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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
45/116

A.K.クラブ

続きます。

 サクラは一階の教師達の部屋を通り過ぎて、渡り廊下へと出た。教室のあるいつもの棟のちょうど真後ろに、用途ごとの部屋が用意されている棟がある。どうやらそこに向かっているようだった。

 一年は授業で使うことがないので、ジルト達はよく知らなかったが、そこにはクラブのための部屋も用意されている。各部屋の扉の上部にプレートがあり、どこの団体が使っているのかわかるようになっている。

 『A.K.』の文字を見つけて、サクラは扉の前に立ち止まった。


「かしこまったところではないから、そんなに緊張しないで」


 ジルト達を振り返って微笑んでいるものの、そんなことはできないとわかっているのか、眉は下がっている。

 特に挨拶もなく扉を開けると、そこには誰もいなかった。

 てっきりクラブ長が待ち構えていると思っていたジルトは、拍子抜けしてしまう。


「ちょっと待ってて」


 ジルトに声を掛けたサクラは、鞄から魔力消費型の通信機を取り出した。


「クラブ長、3991です。()()()()()()()


 通信機からくぐもった声が聞こえた瞬間、ジルト達は見知らぬ部屋にいた。

 実戦場ほどの大きさのそこは、アーチ形の白い天井に覆われており、壁と一定間隔を開けて、そこから何本もの白い石柱が伸びている。部屋は半分ほどに机と椅子が並べられており、一つの椅子につき二三人ほどが座ってジルト達を物珍しそうに見ている。教室で使われているものと同じ長椅子と机だが、向きは90度違っていて、一つの机に二つ椅子が備えられており、教室のように高さが変わらず、全て平面の地面に設置されているという点で異なっている。

 ジルト達が入って来た方とは反対の、机や椅子がある方の壁には、ジルトの三倍ほどの大きさのドラゴンが彫刻されており、その下には壇の上に大人の背丈くらいの棚が設置されていた。中身はすべて本で、古くくたびれたものから、個人が作ったような新しい簡単なつくりの本までさまざまである。

 そしてその前に、セダムと同じような薄い金色の髪に、黒い目をした男が立っていた。


「クラブ長、サクラです」

「うん、案内ご苦労。サクラ、ウォート、こちらへ」


 ちらりとジルト達を見てから、サクラとウォートは空いている席に着いた。

 代わりに、クラブ長がゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。途中でウォートがクラブ長のもとに行き、何やら囁いた。クラブ長は驚いたように目を見張って、頷くと再びこちらに歩き出した。

 ジルト達の前に来ると、クラブ長は身を屈めてジルトの視線に合わせた。


「こんにちは。お噂は兼ねがね、君がジルト君だね」


 挨拶をしてから、ジルトの後ろにいるシュレイ、モーリ、レオ、カトレアをぐるりと見て、最後のカトレアで目を止めると、戸惑ったように微笑んだ。


「無礼を働いても怒らないとは。ウォートの言う通りのお方と捉えていいんでしょうか」

「私の旗は虎ではありません。守護神たるドラゴンです」


 やけに声の通る講堂内にカトレアの声が響くと、クラブ長の背後がざわつく。クラブ長は一度振り返って片手を上げることでそれを収めた。


「それは申し訳ありません」

「そのような態度も結構です。ここは学校区。南部の権力の影響を及ぼさないように、例え王族であろうと平等に接するのが規則ではないのですか?」

「そうです……そうだな。色々と例外が多いもので、君の方が例外と思ってしまった。失礼だったね」

「いいえ」


 カトレアが小さく微笑んだ。


「さて、本題に入ろう」


 クラブ長はかたい表情で、サクラから聞いた話をジルト達に伝えた。

 話題の新入生と仲良くなった。クラス内ではいい関係が築かれつつあるが、その他のクラスや学年、特に1組からの印象が良くないこと。授業で先生に一方的に勝負を持ちかけられたこともあり、何の護りもなく学校生活を送るのは難しいこと。


「私自身としては、変色者とよくいるところを食堂で見かけたから、特に護りも必要ないと思ったんだが、歓迎祭では様子のおかしいクラスメイトに色々と妨害されたと聞く。サクラから見れば、何者かに操られていたようだったと」


