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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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夏期休暇最終週

 夏期休暇終わりを迎える頃、学校区に少しずつ人が戻ってくる。また、戻ってくるだけでなく、夏期休暇前に比べると人が増える。寮の受け入れが開始されているからだ。


「収穫祭、お兄ちゃんはどんなのか知ってるの?」

「もちろん。俺らが主役だからな」

「主役?」

「そう。収穫祭は今年もいっぱい作物が取れたことに感謝するお祭りだ。俺らは皆が食べるものを育てるだろう?俺らが主役ってわけだ」

「すご~い!」

「うちからもでっかいカボチャを出すんだぞ?」

「そうなの?」

「ああ、終わったらみんなで食べるんだ」

「わ~い!ごちそうだ!」


 寮の受け入れに加え、学期が始まる前に収穫祭が催される。

 中央の平民に農家が多いが、気候の関係もあって、南部で農業に従事する者も多い。それでも中央で集まって祭りをするのは、この国が遥か昔に食料の危機に陥ったことにある。王が立つ前の話であるが、再び豊かになったこの地を決して失わないように、王政が開始されたあとも続いているという。

 楽しそうに中央の街を歩く兄弟と同じように、外を出歩く人々は明るいお祭り気分だというのに、ジルトの気は重かった。


――もしかしたら、予言のようにこの国を壊したいと思うのかもしれないね――


 リアンの言葉が忘れられない。


「ジル、また考え事か?」

「レオ……」


 リアンのことはヒユのように口止めされているわけではないので、素直にレオ達に話してある。


「いずれ知ることになるんだから、その時考えりゃいいんだ」

「うん、そうなんだけど」

「気になるのはわかるが、楽しいことに目を向けろよ」


 そのためにレオは外に連れ出してくれたのだ。


「最初に行った通り、俺はお前がわざわざ危険を冒してまで、他の者を助ける必要はないと思っている」

「レオ、私もうそんなこと思えないよ」

「わかってる。お前はきっとやるんだろう。この国を変えて、人々を助ける。優しいからな。

 だが、だからといって思い詰める必要はない。お前にその義務はない。お前の人生全部をそれに使う必要はないんだ」


 だから、楽しいことに目を向けろ、と言ったのだろう。


「予言なんて気にするな。お前は自分の意志で決めたことをやる。変な流言に惑わされることはない」

「うん、そうだね」


 何をどうするのかを決めるのはジルトだ。自分がしっかりすればいい、とジルトは思った。


「ねえ、レオは私が誰かに呪いをかけたって、そのことには心当たりがないの?」


 前を歩いていたレオが足を止め、ジルトを振り返る。


「ない」


 きっぱりと言い切ったレオが嘘をついているとは思えない。ただ、青い瞳は少しだけ寂しそうだった。


「ジルは自分が呪いをかけたと思っているのか?」

「ううん。そんなことした覚えはない。でも、私は小さい頃の記憶があまりないから……」


 ジルトが五歳の時、レオを護ろうとして魔法を使った。初めての魔法に、ジルトは制御が上手くできずに記憶を失うはめになった。ジルトはそのことを知らない、覚えていない。


「大丈夫だ、お前は人を呪うような人間じゃない」


 俯いたジルトの頭をレオが優しく撫でる。


「ほら、行くぞ」


 ジルトの手を取って、歩き出す。向かうは中央の端。カトレアを迎えに行くのだ。


「おや、これはびっくり」


 南部に入る門の近くまで進むと、カトレアとバンダに出会う。


「ジルちゃん!久し振り~!元気にしてた?」

「バンダさん!」

「ああ、純粋な笑顔が眩しい!髪切ってしまったのか、残念だねえ」


 バンダがジルトの髪に触れようと伸ばした手を、カトレアが払う。


「気持ち悪い」

「うう、酷い!」

「レオ、迎えに来てくれるとは聞いていたが、良かったのか?」


 カトレアとしては、ドラゴンの娘であるジルトが王都に近づくのが心配なのだろう。


「ああ、気分転換だ。色々あってな、後で話すが」

「そうか。

 ジル、久し振りだな」


 カトレアはバンダを押しのけて、ジルトを抱きしめた。


「カトレア、会いたかったよ」

「私もだよ、ジル」


 結局深くは踏み入らなかったが、ジルトはまだカトレアが王族であることについて複雑な思いを抱いていること、王都で起こっている出来事、今後彼女がどうするつもりなのかについて気になったままだった。王都に戻ることもカトレアは乗り気ではなかったし、それでも戻ったからにはそれなりの事情がありそうで、彼女が心配だった。


「レオ君、俺らも抱擁しておく?」

「遠慮する」

「みんな冷たい、久し振りの再会なのに」

「ジルはダメだからな」

「わかってますよ、ご主人様」


 バンダは悲しそうに肩を落とした。


「それはそうと、モーリ君とシュレイ君は?一緒じゃない?」

「シュレイはまだ戻って来ていない。モーリは体調を崩している」


 本人は大したことがないと言うが、頭痛がするというので寮に置いて来た。モーリと同室の学生は面倒見がよく、まだ幼いモーリの看病をしてくれるとのことで任せたのだ。


「そっか、残念だね」

「バンダさんはしばらく中央にいるの?」

「収穫祭の間はいられるかな。その間にシュレイ君も戻ってくるし、モーリ君も良くなるだろうから、二人にはあとでゆっくり会おうかな」

「きっとモーリは喜ぶよ」

「そうだね、シュレイ君は嫌がりそうだけど」

「そうかな?」

「いや、ほんと、反抗期の少年少女の多いことよ。素直なのはジルちゃんとモーリ君だけ」

「何か文句があるのか?」

「滅相もございません」


 カトレアに詰められ、レオには睨まれたバンダは、ほら~とでも言うようにジルトを見た。


「はあ、いいから、行くぞ」


 呆れたようにカトレアが言って、四人は寮に向かった。

 着いた時に、ちょうどシュレイと会った。


「シュレイ!久し振りだね」

「ジル!元気だったか?」


 山に戻っていたシュレイは、以前とは違い耳飾りを着けていた。瞳と同じ金色のものだ。魔力の結晶だろう。


「元気だよ。シュレイはたくましくなった気がする」

「そうだな、色々とさせられたから……」


 シュレイが遠い目をする。


「でも、これでジルの隣に堂々と立てる」


 シュレイはジルトの送ったチョーカーに手を当てた。


「順番を間違えて分不相応な頼みをするから、後で痛い目見るんだろ」

「うるさいな、レオには関係ないだろ」

「二人とも、久々に会ったんだから喧嘩は後にしてくれ」


 カトレアが呆れて言う。


「カトレア、久し振り。少し疲れているように見えるけど、何かあったのか?」

「ああ、まあ、王都に戻っていたからな」

「そうか、大変だったな」

「やあ、シュレイ君、お久しぶりだね」

「なんだ、バンダもいたのか」

「ああ、やっぱりね……」


 バンダが泣く真似をするが、ジルト以外には目も向けられなかった。


「ちょっと話したいことがある。バンダは寮に入れるのか?」

「問題ないよ。収穫祭の間はここに泊まるから」

「そうか。モーリはどうした?」

「具合が悪くて休んでる」

「大丈夫なのか?」

「同室の人が看病してくれてるよ」

「なるほど。じゃあ、モーリには後で伝えよう。一回俺の部屋に入ってくれ」

続きます。

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