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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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期末試験

 カトレアとは少し気まずくなったが、クラスも一緒ではなくずっと一緒にいるわけでもないため、丁度いい距離があった。期末試験が始まる前に、二人の間の気まずさは消えてしまった。


「ジル、期末試験の調子はどう?」


 午前の試験が終わり、食堂でサクラたちと昼食を取っていると、カトレアを先頭に一組のみんながやってきた。


「クラブでの活動があるおかげかな?中間よりも楽に受けられたよ」

「それは何よりだな」

「でもきっとレオには負けちゃうね」

「さぁな」


 一切表情を崩さないレオはずいぶんと余裕そうだった。


「僕もがんばったよ!」


 モーリが元気よく言うのを聞いて、ジルトは微笑んだ。


「いやいやいや、おかしいよ。待って、本当にみんな午前の試験受けたの?僕なんてもうくったくたなのに、なんでそんな元気なんだよ」


 当然のようにジルト達の周りの席に着いたクラスメイトがぼやくと、


「諦めろ。あいつらは規格外だ」

「そうそう、嘆くより勉強、訓練ってな。明日からいよいよ資格試験だろ」

「余計胃が痛い……」


 ジルト達と違って学生たちは疲労の色が濃かった。一夜漬けで挑む学生も少なくない。彼たちにとって座学の成績はあまり関係なく、学ぶつもりで学校に入ったジルト達とは明らかに常日頃の勉強時間が少ない。資格さえ取れればよいのである。


「ジルト君はもしかしたら修士試験も受かるかもね」

「……たぶん、そうだろうな」


 レオが言葉を濁したのは、ジルトがセダムに放課後指導してもらっているのを知っているからだろう。ジルトは博士試験も合格できそうである。中間試験まででジルトの補習は終わったけれど、その後も放課後にセダムを訪ねることは多かった。水曜以外はクラブもなく、ふらふらと街に出ると危険なのですることがなくて暇なのだ。

 加えて、最近ジルトの正体がビジウムにばれていることが発覚した。彼の弟である二組のクラス副長が気づいたらしいのだが、副長は大人しく、必要時以外話したこともない。下手に話しかけて確定材料を与えないよう、知らないふりをすることになった。

 兄のビジウムに関してはカトレアからも口止めされているし、彼自身がジルトの正体を明かしても損にしかならないらしいのでこちらも放置だ。


「レオ君も修士試験を受けるだろ?」

「ああ。ジルには負けるだろうけどな」


 先程のお返しのように言われて、ジルトは苦笑いした。魔力に関してはレオよりジルトの方が上手い。以前は魔力を扱う技術がなかったのでレオの方がよく魔法を使えたが、今ではジルトの方が使える魔法が増えていた。これは試験前にレオに教えを乞う者が多く、セダムの教えを受ける時間が短かったからだ。レオとしては召喚が苦手だというのが理由らしい。地獄の炎を呼び出せるようになるのにも時間がかかったのだという。博士試験は召喚魔法が三種必要になるので、レオは今年は修士試験までしか受けないそうだ。


「はぁ、僕もそんな高次元のやり取りしてみたいよ」

「お前はとりあえず来年のために一つでも学士の科目を成功させろよ」

「今年は落ちるの確定なの?!」

「望み薄だよなぁ」

「夜まで訓練できるように薬を調合してやろうか?」


 にやり、とウォートが笑うと、


「ひぃ!第二の魔王、ウォートが!」

「誰が魔王だ!」

「はいはい、そこまで、ね?」


 ウォートも勉強会を通して馴染んできたようで、サクラになだめられながらも生き生きとクラスメイトをしごいていた。



 *



 中間試験と同じような筆記科目が終わったところで、資格試験へと移行する。木曜日と金曜日が試験日にあたり、試験は一日に一度、一回の試験期間で二回しか受けられないことになっている。