 バルディアのことを言っているのだろう。ジルト自身、バルディアの行動を疑問に思ったし、バルディアも不思議そうにしていた。何者かに操られていたと言われれば納得できる。


「先生にも個人的に目をつけられているし、外部からの妨害がありそうな君をそのまま放っておくわけにはいかない。サクラがずっと気にするだろうし」


 ジルトがサクラの方を見ると、彼女は困ったように笑った。何も言わずいつも一緒にいてくれたけど、心配をかけてしまっていたようだ。


「護りって、何ですか?」


 黙っていられなかったようで、モーリが口を挟む。

 クラブ長は幼いモーリににっこりと笑って、できるだけ優しい声色で話し始めた。


「護りっていうのは、先生の保護みたいなものだよ。クラブの担当教員はその生徒たちを護るために魔法を込めたエンブレムを贈ることができるんだ。最初は許可証代わりだったんだけど、先生がついていけない場所でも活動できるようにと護りが付与されることが多くなって、最近ではその役割の方が注目されている」


 クラブ長はA.K.クラブを表の顔、落書きの謎を解き明かすクラブとして扱って説明している。ジルトをクラブに入れるというのも、あくまでジルトを心配したサクラを気遣って、先生の保護を与えるためとしている。


「ありがとうございます」


 ぺこりとモーリがお辞儀すると、よくやったというようにレオが頭を撫でた。


「それで、俺達も一緒に呼んだのは、ジルについて聞きたいからでしょうか?」

「ああ、そうだ。君たちはよくジルト君を教室まで迎えに来てまで一緒に昼食を取っていたと聞く。旧知の仲であることは予想できるのだが、いまいち繋がりが掴めない。それにジルト君を保護することに関しては君たちにも話を通しておいた方がいいと思ってね」

「それはありがたいです。ジルは俺達にとって大事な仲間です。変色者とかは関係ありません。もし護りを頂けるならそうしたい。俺達ではどうしても目の届かない場所があります」


 レオの言葉には迷いがなかった。実際、歓迎祭や授業での暴発など、感知さえできなかったことも多かった。シュレイだけは感知できただろうが、それでも駆けつけるのは難しい。


「クラブの制度については初めて聞きましたが、ジルの親しい友人がいるなら心配はないでしょうし、ジルは古語が得意なので何かお役に立てるかもしれません」


 古語が得意という言葉に、クラブ長を含め後ろの学生までもが反応した。


「ウォート、一冊持って来てくれ」


 クラブ長に言われてウォートが持って来たのは、古い分厚い本だった。所々に新しい紙が挟まっている。その内の一枚を抜いて、クラブ長はページを開いた。


「ジルト君、この内容がわかるか?」

「はい、えっと……」


 文章を見て、ジルトは驚いた。そこに書かれていたのは、いくつかの呪文と、それに関する説明。そこまでは普通の魔法の本と変わりなかった。しかし、たった数文が他とは違っていたのである。


「“以下の呪文は、属性に関係なく使用可能である。いわば属性に分岐する前の段階であり、この魔法を使用することによって属性魔法の強化を図る”」


 こんな文は初めて見た。学校でさえ一番最初に習うのは各属性に合わせた魔法だ。総合的に属性魔法を強化する魔法など、聞いたことがない。


「本当に読めるのか!」

「うそ!」

「あれ難しかったのに」


 ジルトが本の内容に驚いているのに対し、クラブ長やそのクラブの仲間たちはジルトが辞書や文法書を使うことなく古語を読んだことに驚いていた。

 クラブ長の持っている紙には現代語訳が書かれていたのだろう。


「ジルト君、君は一体何者なんだ」


 ジルトを見るクラブ長の目は疑いに満ちている。


「生まれはどこだ。今まで教育を受けたことがあるのか?」

「私は北部の山の向こうで生まれました。孤児院で少しだけ勉強をしたけど、それほど長い期間ではないです」


 両肩をがっしりと掴まれて、ジルトはどう答えるべきか迷ったが、事実を述べることにした。


「北部だと?それでどうして……」

「クラブ長、ジルが北部の生まれなのは間違いありません。レオも、モーリも……シュレイも同じ孤児院出身です。たまたま北部を視察に来たセダム先生が魔力の高い彼らを見つけてテアントルに推薦したのです」

