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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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収穫祭

 ジルトは朝早くから外に出ていた。収穫祭では多くの農家が集まる。それぞれが立派な自慢の作物を展示するのだが、そこで少し物を売ったりもする。ジルトはそれを目当てに、なくならない内に買い求めに向かっていた。

 モーリの頭痛は治まったが、今度は体が痛いそうだ。ウォートいわくそれは成長によるものということで、心配する必要はないが、痛みは続くそうで、痛みを鎮める薬をジルトは買いに出たのだ。

 薬の類についてはウォートが詳しいので一緒に行くつもりだったが、ジルトが支度を終えた時点でウォートは深い眠りについたままだった。妹の生存を知ってから、今まで以上に色々な本を読み漁っているウォートを無理やり起こす気にはなれなかった。


 歓迎祭とは違い、学生中心の祭りではないので、朝早い時間帯でもそれなりに人が多い。

 展示物や店を見て回る人もいれば、今年の天候や作物の出来具合について立ち話をしている人も多く、会話がそこら中で起こっている。


「最近はどう?うちは土地が少し荒れててね」

「あれ?南部に近かったかい?」

「いや、どちらかとういと北部よりなんだけどね、獣に荒らされてる感じでさ。土自体は逆に状態がいいんだけど」

「それは、近くの山の獣もいい物が食べれて活発になってるってことなのかな。でもそしたらわざわざ畑を荒らしに来るとは思えないけど......」

「ああ、だから変だなと思って。あんたは南部に近いのかい?」

「そうさ。だからいい土をよく持って行かれるというか、養分が奪われているというか」

「王都で持ってる農園があるって、本当だったのかい?」

「恐らくね。うちらみたいに土の力が必要なわけじゃなく、魔力で物を育ててるらしいんだけど、最近は魔力不足で土を良くして数を保ってる、みたいな話を聞いたことがあるんだ」


 たまたま耳が拾った会話が気になって、ジルトは思わず足を止めてしまった。


「おや、お兄ちゃん。悪いね、何か欲しいものでも?」


 展示を行っている方の男性がジルトに声をかける。


「えっと……」

「おっと、話の方に興味があったかな?」

「やっぱ思うかい?ドラゴンの娘が何か起こしてるって」


 立ち話の相手の言葉に、ジルトは咄嗟に返事ができなくなった。


「あ、えっと……そういった話が、あるの?」

「ん?聞かないか?ドラゴンの娘が見つかったって発表があったけど、まだ捕らえられてはないだろ?」

「そうなんだ、いや、そうだね」

「ああ、だからさ――」

「中々戻って来ないと思ったら、お前はお遣いもまともにできないのか?」


 困っているジルトの後ろから声がした。

 聞いたことはあるが、なるべく聞きたくはない声だ。


「こ、これは、騎士の方!」


 人の良さそうな店の人が、顔を青ざめさせ、姿勢を正す。


「あ、その子は騎士様の……」

「そうだ」


 後ろを振り向くこともできず固まってしまったジルトの足に衝撃が与えらる。ジルトはバランスを崩し、地面に倒れてしまった。


「こういうことだ。そこに置いてあるのを二つくれ」

「あ、これは売り物ではなく」

「いいから、釣りは要らない」

「は、はい、かしこまりました。ありがとうございます」

「立て、いくぞ」


 ジルトが大人しく立ち上がると、首の後ろを掴まれる。


「邪魔したな」


 そのまま引っ張られて、ジルトは体勢を崩したまま、自分を掴んでいる人物についていくしかなかった。

 解放されたのは中央の大通りから離れた場所だった。見覚えがあると思えば、ジルトがバルディアにレオを悪く言われて魔力を暴走させた場所だった。


「あなたがバルを操ったの?」


 近くの瓦礫に座った男――ヒユ・アマラに言うと、彼は藍色の瞳を楽しそうに歪ませた。


「気づいたか?」


 歓迎祭の時、バルディアは何故かジルトとサクラの待ち合わせ場所を知っていた。彼がどこかでそれを聞いたのではなく、ヒユがジルトの後をつけてこの場所に誘導したのであればおかしくはない。

 それに学校区から外れた場所で人がいない場所がたくさんある。その中で今ここに来たということは、ただの偶然にしてはおかしい。ヒユはわざわざ選んでここに来た。


「ただの嫌がらせだ。

 バール家はドラゴンを信仰している。大した面倒にはならなかっただろ?」

「そんなことは関係ない。バルはそれで――」

「嫌な思いをしたって?関係ないね。元々彼にそういった気持ちがあった。だから魔法にかかった。自身の弱さだろ」


 それをジルトは否定できなかった。

 バルディアは貴族で、平民のジルトが推薦されてテアントルにいることを気にくわないと思っていた。そこにはヒユの手がかかってるわけではない、彼自身の考えだ。


「だからって、人にそんな魔法をかけることが許される訳じゃない」

「ふうん、普段は怯えてるくせに、多少は口答えできるじゃないか」

「うわっ!」


 ヒユは立っていたジルトの足を掴み、引っ張った。魔力を使っているらしく、ジルトが頭を打つことはなかったが、ヒユの膝の上に足だけを上げて地面に倒れている今の姿勢は少々苦しい。


「ここに印があれば、少しは俺の気持ちも晴れたのかな」

「なに?さっき、私を蹴ったのと関係があるの?」

「ああ、さっきの」


 ヒユはジルトの足首を握っていた手に力を入れる。


「うっ!」

「俺が蹴ったのはここ。足首から踵にかけて、奴隷には所有者の家紋が刻まれる」

「奴隷……」


 ジルトは初めて攫われた時に、バンダがジルトを攫った男の足首を見ていたのを思い出した。


「あいつらは俺を騎士と勘違いしてただろう?まあ、王直轄軍に配属されるほとんどが騎士の資格があるわけで、勘違いするのもおかしくないが」


 ヒユは倒れているジルトの背中に腕を回して、彼女の体を持ち上げ、自分の膝に座らせる。


「にしても、お前は嘘が下手だな。あんな反応したら、すぐにドラゴンの娘だってばれるぞ」

「そんなこと、ないわ。離して」

「やっぱり嘘が下手だ。さっき困ってだろ」


 ヒユは膝から下りようと体を動かすジルトを抱きすくめる。


「もしお前がドラゴンの娘だってばれたらどうなる?王宮に連れていかれて、俺では手を出せない場所に囚われるだろう?」


 ジルトの耳の近くで響くヒユの声は冷たく、重い。


「もしそうなったら、俺は直ぐにお前を殺さなきゃならなくなる。そんなのってないだろ?

 せっかく色々考えてるのにさぁ。どんな状況で、どんな方法でお前を殺すのか」


 ぞくり、とジルトの体に悪寒が走る。


「ああ、やっと怯えたな。お前が怖がるのは気分が良い。

 どうした?魔力が揺れてるぞ?また暴走でも起こすのか?」

「そんなこと、しないわ」


 ジルトは少し離れた地点に植物を召喚し、その茎に自分を掴ませ、引っ張らせることでヒユの元から逃れた。


「は、流石とでもいうべきか。地の性質の魔法も使えるわけだ」


 ヒユは立ち上がり、身体についた土を軽く払う。


「その調子で、俺からも、王からも逃げられるといいな」


 最後に不気味な笑みを残して、ヒユはこの場から離れていった。

 ジルトはしばらく警戒してヒユの姿を目で追った。彼の姿が消えてからも、身体に上手く力が入らず、その場に留まらざるを得なかった。

続きます。

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