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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
62/116

リアン

 ジルトが目を覚ました時、そこはもう隠し廊下の中ではなかった。

 日の光が入る大きな窓がある部屋の中だった。ジルトは部屋の中の椅子に座らされていた。特に動きを制限するような拘束はないし、薬も抜けているようだ。


「起きるのが早いな」


 ヒユはジルトの目の前に座っていた。


「ドラゴンが毒に耐性があるという話は聞かなかったが。それならプレゼントも意味なかったかな」


 プレゼントという言葉からして、以前ジルトに劇薬を贈ったのはヒユで間違いないだろう。赤い模様の入った紫色の薬入れ。中には触れただけで死に至るという毒が入っていた。

 ジルトは誰からもらったか覚えていない。さすがにヒユでなかったことは断言できるが、彼はジルトに疑われずに何かしらの手を出すことが可能だということでもある。

 身を固くしたジルトを見て、ヒユは僅かに身を乗り出す。


「あれが毒だってわかったのは、ハピティカがいたからか?仲は良くないと聞いていたが、そうでもないようだな。あの子は親切心で嫌いな奴に優しくしたりしないからな」


 なぜ彼がウォートのことを知っているのだろうか。王宮で働いていれば、王族の推挙でテアントルに入学した子どものことくらい把握できるのだろうか。


「まあいい。今回は俺から何か用があったわけじゃない。あそこで騒がれたら面倒だから連れて来ただけだ」


 わざわざ眠らせなくてもいいと思うが、ジルトはあの状況で自分が彼を前にして冷静になれるとも思わなかった。


「お前は運がいい。あそこの結界を張ったのは俺で、破られても感知できるのは俺だけだ。今回のことは上にも報告せずに逃がしてやるよ」

「どうして?」

「俺は別に王族に忠誠を誓ってるわけじゃない。ただお前を殺す為だけにこの地位にいる」


 ヒユの声が力を帯びる。


「学校区の歓迎祭の時にも言ったが、お前は死ぬには若すぎる。そんな簡単に死なせはしない。長く苦しめば苦しむほどいい」


 ヒユは美しい顔を歪めて笑う。


「なあ、さっき何を思った?

 お前のせいであんなところに閉じ込められてる女性や少女を見て。

 お前が存在しなければ、あの人たちもあそこに閉じ込められはしなかった。魔力が使えるの女性は珍しいだろうが、逆に重宝されていい暮らしを送れたかもしれない。まして魔力が多いだけの女性の何がおかしいんだ?

 お前のせいで人生を歪められてしまった人たちを見て、どんな気分だ?」


 ヒユが立ち上がり、ジルトに詰め寄る。


「お前には関係のない人なんてどうでもいいか?」


 そんなことはない。

 ジルトはそういった人達の存在を知ったからこそ、どうにかしなければならないと決起した。だが、それはジルトの存在によって生じてしまったことだ。ジルトが、ドラゴンの娘がいると予言され、王族がそれを探し求めた結果、彼女達はあそこにいる。


「何か言ったらどうなんだ?」


 ヒユが腰にさしてある剣に手を伸ばす。だが、ヒユがその剣を抜くことはなかった。


「ヒユ、よく止まったね」


 ヒユが座っていた椅子の後ろに一人の男が立っていた。

 肩までつくほどの金色の髪に、優し気に垂れた茶色の瞳。着ている服はヒユと同じもので、虎の顔が描かれたバッジも同じだ。


「リアン、来てたのか」

「そりゃ、僕らに関係することだから。ね、ジルト・レーネ、ドラゴンの娘」


 リアンと呼ばれた青年も自分がドラゴンの娘であることを知っている。ジルトは驚かなかった。僕ら、と言ったからには、リアンもヒユと同じようにドラゴンによって歪められた者なのだろう。


