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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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予想外の出会い

 ゆっくりと気持ちを落ち着かせていると、足音が近づいて来た。ジルトは慌てて召喚していた植物を消した。それと同時に現れたのは、灰色の髪に青い瞳の青年――ファレンだった。


「やあジルト、久し振りだね」

「久し振り、どうしてここに?」


 この場所は人通りもなく、目的があって訪れるような場所ではない。


「君が中々会いに来てくれないから、寂しくて来てしまった」

「えっと、それは、ごめんなさい」

「ごめんね、冗談だよ、謝らないで」


 ファレンは申し訳なさそうに笑った。

 そして座ったままのジルトに近づくと、その身体を起こし、服に着いた砂を払う。


「会いたかったのは本当だよ」

「ありがとう。私も会いたかったよ」


 ジルトがクラブに入ったこともあるが、色んなことが起こるせいで図書館に行く暇もなかった。


「今日は収穫祭に来てたの?」

「うん」

「随分早いんだね」

「本当は買いたい物があったから――」


 と言ってからジルトははっと気づく。


「買うものがあったのなら、どうしてここに?」


 この場所にいる説明は中々に難しいし、ヒユのことは誰にも言えない。


「なんて、そんなことは訊かないよ」


 身を固くしたジルトを気遣うように、ファレンは優しく言った。


「僕も、ジルトの問いに答えてないしね。

 ジルトが買いたかったものは何?」

「痛み止めが欲しかったの」

「ジルトはどこか痛い?」

「ううん。私じゃなくて家族なんだけど、成長による痛みが酷くて」

「ああ、そういうことか」


 ファレンは自分の鞄を開くと、そこから箱を取り出した。手の平に収まる小さな木箱で、ファレンがその箱を開くと今度は丸い容器が現れる。


「これをあげるよ」

「え?いいの?」

「うん。これは僕が調合したものだから、ジルトが求めていた薬ほどの効果があるかはわからないけど、痛み止めとしては十分に効くと思うよ」


 ファレンは箱から取り出した丸い容器だけをジルトの手に握らせる。


「ファレンも薬を調合することがあるの?」

「僕は、そうだね。ジルトもある?」

「ううん、私はしないけど、ルームメイトがよくしてる」


 ファレンのにこやかな笑顔が少し崩れる。それはジルトが気づかないくらいの変化だった。


「その子は――ジルトは、ジルトの周りのみんなは元気?」


 ファレンは表情を隠すように鞄に視線を落として空になった木箱をしまう。


「そうだね、モーリは、薬を渡したい子はちょっと前まで体調を崩してたけど、元気かな」

「そう、それはよかった」


 顔を上げたファレンの顔は穏やかだった。


「そういえば、みんなにファレンの話をしたことはなかったかも」


 ファレンと初めて会ったのは、ジルトを攫った男の研究室から逃れ、さらに魔女狩りの一族であるクラムのもとを離れた後、みんなに合流する前だった。再び会えたことが嬉しくて、ファレンの話をするようなことはなかった。


「ああ、いいよ、僕の話は」


 ファレンは悲しそうな笑みを浮かべる。


「きっと会う機会もないだろうし、秘密にしておいて」

「わかった」


 できればみんなに紹介したかったが、ファレンがそう言うのなら、ジルトは秘密にしておいても構わない。二人だけの秘密、というのも楽しそうだった。


「ああ、ジルトは買い出しの途中だったよね。薬は代わりを渡せたから大丈夫だと思うけど、早く帰らないとみんなが心配するんじゃないかな」

「そうだった。薬をありがとう、ファレン。また図書館に会いに行くね」

「そうしてくれると嬉しいよ。またね、ジルト」


 ファレンは優しくジルトを見送ってくれた。


 出た時より人が多い通りを、ジルトは進んでいた。話し声は朝より大きく、がやがやとした音がするだけで人々の言葉は拾えないくらいだった。


「ジルト!」


 そんな中で、自分を呼ぶ声だけはやけにはっきりと聞こえた。

 ここで聞くとは思わなかった声に、ジルトは体が固まる。ぐいっと腕を引かれて、自分を呼び止めた人物が目に映って、ジルトは信じられない気持ちで目を見開く。


「クラム、さん」


 顔の右半分が髪に覆われている目の前の男は、ジルトが研究所から逃げ出した先で保護してくれた人だ。

 ドラゴンの娘だと疑われて王宮に連れて行かれそうになっている少女達を匿い、育てている魔女狩りの一族の一人。そしてジルトがドラゴンと魔女の子であると知っている。


「君を、ずっと探していたんだ……」


 半分だけ見える顔はとても疲れているように見える。前に会った時よりも顔の肉がそげ、目の周りが暗い。


「川の、近くに……」


 その後も何か続けたそうに見えたが、クラムはジルトに覆いかぶさるようにして倒れる。何とかジルとまで倒れ込むことにはならなかったが、意識のない大人は重い。

 空気の性質、とレオが呼んでいる魔法でクラムの体を浮かし、ジルトは歩き出した。


(学校から離れちゃうけど、確かお店を抜けた所に川があったはず)


 大きな大人を背負って歩くジルトに目を剥く人も多かったが、人で溢れかえっている道では次の瞬間にその姿を見失う。色々な人に驚かれながらも、ジルトは人通りを抜け、川の近くまでたどり着くことができた。


「はぁ!」


 川の近くの木の陰にクラムを下ろして、ジルトは大きく息を吐いた。


(なんとか運べたけど、どうしよう)


 ずっと寄り道をしてしまっているので早くみんなの元に帰りたいが、意識のない人をジルトは置いていけなかった。


「クラムさん」


 名前を読んでみても起きる気配はない。

 ジルトはハンカチを取り出して、川の水に浸し、絞ったものでクラムの額を拭った。

 悪夢にでもうなされているかのように、クラムの額には汗が浮かび、苦しそうに眉根が寄せられていた。ジルトが何度か川にハンカチを浸したところで、クラムの目が薄っすらと開く。


「う、」

「クラムさん、聞こえる?」

「ジルト……」


 ようやく気がついたようで、クラムは目を大きく開き、木に預けていた体を少しずつ起こす。


「ここは、川の近くに、運んでくれたのか」

「うん、大丈夫?顔色が悪いけど……」

「ああ……やはり、そうだな」


 クラムは何かを確信したかのように額に手を当てる。


「ジルト、君がいると、魔女の呪いが弱くなる」


 魔女。

 初めてクラムからその言葉を聞いて、ジルトは逃げ出したくなった。


「クラムさん、私もう行かなきゃ」

「待ってくれ」


 クラムは立ち上がりかけたジルトの手を引き、自身の傍に寄せる。


「また、あの時のように何も言えずに、君を行かせることはできない」


 あの日、ジルトがクラムに瞳を見られた時、ジルトは謝罪と感謝の言葉を残してその場を去った。クラムの言葉は何も聞かずに。


「どうか、少しだけ、俺に話す時間をくれないだろうか」


 切実なクラムの声に、ジルトはその場を離れることができなかった。


「わかった、話をしよう、クラムさん」


 自分の手に触れていたクラムの手を解き、クラムを振り返って目を見て言った。

続きます。

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