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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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ドラゴンの目覚めについて

 シュレイとレオの部屋に入り、カトレアとジルトがベッドに腰かけ、シュレイとレオは自分の椅子に座った。


「バンダさんは座らないの?」

「一応お仕事中だからね」


 バンダはカトレアの近くに立つ。


「それで、話ってなんだ」


 レオが訊ねると、シュレイは真剣な面持ちで口を開く。


「ドラゴンがもう直ぐ目を覚ます」

「ドラゴンが?!」


 レオが声を抑えつつ驚く。


「そうだ。山に帰ったら妖精たちが騒いでた」

「あの、ごめんだけど、それってどういうこと?」


 バンダがそろりと手上げる。


「まずドラゴンって今も生きてるの?今眠ってるってこと?」

「私もわからないな。ジルは知っていたのか?」

「私も詳しくは知らないけど、精霊が言ってた。ドラゴンが長い眠りについた頃に、精霊や半獣人は山に追いやられたって」


 魔の山にいたころ、妖精のルギフィヤが教えてくれたことだった。


「そうか。歴史の授業はあるにはあるが、今はまだ魔法の歴史だからね。魔力をドラゴンに与えられて、どうやって今の魔法が確立されていったかの段階だ」

「ドラゴンがどうの、王族がどうの、は確か一年の秋の授業ですよ」

「バンダはどう習ったんだ?」


 レオが訊ねると、バンダは一度記憶を探るように目を閉じた。


「悪い魔女を退治した王族が、その礼としてドラゴンに魔力をもらった、みたいなことは習うけど、ドラゴンのその後は特にないかな」

「悪い魔女だと?」

「シュレイ君、怒らないで。そう言われたってだけの話だよ」


 弁解するバンダに、ジルトはあれ?と思う。


「バンダさんは魔女がどういう存在か知ってるの?」

「魔女がどういう存在か、は知らないけど、ジルちゃんがドラゴンと魔女のハーフってことは知ってるよ」


 ジルトが自身の母親を知ったのはつい最近だ。シュレイにチョーカーを送る際に、イルの日記で狼の半獣人について調べたことで辿り着いた。


「バンダは自分でそこに辿り着いた。モーリやカトレアには、ジルが魔女狩りの一族の所にいた時に話した」

「そうなんだ」

「隠してたわけじゃない。余計な負担を増やしたくなかった」

「うん、ありがとう」


 あの日何もわからないまま孤児院を出た。自分がドラゴンの娘であることですら、衝撃的な事実だったのに、悪いと考えられている魔女の子どもであることを一度に聞いていたら受け止められなかっただろう。


「それで、ドラゴンが眠っているというのはどういうことだ?」


 カトレアの問いに、レオとシュレイが顔を見合わせる。


「俺は詳しく知らない。生まれた時にはもうドラゴンは眠っていたから。ただ長い眠りについているとだけ言い伝えられていて、ジルが生まれた時に僅かに目覚めたと聞いている」

「俺も詳しくは知らない。イルは何か知っているようだったが、それを教えてはくれなかった。

 ドラゴンが人間に魔力を与えた後、しばらくしてから眠りについたと聞いている」

「詳しく知ってるのは永く生きる精霊たちだろうな」

「精霊から何か聞かないのか?」

「俺達半獣人と精霊はあの山に追い込まれた点では一緒だが、元々交流があったわけじゃない。仲が悪いことはないけど、いいわけでもない」

「そうか」


 シュレイとレオのやりとりを見ていたバンダが、難しい表情になる。


「君たちの先生でもある孤児院のイルさんって、何者なんだろうね?」

「え?」


 バンダはジルトの方を向き、薄っすらと目を開く。


「半獣人さえドラゴンについて詳しくは知らないのに、何か知ってる様子だったんでしょ?

 それに、ジルちゃんがドラゴンの娘であると知っていて育てていた。もしただの孤児院の経営者なら、親のいない子どもを育てることはあっても、ジルちゃんがドラゴンの娘だと知ってるのはおかしい。