「次、ジルト・レーネ」


 試験の順番は決まっておらず、申し込み順になる。いきなり試験を受けるの者は少なく、ジルトの前には一組の優秀生が十数名いた程度だった。そこにはレオやカトレア、シュレイ、モーリも含まれ、ジルトの仲間である彼らのみ修士試験を合格し、他の一組の学生も全員が受かっていた。

 場が温まったところでもあり、ジルトには多くの視線が注がれた。試験は実践場で行われ、試験の会場として使われている所以外では練習が可能なので、練習と観察を兼ねてほとんどの学生が集まっている。


「君はどの資格を取るつもりかね?」


 試験官は一から四年生の性質実技や魔力実技の先生が二名ずつ選ばれ、公平を期すために受験生の担当学年以外の者が判定を行う。


「学士、修士、博士の三つを取りたいと考えています」

「なんと……」


 ジルトの周囲がざわざわとする。

 火の性質は付与、変形、召喚の順に難易度が上がっていく。体育祭でジルトが地獄の炎を使った場面はほとんどの者が目撃しているが、それでも試験に必要な三種類すべてが使えるとは思っていなかったのだろう。


「三級試験は受けないのか?」


 驚きの表情を受ける他の試験官とは違い、アンセモンは不思議そうに訊ねた。

 その言葉にまたざわざわとするが、それは主に会場の監視にあたっていた教師陣からのどよめきだった。


「三級?まさか()以外にもそんなことができるものが?」

「学生の内に取れる資格の中で最も難しいのだぞ」

「そういえば彼は決闘で魔法を重ねていたな」

「それよりも召喚三種ができるかでしょう。いくら魔法を重ねられれば三級に受かるからといって、それより前段階の召喚ができていないようじゃ、認められない」


 ジルトは博士試験までしか把握していなかったが、テアントルでは三級試験まで受けることができる。その試験内容も、ジルトは一度やってのけている。


「君ならできると思うが」


 アンセモンの瞳は確信に満ちた輝きを持ち、その中に僅かな期待となつかしさがのぞいている。その隣のスロニウムに表情はなく、橙の瞳をぎらぎらと血走らせていた。


「クリソス先生がおっしゃるのなら、私も挑戦してみようと思います」


 スロニウムを視界の外にはじき出し、ジルトは大きく頷いた。


「わかりました、認めましょう」


 平民であり変色者でもないジルトについてよく思わない教師は多かったが、スロニウムによってジルトが四年生と受けるようになって、その評価を変えた者も多かった。初回では授業後にジルトを甚振ろうとした決闘相手に屈することもなく、複数人を相手にしても彼女は授業を通して一度も傷を負わなかった。

 ようやくジルトの強さを認めざるを得ない段階になったのだ。ジルトも自信を身につけた。ジルトがドラゴンの娘として人々に受け入れられれば、代わりにカトレアが王族の代表としてその責を負わされると聞いて、いっそう強くなりたいと願った。その思いで努力もした。


「では、始めなさい」


 試験官の言葉で、ジルトは一つずつ魔法を使っていく。付与の魔法。炎刀えんとう炎盾えんじゅん炎鎧えんがい。剣と盾と鎧を場外に置き、変形の魔法に移る。同じ順番で炎刀、炎盾、炎鎧。

