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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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怪しいやり取り

 クラムとジルトが寂しくも穏やかな別れをしていた頃、別の場所では不穏な空気が漂っていた。

 収穫祭に盛り上がる中央の外れで、フードを被った人間が三人集まっている。

 二人は白いローブで、あとの一人は黒いローブだった。


「魔女の生き残りについて、新しい情報が入ったって、本当?」


 そう言ったのは、黒いローブの方だった。

 少女から女性に成長する途中の声だ。


「ああ、まあ随分前だけどね」


 答えたのは白いローブを纏った、背の高い方だった。声は低くはないが、確実に成人した男性のものだ。


「以前はあれほど情報を寄こせと言ってきた君たちが、しばらく来なかったから」

「それは……長が一度魔女については置いておくって決めたから」

「なぜ?」

「魔女狩りが一番気を張っているのは収穫祭で、それに向けての備えを怠ってはならないから」

「まあ、新しい長になってからは魔女狩りというより、そちらの方がメインだものね」


 やれやれ、とでもいうように、白いローブの男が肩をすくめる。


「いいから、教えてよ」

「いいの?長の意向に反しても」

「これは一族は関係ないの。私自身が知りたいこと」

「ふうん、じゃあ、別にお代を頂かないとね」


 白いローブの男が口角をあげると、黒いローブの少女は身を固くした。


「当然でしょう?俺が契約しているのは魔女狩りの一族。君じゃない」

「お金は――」

「ないだろう?そんなことはわかってるよ。

 なに、そう難しいことじゃない。君にして欲しいことがあるのさ」


 黒いローブの少女は男の話を聞いて驚いた顔をしたものの、覚悟を決めたように頷いた。


「良かったのですか?」


 黒いローブの少女が去った後、後ろに控えていたもう一人の白いローブの人物が訊ねる。こちらは女性の声だった。


「何が?」

「そんな簡単に情報を渡してしまって」

「ああ、いいよ、別に。あの子どもにはそれくらいしか価値がないだろうし、一族の長――現呪いの保持者が()()に気づいたのなら、気づきかけているのなら魔女狩りの一族とつながっておく意味もない。

 それに、本命は次だよ」


 白いローブの男女の方に、一人の少女が近づいて来た。

 こちらはローブなど被っていない。

 金色の髪に、金の瞳。


「いかにも怪しい格好ね」

「やあ、この前はどうもありがとう

 ――イーリス」


 ジルト達が中央を目指していた時、偶然知り合ったイーリス。

 ジルトが研究施設に攫われて、しばらくは自責の念からかレオ達と共にジルトを探していたが、一向に手がかりが掴めない中テアントル入学を迎え、レオ達とはそれきりだった。クラスは同じ一組だが、交流はない。


「別に。私だって秘密を抱えたままなんて嫌だもの」

「それにしても、素敵な服だね。以前会った時よりも目立ってるんじゃない?」

「目立ってる?センスのない人ね。こういうのは華やかっていうのよ」


 今は学校は休みであり、制服を上に着る必要はない。

 イーリスは正装まではいかないものの、かなり凝った造りの服を身につけていた。生地は張りがあり、かつ柔らかに裾を落としている。彼女の色ともいえる金や黄色ばかりが使われているので、男が目立つというのも無理はない。


「今まで散々放っておいたくせに、今更家に戻ってきて欲しいだなんて、都合が良すぎるでしょ?

 こういう服の一つや二つ買ってもらわないと、やってられないわ」

「何たって、貴族だからね」

「ええ」


 イーリスは誇らしげに顎を持ち上げた後、すぐに不機嫌そうに口を尖らせる。


「本当はそこら辺の貴族なんて及ばなくらいの地位があったの。

 それなのに、ドラゴンの娘なんていうのがいたせいで……!」


 イーリスは服をぎゅっと握り締める。


「まあまあ落ち着いて、シャガ家のイーリス様」

「茶化さないで!

 あなた、本当にドラゴンの娘をどうにかできるの?!私が学校の位置を送り始めてからもうしばらく経つのに、全然進まないじゃない!」

「どうにかできるし、進むよ。

 君のおしゃべりが長いせいで本題にいけてないだけだ」


 イーリスはきっと男を睨みつける。


「俺も悪かったよ、だから聞いてくれ。

 準備が整った」


 イーリスはぱっと明るい顔になる。


「本当?!」

「ああ。だから、今日は君にその時どう動いて欲しいか、伝えに来たんだ」

「任せて。それで、何をすればいいの?」


 イーリスは男の話を聞いてから、嬉しそうに街の方へ出て行った。


「あんなのが、本命ですか?」

「失礼だよ、元王族に」


 全く気持ちのこもってない声で男が言う。


「王族、なんて。今の王の家系以外は大した力もないでしょう」

「普通なら、王族ではなく貴族として生きていくんだろうけど、この国はちょっとどころじゃないくらい歪んでいるからね」

「歪んでいるのはあの娘では?」


 呆れたように言う女の顔を覗き込むように、男が顔を近づける。


「何ですか?」

「いや、君はイーリスが嫌いなんだと思ってね」

「誰が好きになるんです?

 ドラゴンの娘という存在のせいで自分は不幸だと思い込み――まあ、それには同情しますが――内心では自分がドラゴンの娘ではないかと、それを自慢に思って生きていた。それで本物が見つかればがっかりし、本物のドラゴンの娘に嫉妬するなんて」

「今日は饒舌だね」

「ええ。

 そこまでは別に理解できなくもないですが、自身の悪意でドラゴンの娘は私達に攫われたというのに、それを反省することも恥じることもなく、彼女がドラゴンの娘だから悪かったんだと言い、怒られて怖かったと被害者のように振る舞う姿には虫唾が走ります」

「ああ、ごめん、悪かった。君はあの子を気に入ってくれてたものね。

 彼女に会う時はもう君を連れてこないよ」


 降参とでもいうように男は手を挙げる。

 女はまだ言い足りなかったようだが、はあと大きく溜息を吐いて、呆れた顔で男を見る。


「次彼女に会う時に、私がいないなんてあり得ません。次は、待ちわびた時じゃないですか」

「そうだね。呪いが解けて離れてしまったお姫様を、迎えにいかないと」


 気が昂っているのか、男の声がやや震えている。




「ジルニトラ、今度こそ逃がさないよ」






続きます。

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