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竜眼の少女  作者: 五十音
北部にて
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急変

 「それで、昨日は何をしてたのかな?」


 翌朝、ジルトは孤児院の家族に囲まれて、朝食を取っていた。昨日の予告通り、話を聞こうとするイルに、彼女は持っていたパンを皿に置いた。

 一緒に起きてきたモーリと、一足早く食卓についていたレオの視線を両側から感じつつ、目の前にイルに向き直る。その隣にいるアンをちらりと見ると、昨日のように取り乱した様子はなく、温かい目で見つめられる。


「レオと別れて家に向かってる時に倒れている人がいたの」

「それはここの近くかい?」


 イルが表情を硬くする。


「ううん、まだ森を出てすぐ。家に近かったらイルさんを呼びにいったんだけど。とりあえず持っていた懐炉で温めて、しばらくしたら起きたから。あ、ごめんなさい、そういえばイルさんの懐炉を一つその人に渡しちゃった」

「それは構わないけど、ちゃんと持続時間は意識してね。ジルの懐炉が切れちゃったら意味ないでしょ?」


 実は帰って来た時にはほぼ切れかけていたとは言えなかった。ジルは笑ってごまかしたが、レオにはばれていたのか睨まれた。


「こら、レオ。人助けを悪くは言えないないよ」


 イルに宥められてレオはふいと視線を逸らせた。レオが怖いとは思わないが、ジルトにとっても睨まれるのは居心地が悪い。


「ジルのそういう癖はなんとかしなきゃいけないけど……」

「ねぇ、聞いて、イルさん!」


 イルの心配をよそに、ジルトはきらきらと目を輝かせて話を続けようとする。


「なんだい?」

「その人ね、髪が薄い金色だったの。目は灰色でね、実は外国から来た人だったの!」

「何だって?!」


 イルが机を叩いて立ち上がる。食卓の皿がガシンと小さく跳ねた。

 いつも穏やかなイルの顔は、眉が寄せられ、目が大きく見開かれていた。その形相に、子ども達に怯えが浮かぶ。そのことも気に留めず、イルは急に何処かへ行ってしまう。


「アン!予定が早まった。直ぐに準備してくれ。時間がない」


 遠くから聞こえたイルの声に、アンが小さくうなずいて立ち上がる。


「あ、アンさん?あの……」

「ジルッ……ああ、どうか強く生きてね」


 机の向こうから伸ばされた手が優しくジルトの髪を撫でる。


「レオ、よろしくね」

「わかってる」


 アンまで何かをしにこの場からいなくなってしまった。

 何が起こっているのか全くもってわからない。事情を知っているらしいレオを見ると、難しい顔をしていた。


「レオ?」

「俺とジル、そしてモーリは今からここを出る」


 詳しいことは教えてくれず、レオまで席を立った。

 残されたジルトは、不安そうに自分を見つめるモーリの頭を撫でてやることしかできない。温かかった食べ物たちはどんどんと冷たくなっていく。



 *


 やっと戻ってきたイルは、説明もないまま荷物をまとめるように言った。

 自室に戻ったジルは、お気に入りのリュックに少ない物を詰めていく。決して贅沢な暮らしではなかった。中央で見かけた子どもが持っていたようなおもちゃは何一つ持っていない。それでも、優しい家族がいてくれたから何も不自由だとは思わなかった。

 どうして家を出なくてはならないのだろうか。おかしくなったのは、ジルトが発言してからだ。外国の人と話したことがいけなかったのだろうか。

 悶々とした気持ちのまま、ジルトは家の前に立っていた。モーリがそっと手を握ってくれる。


「ごめんね、説明もないまま。でも時間がないんだ。詳しくはレオに聞いて欲しい」

「ジル、レオ、モーリ。三人とも私達の大事な子。愛してるわ」


 アンが微笑みながら一人ずつ頭を撫でていく。目元が赤くなっているのは泣いていたからだろうか。


「三人とも、誕生日おめでとう。ちゃんと祝ってあげられなくてごめんね」


 イルは、子ども達の額にキスを落とした。


「レオ、頼んだよ」

「ああ。今までありがとう」


 レオは困惑したままの二人に、別れの挨拶をするように促した。

 ジルトより先に、三つ下のモーリが口を開く。


「イルさん、アンさん、ありがとう。大好き」


 屈んだイルとアンに抱き着きに行く。アンはモーリを抱きしめて泣き出してしまった。


「ジル……」


 目の前の出来事を眺めることしかできないジルトに、レオが言葉をこぼす。


「もう、会えないかもしれないんだ。しっかり挨拶してこい」


 それはレオ自身に言い聞かせているようでもあって、ジルトはレオも同じ思いなのだと感じ取った。

 ジルトは泣いているアンと、その肩を抱いているイルに近づいた。


「イルさん、アンさん。今まで本当にありがとう。大好きよ」


 とうとうわっと声を上げたアンが、ジルトを強く抱きしめる。それに負けないほど強く、ジルトもアンを抱きしめ返した。


「ジルト、こんな形の別れになってしまってごめんね。君のせいじゃない。それだけは覚えていて欲しい」

「イルさん……」

「元気でね。さ、行きなさい」


 アンの腕をやんわり解いて、イルが言った。

 涙が止まらなくなってしまったアンと、手を振るイルを置いて、三人は育った家を後にした。

続きます。

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