 どれも長くはなく、省略された呪文で行ったジルトに、周囲は次第に音をなくしていく。歓声は消え、今はじっと、彼女の動向が見守られている。


「火よ、土の下の火よ」


 黒い、浄化の地獄の炎。


「火よ、燃え盛る火よ」


 青い、増加の夏の火。


「火よ、温かな火よ」


 黄色い、回復の生の炎。

 全ての炎を召喚し終えると、彼女が火を消して一拍後、場内に声が溢れかえった。


「すごい!本当に全部召喚できてる!」

「色も完璧だ。あそこまでくっきりと色が出れば、効果も大きいだろう」

「まだ一年生だろう?!」


 試験官も興奮でじっとりと汗をかいていたが、彼は自分の仕事を進める。


「では、最後に。魔法を重ねなさい。どの魔法を重ねるのだ?」

「一番安定しているので、炎刀で炎舞えんぶを重ねます」

「よろしい。周りに結界を張るので、少し待ちなさい」


 炎舞によって火の玉が飛ぶので、その被害を抑えるために、目配せされたクリソスが結界を張った。透明な膜が、ジルトの周りを取り囲む。


「では、始めなさい」


 ジルトは頷くと、唇を開く。


「火よ、土の下の火よ」


 先程と同じく、黒い地獄の炎がジルトの手の上に現れる。


「な、召喚した炎を使うのか?!」

「それにしてもよく何度も召喚できるものだ」


 ジルトは一度確かめるように軽く手を握り、


「炎刀」


 省略した呪文で刀を創り出す。黒い炎は形を変えた。


「浮遊し舞い踊る炎、ことごとく降り注げ」


 呪文を唱え終わると、黒い火の刀からふわりと火の玉が排出される。ジルトはそれを確認してから、結界の中で演武を行う。

 付与の魔法ではなく、自分の魔力で創り出した刀は軽い。風に操られているかのように軽やかに、力を感じさせないそれは、もはや舞であった。


「よろしい、終わりなさい」


 思わず見とれていた試験官は、ジルトの視線による訴えかけでようやく終了の合図を出した。


「ジルト・レーネ。君は学士、修士、博士、そして三級の試験に合格した。三級魔法使いの称号を与えよう」

「ありがとうございます」


 ジルトは全ての魔法を解除し、結界の外へ出た。


「なんと、本当にやってのけたぞ」

「アジュガの時を思い出しますね……」

「その名を出すな。やっかいな。だが確かに、稀に見る才能だ」


 そこら中から声がする。けれどジルトは何も気にしていないように装う。


(デクネ先生の視線が痛い)


 まるで一つの隙も見逃さないというように、スロニウムの目がジルトから逸らされることはない。それは試験が終わった今でもだ。もしかすると、ジルトが合格をもらってから余計に眼力が増しているかもしれない。


「ジル、おめでとう。まさか三級を取るとは。本当にすごいな」


 好奇の目を遮るように、カトレアがジルトの元にやって来た。

 学生とはいえ、王族の登場によってその場の空気が引き締まり、学生も教師陣もお喋りをやめて自分のことに集中する。


「はいはい、次の人は?早くしないと二年生がやってきますよ?」


 申し込みに順番がないとはいえ、大まかな時間は区切られている。時間がかかるほど上級生がやってくるので、一年生は慌てて申し込みをしに行った。

 ようやくジルトが試験を受ける前の状況に戻り、彼女はほっと息をつく。


「ありがとう、カトレア。カトレアも修士試験に合格したんでしょう?」

「ああ。お祝いも兼ねて今日は中央の店に行かないか?」

「うん、ぜひ」


 カトレアに続いて先に試験を終えていたレオ達と合流する。


「ジル、二組のやつらはいいのか?」


 既にテアントルの外に出ることは話し合われていたらしい。レオにたずねられて、ジルトはうなずいた。


「こうなるだろうってウォートが予想してた。サクラは魔力が使えないから試験は受けないけど、パートナーのコリウスさんに付き合うし、ウォートはバルに頼られてるみたい」


 ジルトの入学時では考えられないほど、バルディアとウォートは仲良くなっている。本人に言うと仲良くない、と揃えて返されるだろうが。


「じゃあ行こ!僕、行ってみたかったお店があるんだ!」

「俺も腹が減った」


 元気そうに言ったモーリに、お腹を押さえたシュレイが続く。


「先にお昼にしようか」

「ああ、その前にいったん寮に戻って支度だな」


 レオの言葉に、それぞれ荷物を持って寮に向かう。今日は実技のみなので荷物も多くない。それほど時間をかけずに寮の前に集合し、女子寮へとカトレアを迎えに行き、五人は街へ出た。

続きます。

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