼はあの場で悪いことは何もしていないだろう」

「放浪癖のある王子ですからね。どうしてあの時間に、あの場所に現れたのか。ドラゴンの娘を逃がそうとしたんじゃないか、ってね」


 カトレアがふるりと首を振る。


「あり得ない、こじつけだろう」

「こじつけたいのですよ。王族ですから下手なことは王もできない。それなら罪を被せて、力を封じてしまおうとね」

「相変わらずだな」


 強い嫌悪を宿す青い瞳は、王族誰もに共通するのに、バンダにとってはカトレアのその目だけが美しく感じる。


「相変わらず、ですよ。

 ドラゴンの娘を逃がそうとしたのは学友だったからとして、罪を犯した王子に代わりにカトレア様を次期王にしようとしています」

「……言葉も出ないな」

「まったくです」


 カトレアがこの地下の、別の場所で何をしたのか、バンダは知っている。

 それでもそれが自身の傷となっている彼女にとって、相変わらずな連中の期待通りに動くのは酷すぎる。


「ジルちゃんはまだ捕まっていません。そして、彼女にはやりたいことがある。いずれここにやってきます。

 だからカトレア様、あの子が悲しまないように、大人しくしていてくださいますか?」


 もしかすると、しばらくは期待通りの王とやらを演じなければならなくなるかもしれない。それでもきっと、ジルトは来る。それまでカトレアには彼女を見失わないで欲しかった。


「わかっている。

 ……お前も、悲しむからな」

「もちろんですよ」


 ぎこちないながらも笑顔を見せたカトレアに、バンダは驚きつつも少し安堵した。

続きます。

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