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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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半獣人の魔法

 白いローブの男、フレグ・ルナはドラゴンの娘を連れて研究所に戻って来た。

 ワープ先に設定した場所は既に諸々の準備が済んでいる部屋だ。意識を失ったジルトを第に乗せ、拘束具を装着していく。


「――サクラ!!」


 手足と首を拘束し終えたところで、ジルトの目が開く。

 以前この場所にいた時は深い赤色だった右目は、明るく澄んだ色になっている。


「もう少し時間がかかると思ったけど、あの子は中々に魔力を溜められる量が多いんだね」

「あれ、ここは――」


 固定された視界に映る天井に覚えがあるのか、ジルトの表情は不安そうになっていく。そして声の主に気づき、動けない体を無理に動かそうとする。


「やあ、ジルニトラ。さっきは久しぶりの再会だというのに、ろくに話もできなかったね」

「嫌、嫌だ!」


 ジルトはいっそう激しく身をよじり、先ほどつけたばかりの拘束具にひびが入る。それを見てもフレグは驚かなかった。


(やはりか)


「もう、すっかり覚醒したみたいだね」


 本人に自覚はないのだろうが、以前とは段違いの魔力量だ。下手をすれば、今すぐにでもワープで逃げられてしまいそうだ。

 ついに拘束具は壊れ、ジルトは台から降りるが、まだ恐怖が勝っているのか、体勢を崩して倒れ込む。


「落ち着いて、俺は君を守りたいんだ」

「嘘!だって、あなたは……酷いことをしたじゃない!」


 自分がされたことを思い出したのか、ジルトは一度込み上げてくるものを抑え込むように口を閉じた。


「酷いこと?あれはただ、君を知るためにやったことだよ。必要なことだった」


 ジルトの相手をしながら、フレグは彼女に近づき、観察を続ける。


(まだ逃げることに意識は向いていない。それでも恐怖からか?魔力の制御が上手くいっていない。このままだとここが危ない)


「君の力はもう俺では抑えきれない。必要なことであれば、俺は何でもやるよ」

「何でも?」


 ジルトはフレグに気圧されたように地面に座ったまま後ろにさがる。


「ああ。ひとまずは、君を一度殺して大人しくしてもらおう」

「殺す?」

「大丈夫、きっと死なないよ。普通の人間なら死ぬけれど、君なら死にかけるくらいだ。

 それを続ける。君が大人しくするまでね」


 ジルトの顔がこれ以上ないほど青くなる。


「じゃあ、一度、おやすみ」


 フレグは呪文を呟いて、あらかじめ用意しておいた剣に炎を纏わせた。そしてその剣をジルトに向けた。



*



 ジルトが男に攫われた後、その場は騒然とした。

 標的であるドラゴンの娘は消え、変わりに大きな水球が空に浮かんだからだ。


「な、なんだあれは」

「流水盾ではないだろう」

「あの子、一組の……」


 そしてその中にはモーリがいた。


「きっとドラゴンの娘に関連している!捕らえろ!」


 ジルトを狙ってきた大人の声を聞いて、レオははっと我に返る。


(こんなところで捕まってたまるか)