「そいつに何か言っても無駄だよ。俺達と違って、まったく感じないんだから」

「本当に?それはちょっと望みが薄いなぁ」

「薄いどころじゃない。ないんだよ」


 リアンの登場によって、ヒユの張りつめた雰囲気がほどけていく。


「何にせよ、殺しちゃだめだよ」

「わかってる、止まったでしょ?見てなかった?」

「見てたよ、見てた。危うく剣を抜きかけるところだった」


 リアンに言われて、ヒユはぐっと押し黙った。そして静かにジルトから離れる。


「とにかく、彼女は僕が送っていくよ。いいね」

「わかったよ」


 ヒユはジルトを一度睨みつけると大人しく部屋から出て行った。


「さて、と。ジルト・レーネ、君はそろそろ帰らないとね。スロニウム・デクネの手配した馬車に乗らないと、面倒なことになる」


 リアンはジルトに手を差し出した。

 ジルトは大人しくその手を取って馬車に向かった。


 送っていく、と言ったのは本当だったらしく、帰りの馬車にはリアンも同乗した。


「ねえ、ジルト、君は本当に何も感じないの?」


 彼は馬車が出発して早々にジルトに話しかけてきた。


「僕達はね、わかるんだよ。君を、というより、君の内側のドラゴンを感じる。

 君の()()の性質とはまた違うから、()()()()()みたいに距離や場所がわかるわけじゃないけど、君を目にすればわかってしまうんだよ」


 さらりと出た”魔女”の言葉にジルトが驚くと、リアンはのんびりした様子で口を手で覆った。


「ああ、これはヒユに内緒ね」

「なんで、知っているんですか?」

「俺は()()生きているからね。誰にも言うつもりはないし、気にしないで」


 リアンはそれ以上詳しく言う気はないようだった。


「でも、もうそろそろ覚醒してもおかしくないのになぁ」


 リアンはジルトの顔に手を伸ばす。そして眼帯の上に手をかざした。


「うん、魔力が封じられてはいるけれど、抑えつけるための封印ではないから徐々に解けてきてるよね。じゃあ原因は別だ。

 ジルト、君は強大な魔法を誰かにかけているね。それも長い間。もう呪いにも近い」

「え?」


 全く心当たりのないことを言われたジルトは、思わずリアンを見つめる。

 リアンはジルトの顔から手を退け、自分の椅子に座り直した。


「自覚がないのなら、どうしようもないなぁ。いいよ、気にしないで」

「気になるよ。私、そんなことした覚えがないのに……。それに、あなたはどうして私のことがわかるの?」

「そりゃ、僕がドラゴンの影響を受けたからさ」

「ドラゴンのことがわかるなら、教えて欲しいの」


 ジルトは知らないことだらけだ。自分のことなのに、ドラゴンという存在についてほとんど知らない。ドラゴンのことについては、イルにもらった本の中でも情報を探すのが難しい。


「僕から教えることはできないよ。ドラゴンのことは、ドラゴンに聞かなきゃ」


 ドラゴンが長い眠りから覚めたら話を聞きに行こうと、シュレイと約束した。それでもすぐに知ることができないこの状況がもどかしい。


「教えられることとしたら僕についてくらいかな。ああ、僕は別に君を殺そうとは思ってないよ」

「私を、恨んでいないの?」


 リアンはジルトの言葉に目を細めた。その瞳の奥には、悲しみも哀れみも含まれた諦念が見え隠れする。


「永く、生きているとね、考える時間が多いんだ。そして知ることも多い。

 そうするとね、わからなくなるんだよ。僕は、いったい誰を恨めばいいのか、ってね。

 これは僕の答えだから、君には詳しく話せない。もし、君が全てを知って、君自身の答えが出たら、僕に聞かせて欲しい」


 リアンは一定してゆったりとした口調で話す。それが逆にジルトの心をざわつかせる。


「ジルト、君は全てを知ったら、どう思うんだろう。

 もしかしたら、予言のようにこの国を壊したいと思うのかもしれないね」


 どこか他人事のようなリアンの言葉は、するりとジルトに入っていく。

 馬車の外が暗くなるにつれて、ジルトの気も重くなっていくような気がした。


 ジルトが中央に到着する頃にはもう周りは暗かった。通信機を確認すると、レオから多くのメッセージが送られてきていた。王宮では通信機を預けなければならないし、馬車の中ではリアンがいたので確認する暇がなかった。

 慌てて今着いたことを知らせると、しばらくその場で待つように言われた。数分もしない内にレオとモーリ、それからウォートが迎えに来てくれた。


「ジル!無事か?!」


 レオはジルトに駆け寄って、何か変なことをされていないか確認するように、ジルトに触れる。


「うん、大丈夫」

「大丈夫って顔じゃねえだろ」


 レオは心配そうな顔をしたままだった。


「とんかく、寮に戻るぞ」


 ウォートが言って、レオははっとしたように身を引いた。


「悪い。そうしよう」


 四人は寮に戻り、レオとシュレイの部屋に入った。


「何があった?」


 ジルトをベッドに座らせたレオは、椅子をベッドの周りに準備してから言った。

 ジルトの横にはモーリが同じくベッドに腰かけており、その前でレオとウォートが椅子に座っている。

 ジルトは斜め前にいるウォートを見た。


「たぶん、ウォートの妹さんを見た」


 ウォートの金の瞳が大きく見開かれる。


「どこでだ?!」

「王宮の中の、隠し部屋みたいなところ」

「本当か?!生きてたのか?!」


 椅子から立ち上がり、ジルトの両肩を掴む。

 ジルトは近くなったウォートの髪を見て、頷く。


(やっぱり、同じ色だ)


