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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
50/116

強制参加の決闘

「なあ、あいつらあんなに強かったか?」

「下手したら二組より強いぞ」


 四、五組の三年生の試合でまた客席が騒がしくなる。

 お互いに魅力を引き出すために組んだ者も、上位の組に決闘を挑んだ者も、クラブの先輩たちは素晴らしく力を発揮していた。

 同学年や毎年観戦にくる人にはある程度の人の情報が入っているので、その差に驚いている。

 ジルトは嬉しくなって、ベストの左胸に着けてあるエンブレムに手を添えた。


(すごい……)


 クラブの真の目的は王政を崩すことだが、単純にみんなの力が強くなっているのが、努力が成果として表れているのが嬉しかった。この感情はクラブに入っていなければ味わえなかっただろう。

 客席が落ち着かないまま試合は進む。クラブ長のガイラルの時には一瞬で決着がついてしまい、場外に吹き飛ばされた一組のクラス長らしき人物がしばらく騒いで、運営に回収されていった。

 波乱の決闘も最終学年に進むと、その緊張感と興奮は最高潮になる。多くの魔法を状況に合わせて複数使い、迷いのない動きで攻撃と防御を繰り返す。

 ジルトは争いは好きではないが、思う存分互いが力を出し合う決闘は心が高揚した。

 しかしそんなことも言ってられなくなった。


「ジルト・レーネ。舞台に上がりなさい」


 今まで試合運びをしていた声が、ジルトを呼んだ。


「え」


 状況が理解できない。

 ジルトは思わずサクラを見た。


「ジル、あなた決闘の相手に指名されてる」


 サクラが真っ青な顔でそう言った。


「随分長い間なかっただけで、当日に相手を指名しての決闘は規則範囲内なの。でも、学年でこんなに差があるのに……」


 コリウスが口に手を当てて、つぶやいた。顔はそのまま舞台を見ている。


「あの人、四年一組の人よ。実技でもずっと上位に入ってる」


 コリウスよりサクラの方が怖がっているのは、ジルトが女だと知っているからだろう。魔力の強さもそうだが、戦闘では武器を扱う筋力も重要だ。

 相手は十八か十九のがっしりした男で、ジルトはそれより四つ以上下である。


「ジルト・レーネ!早く舞台に上がってください!」


 ジルトを呼ぶ声に焦りが滲む。見れば、司会者の隣にスロニウムが立っていた。司会者を急かしていたのだろう。ジルトの視線に気づくと、にやりと顔を歪めた。


「一年二組!ジルト・レーネ!」

「一年だと?」

「しかも二組?釣り合ってないぞ」


 周りから徐々に視線が二組の観覧スペースに集まってくる。

 観客の言う通り、一年のジルトを相手に選らんで、どういうつもりなのだろう。自分の力を見せつける必要がある以上、そこそこ強い相手でないと意味がないはずだ。


「家が騎士の家系だからって遊んでるのか?」

「それにしてもなぜ」


 それはジルトのセリフだ。


「ジル、行かなくてもいいよ。もし行かなきゃいけなくても、すぐにリタイアすれば大丈夫だから」


 サクラがジルトの腕を掴む。その手は震えていた。授業でのスロニウムとの対戦が半分トラウマになっているのだろう。


「サクラ……司会の人に迷惑はかけられないから行くよ。でも言う通りすぐに棄権するね」


 ゆっくりとサクラの手をはがして、それをコリウスに託す。


「ジルト君、」

「大丈夫だから」


 コリウスの言葉を切って、ジルトは舞台に向かった。

 舞台に近づくにつれて、視線が強くなる。興味、関心。好奇、懐疑。不躾にぶつけられるそれら全てを無視することはできない。

 俯いて歩くが、見られていると思うだけで心臓がバクバクと鳴る。


(嫌だ。行きたくない。早く戻りたい)


 ぎゅうっと胸の辺りを握りしめるが、心拍はより一層速くなるばかりだった。


(ジル!大丈夫だよ。行ってすぐ戻ればいい)