「シュレイ!」


 直ぐに逃げようとシュレイに声をかけると、彼はレオの意味するところを理解し、変身の準備に入った。


「カトレア、行くぞ」


 ジルトがいた場所を呆然と見つめていたカトレアの手を取ると、ようやくレオに気づいたが、彼女はその手を振りほどいた。


「カトレア?」

「私は、一緒に行けない」

「何?」


 レオが困惑しているうちに、レオとシュレイ、モーリの周りに黒い靄が現れる。


「ジルを、頼む」


 その言葉に何も返せないまま、レオ達は黒い霧に飲み込まれた。

 瞬きをした後、そこにはさっきまでの風景はなかった。


「山だ」


 シュレイが驚きが入った声で呟く。


「なんだって?」

「ここは、北部の魔の山だ」


 言われてみれば、その通りだった。

 孤児院を出てからしばらく暮らした魔の山の麓にレオ達は移動していた。


「さっきのは、ワープか?」

「そうだろうな。レオが使ったのかと思ったけど、違うのか」

「俺はまだ使えないし、カトレアだってそのはずだ」

「だったら、あの場にいた他の誰かが俺達を逃がしてくれたのか?」

「そうみたいだな」


 わからないが、助かったのは確かだった。

 シュレイは何か考えた後、レオを見た。


「レオ、お前はジルを追え」

「は?」

「モーリなら俺が見ている」

「お前にはモーリがどうしてそうなってるか、わからないだろ」


 すぐにでもジルトを追いたいが、モーリをこのまま放ってもおけない。事情を説明したところで、シュレイが納得するかはわからない。


「モーリが何でこの状態になってるのかはわからない。だが、何となく感じるんだ」


 シュレイはモーリを見てから、またレオに視線を戻す。



「モーリは、海神だな?」



 レオは驚いてシュレイを見つめる。それでシュレイは確信したようだった。


「そしてお前は獅子だ」


 ドラゴンの娘の予言は、獅子と海神を連れてこの国を壊しにくる、というものだ。

 ジルト、レオ、モーリがそれにあたる人物である。


「ジルが覚醒したからなのか?モーリも、レオも、前とは違う気がする」

「それは、そうかもな」


 レオは歯切れ悪く肯定する。

 ジルトが今まで覚醒できなかったのは、一度覚醒しかけた時に無理やり魔力を押し込めたからだ。そして、モーリにある()()()()()()。そのせいでモーリはレオとジルトより()()()()()()()()()()()。ジルトもそれにより覚醒するのに時間がかかっていた。

 レオが四歳の頃、ジルトとモーリを巻き込んだことが原因だ。

 森に行って魔物と遭遇し、ジルトに魔力を使わせてしまった。

 もしあの時、あんなことをしなければ、ジルトはこんな風に困らなかったはずだ。もっと早くイルに色んなことを教えてもらって、ドラゴンの娘としての自覚もあれば、セダムとの会話で存在がばれてしまうようなこともなかった。


「レオ、何を考えてるのか知らないが、今お前にできることをやれ」

「ああ、わかってる」


 今までの人生で、獅子としての役目を果たせているとは思えない。それでも、レオはそれに落ち込んでいる暇はない。ジルトを守らなければいけないのだ。


「ジルが覚醒して、俺も力が強くなった。今までは結界に阻まれていたが、今ならジルの位置がわかる。

 大地の王であれば、半獣人おれと契約なんて要らないだろ。位置を共有するから、お前はそこに向かえ」

「それはありがたいが、そこに辿り着くまでお前と繋がれるのか?」

「無理だ。それにワープもまだできないんだろ。

 そこは大丈夫だ。俺達半獣人は呪文なしでも魔法を使うことができる。何故なら、人間が呪文を唱える魔法は俺達にとって魔法でもなんでもない、自分自身の魔力だけでできることだからだ。

 俺達が呪文を使うのは、自分の力以外を使う時、あるいは借りる時」


 シュレイはレオの肩に手を置いた。


「特に、獅子おまえの力を借りる時だ。

 お前を召喚する魔法を使う。場所は俺の元じゃなく、俺の主(ジル)のところだ」


 シュレイの言葉にレオは驚きながらも、そうであることが当然であるような気持ちでもあった。


「大地の王、獅子よ。我らが源よ。呼びかけに応じ、我らが前にお越しください」


 シュレイの紡ぐ古語の呪文に、レオの魔力が呼応する。

 金の髪は光輝き、その光が徐々にレオの姿を曖昧にしていく。


「頼んだぞ、レオ」


 出会いは最悪だった。

 急にレオ達の前に現れてジルトに会わせろと言った。初めて会ったはずなのに、まるで昔からの知り合いのようにジルトが接するのを見て、つい傷つける言葉を吐いた。

 特別なジルトとの繋がりを羨みも妬みもしたが、その繋がりによってレオが助けられてきたのも確かだ。今もこうして、ジルトの場所がわかる。


「ああ、頼まれた」


 赤い輝きがレオを呼んでいる。シュレイが召喚先として提示した、ジルトの場所だ。

 シュレイにとって、ジルトはこの美しい光のような存在だったのだろうか。

続きます。

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