 それに最初にジルちゃんが攫われた時、レオ君はイルさんならワープを使えるって言ってたよね?その魔法は一般的には知られていないし、使える者も十人といないんだ」


 バンダの疑問がジルトにはわからない。

 イルは記憶の限り初めからジルトの側にいたし、最初から最北端でも暮らしていけるほどの魔力がある人だった。それを不思議に思うことはなかった。

 それでも、孤児院を出てから今までの経験で、イルがとても優秀な人物であったことはわかる。


「イルはイルだ。あいつが何者かなんて、どうでもいい」

「そうだね。失礼いたしました。これは俺の勝手な好奇心、忘れて」

「ただ、もしかするとイルはドラゴンに会っているかもしれない。

 ジルが生まれた時、ドラゴンが僅かに目を覚ましていたなら、おかしい話じゃない。

 イルは、俺達を託されたと言っていた」

「託された?」


 そんな話はジルトも聞いたことがなかった。

 レオははっとしたように目を開き、慌てた様子で小さく首を振る。


「あまり深く考えなくていい。孤児院に子どもが勝手に来るわけじゃないってことだ。

 誰かが孤児院にジルを運んだんじゃなく、イルがドラゴンの元に向かっていたなら、おかしな話じゃないなと思っただけだ。あいつは魔の山にも入れるほどの力を持ってる」

「そうかもしれないな。

 バンダ、お前の勝手な好奇心で話を乱すな。ドラゴンは長い間眠っていた、どうしてかはわからない。そしてそろそろ目覚めそうだって話だっただろう?」


 カトレアがバンダに厳しい目を向けると、彼は反省しているように項垂れだ。


「本当に失礼いたしました。仰る通りで」

「ドラゴンが目覚めるとなると、色々と変わってくるな。王がドラゴンの娘を求めたのは、魔力が欲しいから。

 恐らく王族は昔魔女とドラゴンと人間に何があったのかを知っている。とするなら、ドラゴンが眠っていることも知っているだろう。ではなぜ眠っているドラゴンの魔力を求めなかったのか。単に魔の山に入れないというのもあるだろうが、ドラゴンを恐れているからだと思う。

 ドラゴンの娘であれば、まだ未熟な存在ならば利用できると考えたのではないかと思う」


 カトレアが言うと、レオがそれに「そうだな」と同意する。


「ドラゴンが目覚めて、王族にとっての脅威となれば、王族はそれで終わりだ」

「ああ、ジルをどうこうできないだろうし、ドラゴンを後ろ盾に王族に要求すれば素直に従うだろうな」

「ただ一つ気になっているのは、ドラゴンにその力があるのかってことだ」


 シュレイが口を挟む。


「ドラゴンが人間に魔力を渡して、しばらくしてからドラゴンは眠った。それを機に俺達は山に追いやられたわけだが、それまではドラゴンは起きていたんだろう?

 ドラゴンが眠ったことで王族は後押しされただけで、魔力を持った時点で人間は半獣人を迫害したって聞いてる。山に追いやられるまでの間、ドラゴンが何もしないとは思えない。何かをする力がなくて、それで眠ってしまったんじゃないか?」

「それはありえるだろうね。ジルちゃんが生まれて僅かに目覚めたってことは、その誕生に何かしらの反応を示した訳で、再び起きようとしているなら、起きたいと願っているはずだ。したくてもできない、そうする力がないと考えられる」


 バンダはそう言ってから首を傾げた。


「あれ?ジルちゃんの誕生って、最近だよね?歴史的には。

 でも魔女が絶やされたのは人間が魔力を得た時期と一致する、とするならだいぶ前の話だよね。どうなって――ああ、すみません、俺の勝手な好奇心が、いたっ!」


 カトレアが軽くバンダのすねを蹴っていた。


「それには答えてやれる」


 そう言ったのはシュレイだった。


「魔女は人間に近いが、人間ではない。元は人間だったから、身体自体は人間と変わらないが、繁殖の方法が違う。魔女は女性しかいない。人間と同じ方法で子どもをつくるわけじゃない」

「だから別に時期がずれてもおかしくない?」

「ああ。魔力の結晶は人間も作れるだろう?魔女はそれを卵として後継を作っていく。結晶を作った者、つまりは母以外の魔女も卵に魔力を注ぐことでその結晶から魔女が生まれるんだ」

「そんなことが可能なのか?」


 カトレアは大きく目を開いてシュレイを見る。


「ああ。魔女は魔力に適性がある存在だ。呪文なしでも魔法を操れる俺達以上に、魔法に優れている。生命の力を魔力に変えることもできる。

 ジル以外の魔女が滅んだのは約三百年前。ジルの母が滅ぶ前に、ジルの卵としての魔力の結晶はできてたんだろう。他の魔女がいなくて育たなかったジルの卵に、二百年以上かけてドラゴンが魔力を注いだのか、僅かに目覚めた時に誕生までにあと少し必要だった魔力が注がれたのかはわからないけど、ドラゴンの魔力でジルが誕生した」

「そうなんだね」


 ジルトは親を知らない。ドラゴンも魔女も会ったことはない。それでも、自身の誕生を、その起こりを少しでも知ることができて嬉しかった。


「バンダの好奇心もたまには役に立つな」

「お褒めに預かり光栄です」

「だが話が取っ散らかるのに変わりはない」

「失礼いたしました」


 カトレアは頭の中を整理するように一つ息をついた。


「とりあえず、ドラゴンが目覚めそうなのは間違いないな?」

「ああ。力の有無は置いておいても、俺達の知らない過去について聞くことはできるだろう。

 何より――」


 シュレイはそこでジルトを見た。


「ドラゴンのことをジルが知れば、成長につながる。今はまだドラゴンとしての覚醒がされていないが、恐らくそれも叶う」

「そうすれば、ジル自身が完全にドラゴンの力を得られるというわけか」

「そうだ。そうしたら、誰にも文句は言わせない。ジルがしたいようにできるよ」


 シュレイが優しく微笑んだ。


「大きな力を持つのは少し怖いけど」

「大丈夫だ、お前は正しく力を使える」


 レオが怯んだジルトにかけた言葉に、他のみんなも頷く。


「ありがとう」

「目覚めるまではまだ少しかかる。ジル、気負い過ぎちゃだめだよ」


 カトレアがそっとジルトの頭を撫でる。


「うん。ありがとう、カトレア」


(もし、反王政派と今の王族での争いが起きなければ、上手く今の悪い環境だけを変えることができれば、カトレアが危険な立場になることもない)


 そう思うと、完全なドラゴン力を得ることはとても力強いものに感じた。

続きます。


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