 シュレイからの交信に、少しだけ肩の力が抜ける。


(それ、レオが言ったんだね)

(そうだ、よくわかったね)

(ありがとうシュレイ。ちょっと落ち着いた)

(それならよかったよ)


 ふーっと息を吐いて舞台に上がると、目の前の対戦相手がにっと笑う。

 当然のように変色者で、深い緑の髪に黄色の目をしている。ジルトが頑張って見上げねばならないほど背が高く、ジルトは後ろに引かないように頑張ってお腹に力を入れた。


「初めましてレーネ君。僕は……名乗る必要はないかな。さ、早速賭けるものを決めよう」


 本来なら登録時に決めるのだが、飛び入りの決闘ではその時に相手のものを決めるのが習わしらしい。


「いきなり呼んでしまったからね。君は何が欲しい?」


 何が欲しいと言われても、急には思い浮かばない。ジルトは相手のことを知らないし、決闘に参加する予定はなかったのだ。


「じゃあまずは僕からいいかな。サクラ・モンターニュ。彼女が欲しい」


 ジルトの目の前が暗くなった。

 適当に降りればいいと思っていた決闘を、降りるわけにはいかなくなってしまった。同時にじわりと怒りが滲む。相手は、ジルトの身を案じてくれているサクラをまるで物のように言うのだ。

 魔力を暴発させないように、ぐっと感情の波を堪える。


「彼女は、私の所有ではありません」

「まあままそう固くならないでよ。昔は女性を賭けた決闘ってのも多かったんだからさ」


 男の言葉には耳を貸さず、二組の観客席を見ると、サクラは言ったことを取り消すつもりはないようで、目を伏せて首を横に振っている。


(嫌だ。だめだ。ウォートも、サクラもどうして自分の人生を諦めるの?そんなのおかしい!)


 ジルトは下唇を噛みしめて、男を睨みつけた。


「おぉ、怖いね。さて、君は何を望む」

「何も要らない。あなたに勝つことを望む」


 拡声器で響いたジルトの言葉に、わぁっと会場が盛り上がる。


「ふん、生意気な一年だ」


 そう言いながらも男の目には嘲る色しかない。ジルトを取るに足らないと思っているからだろう。

 いくら噂ですごい一年が現れたと言われようと、所詮は噂。所詮は一年。


(ジル!挑発に乗っちゃダメだ!)

(ごめんねシュレイ。でもこの勝負は降りられない)


 シュレイからの返事はなかった。ジルトの性格をよく知るレオが止めたのだろう。

 護りのついた制服は先生の介入と見なされ違反になるのでベストを脱ぎ、暑い中でも首を覆ってくれる半袖のシャツと、半ズボンになった。決闘に参加する予定がなかったので、盾も剣も鎧も借りていないのだ。

 それでも円の中にたったジルトに、観客は期待を寄せる。この一年も付与ではなく変形の魔法を使うのか、と。


(今は、この人だけに集中しなきゃ)


 周りの音を断ち切って、自分の呼吸に集中する。目を閉じ、爪の先まで意識を行き渡す。


「開始!」


 半分裏返った司会者の声が響いた。


「火よ纏え、炎鎧えんがい!」

炎刀えんとう!」


 ジルトがまず変形の魔法で炎の鎧を作り出すと、省略された呪文で炎刀を作り出した四年生が素早く切りかかってくる。


炎盾えんじゅん!」


 ジルトも呪文を省略して盾を作り、剣を受け止めた。剣の強度はともかく、鍛え上げられた肉体から放たれる斬撃はまだ小さいジルトには強く、足が地面を滑る。それでも円内に踏みとどまり、


「炎刀!」

「炎盾!炎鎧!」


 盾をしまい、両手で炎刀を持つ。思い切って飛びかかるとその刃は盾に受け止められる。盾自体はぐにゃりと形を崩したが、ジルト自身が軽すぎるため、盾を破る前に払い飛ばされてしまった。