「ウォートと同じ髪の色をしてた。お兄ちゃんにもらったって、赤い石を大事にしてた」

「赤い石……。ああ、俺がやったんだ。マスハ……」


 ウォートはジルトから手を放し、崩れるようにして椅子に座った。


「生きてた……、生きてたんだ!」


 椅子の上で背中を丸めて小さくなったウォートに、レオはそっと手を添えた。


「ウォートの妹が生きてたのはいいことだが、王宮の隠し部屋と言ったか?サクラから王宮の書庫に行ったとは聞いているが、どうしてそんな所に?」


 ジルトはレオに一部を話した。

 ヒユのことを言うわけには行かないので、書庫を時間前に追い出されたこと、時間まで王宮を見ている内にその隠し部屋を見つけたこと。


「隠し部屋ってことは結界が張られていたはずだ。見つからなかったのか?」


 当然レオはその疑問を抱いた。

 ジルトは何て説明すればいいのかわからなかった。嘘をつくのは得意ではない。


「ジル、それは僕らに言えないこと、なんだね?」


 隣で座っていたモーリがジルトを見上げる。茶色の瞳は確信しているかのように揺るぎなく真っすぐだった。


「モーリ……」

「いいよ。言えないことは言わなくて大丈夫」


 モーリがジルトの手を握ってくれる。ジルトはその手を握り返して、少しずつ言葉を吐き出した。


「私が結界を破ったみたい。でも、その場にいた王宮の人は気づいてなかった。結界をかけた人は気づいて、別の部屋で話をした。だけど、王に今回のことを報告しないって言ってた」


 レオは詳しく聞きたいと口を開きかけたが、モーリが首を横に振った。


「ジル、話してくれてありがとう。大丈夫だよ、レオは賢いから、ジルがちょっとずつ話してくれたら色んなことを考えてくれるよ。

 ね、レオ」

「ああ。俺はジルを傷つけたいわけじゃない。お前に言えないことがあるなら、それでいい。無理には聞かない。

 だが、お前が話してくれたことをもとに、俺が知ろうとすることは許してくれるか?」


 ジルトはすぐに頷けなかった。レオがヒユに辿り着いてしまったら、レオが殺されてしまう。


「ジル、悪いが、俺やモーリにはお前が何をどんな風に考えるのか、だいたいはわかってしまう。

 今お前には、俺達に言いたくても言えないことがあるんだな?そして、俺達がそれを知れば、お前じゃなく、俺達が危なくなることなんだな」


 お見通しだとジルトは思った。

 一緒に過ごす時間が長ければ、ウォートだってジルトの隠し事に気づいてしまう。それを、今は離れている時間が多いとはいえ、幼い頃から一緒のレオやモーリがわからないわけがない。


「ジル、安心しろ。俺は多少は頭が使えるつもりだ。お前よりも隠し事が上手い自信もある。

 俺がお前の言えないことに辿り着いたとしても、俺は知らないふりをできる。場合によってはモーリに知らせないこともな」


 モーリもジルトと同じく、隠しごとをできる性質ではない。


「だから、心配しなくていい」


 優しいレオの声がジルトの強張っていた心をとかしていく。あの日から、歓迎祭でヒユに脅された時からずっと心の奥底に沈んでいた不安が薄れていく。


(私はレオ達にヒユのことを話せないけど、レオ達が知ってしまっても、大丈夫。レオなら上手くやってくれる)


 秘密は抱えたままで不安はまだあるが、もしレオ達が真相に辿り着いてしまってもどうにかなるという考えがジルトの心を軽くした。

 ジルトの緊張を解いてくれるきっかけをくれるのはいつもモーリだ。そして、レオはジルトにちゃんと話をしてくれる。


「ジル、俺が色々知ろうとすることを許してくれるか?」

「うん。大丈夫。レオを信頼してるから。いつもありがとうね、レオ、モーリ」

「レオ、何かあるなら俺も協力する」


 ようやく落ち着いたのか、少し目の赤いウォートが言った。


「ジルトは俺の希望だから」

「ああ、頼む、ウォート」


 レオは差し出されたウォートの手を強く握った。

ジルトを捕らえた場合、ジルトは王の下で厳重に管理されることになるので、殺してしまいたいヒユとしてはジルトはなるべく見つかってほしくないです。

続きます。

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