「ぐっ、僕の炎盾を熔かすほどの魔力か。油断できないな」


 盾の形を整えた相手の目がすっと細められる。今までの余裕は消え、本気の圧がかけられる。


「炎刀、重ね、浮遊し舞い踊る炎、ことごとく降り注げ、炎舞えんぶ!」


 クラブの講堂の本にも乗っていた、炎舞という魔法の付与が行われた。変形してつくられた炎刀に重ね掛けされた魔法で、男が剣を振るたびに小さな炎が飛び、ジルトに向かって飛んでくる。

 炎盾で受け止めるも、勢いのよい炎の玉は小さいながらもジルトを押す。初めての魔法の対処に苦戦しながらも何とか防いでいるが、全てを受け止めるのは無謀だ。

 いくつか避けると場外から所々悲鳴が上がる。そしてその一つに、聞きなれた声があった。


「サクラ!」


 魔力とは違い魔法を吸収するのは至難の業だ。速さのある炎の玉など、いくらサクラでも無理だろう。

 サクラは魔力を使えない。コリウスは流水盾りゅうすいじゅんを使えるようになったばかり。周りのクラスメイトは距離が遠くて対応が間に合わない。

 一瞬で全てを理解したジルトは、相手に背を向ける。


「流水盾!」


 腰や肩に感じる痛みを無視して、ジルトは叫んだ。


(お願い、届いて!)


 距離のある場所に魔力を飛ばすのは初めてだったが、ジルトの想いが強かったのか、サクラの前に流水盾を出すことができた。


「何?!他の性質も使えるのか?!」

「これではまるで……」

「遠隔もいけるのか」


 ほっとしたせいで、集中が途切れる。

 周りの音がよく聞こえ、遮断していたはずの視線が入ってくる。


(怖い、嫌な視線)


 しかしジルトも怯んではいられない。この勝負に、サクラの人生がかかっているのだ。ふるりと頭を振って、もう一度集中する。

 一度は止まったかに思えた攻撃も再開される。


「炎盾!」


 ジルトは振り向いてまず盾をつくり、これ以上の攻撃を防ぐ。


(どうしよう。私の力じゃ炎刀で決着はつかない。水の性質の魔法を使う?いや、私が普段から使い慣れている火の性質じゃないとコントロールが難しいかもしれない)


 余計な注目を増やしたくはないが、サクラの人生には代えられない。


「火よ、土の下の火よ!炎盾!」


 セダムに教えてもらった召喚魔法で地獄の炎を呼び出し、それで炎盾を作り直す。これならその内学校で習う。

 地獄の炎はレオが人食い鬼となってしまう前にセキを燃やした時に呼び出したもので、全てを焼き尽くす浄化の炎である。

 黒いその炎は遠くからでもよく見えるのか、歓声と驚愕の声が上がる。それもジルトの耳にはぼやけてしか聞こえなかった。

 攻撃として飛んでくる炎舞の炎を盾が焼き消すお陰で、ジルトが後ろに下がることはなくなった。

 相手も効果がなくなったのを理解して、無駄な魔力を消費しないように炎舞を解除し、一度動きを止める。初めのように炎刀で切りかかっても、地獄の炎で打ち消されてしまうだけだ。

 となれば残る手段は一つ。


「炎刀!」


 ジルトは相手の口が開く前に走り出した。


「火よ、土の下の――ぐっ!」


 最後までは言わせなかった。召喚の魔法の呪文を唱え終わる前に、地獄の炎で作り出した炎刀を相手の胴部に突き刺す。相手の炎鎧が解け、本物の鎧に亀裂が入ったところで魔法を解く。

 男は鎧の破壊の衝撃も受け、背中から地面に倒れ込んだ。


「炎刀」


 そこへジルトが炎刀を出し、その切っ先を男の喉元に突きつける。


「っ、くそ!リタイアだ!」


 悔しそうに吐き出された言葉に、ジルトは魔法を解いた。そして司会者を見る。


「しょ、勝者、ジルト・レーネ!」


 ジルトは満足して頷き、舞台から降りた。


(よかった。サクラを、守ることができた)

続きます。

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