「たしかにセダム先生は北部を視察していたが……」


 カトレアの言葉に、クラブ長はまだ納得いっていないようだった。


「ジルは一度、とある研究所に攫われました。高い魔力を持って、変色者ではないことが興味をひいたようです。モーリはまだ幼く、これから色が変わるかもしれませんが、ジルはもう学校に入る年でしたので。

 俺も詳しくは知りませんでしたが、そこで色々研究されたそうです。その一環として古語を習っていたのだと思われます」


 レオの言っていることはまるっきり嘘ではなく、真実に近いことも多いため、それらしく聞こえる。


「平民は貴族やそれに近い研究員、教員にとって大した存在ではないのです。何とかジルを取り返そうとしているところに、カトレアが現れました。彼女は王家のやり方に耐えられず、北部に一度避難してきていたのです」

「そうです。逃げた先でも、ジルのように酷い扱いを受ける子を見て、このままではだめだと思ったのです。唯一私に理解を示してくれた護衛にジルの救出を頼んで、王都に戻りました。歓迎祭前にはジルも戻ってきて、それから親しくなったのです」


 レオの言葉をカトレアが引き継ぎ、限りなく真実に近い作り話が出来上がった。もしかしたら本当にそうなっていたのかもしれないと思うと不思議な気持ちになったが、レオとカトレアの努力を無駄にしないため、ジルトは頑張って固い表情を保った。


「まだ研究所に狙われてるかも知れないから、ずっと一緒に行動してたんだ。ジルは、俺の大事な家族だから」


 ずっと口を閉じていたシュレイも参加すると、クラブ長は納得を通り越して感動していた。


「旗を違えてドラゴンを守護とする王族の言葉に嘘はないのだろう。こちらも、嘘偽りなく説明をしよう」


 クラブ長から語られたのは、サクラから聞いていた情報に詳細がついたものだった。

 A.K.クラブは反王政派の隠れ蓑となっていること。始まりはこの部屋を作ったA.K.を慕っていた人物がこの部屋を見つけ、大量の魔法の本を発見したことであること。そして在学中に他校とも繋がりをつくり、それぞれが卒業後地元に帰り、こっそりと反王政団体を作ることによって、北部や中部の一部にその勢力が広がっていったこと。

 そんなことを繰り返しているうちに、現在では中央の2割、北部の3割に反乱の意思があるらしい。しかし南部の兵士は一人一人の力が強く、どうしても人数が足りない。だがドラゴンの娘が見つかったという報告があってからは、王族はより乱暴になり、もう耐えられない地域が多い。何とかして魔力を増やしたいのだという。


「私達の目標は、王族を王の座から引きずり下ろすこと。王族を王族たらしめている魔力の結晶を奪い、魔力そのものと象徴を奪うのだ。次の王については協力体制にあるドラゴンの信奉者に任せている」


 後ろの席で何人かが頷いていた。


「とにかく悪政を敷く王族を退けることがこのクラブ、ひいてはクラブの先輩方の意志だ。君たちもそれを望むのであれば、ぜひ協力してほしい。ここにある魔法書の中身を知ることができれば、人数差をひっくり返して王に一矢報いれるかもしれない」


 王との対話を目指してきたジルトにとって、過激とも思える行為だったが、王の政治がより酷くなっているのであれば、話し合っている時間など無いのかもしれない。それにこのクラブの者たちの意思を、ジルトが曲げることも違うような気がした。

 ちらりとカトレアを見ると、王族であるはずの彼女が一番やる気に満ちていた。カトレアが反対しないのであれば、ジルトも反対はしない。


「倒した王族はどうする?」

「特にどうもしない。大人しくしてくれないのであれば牢に放り込むが、報復しては奴らと一緒だ。人道に反することはしない。それがこのクラブの決まりだ」


 レオの質問に淀みなく答えたクラブ長を見て、


「ぜひ、協力させてください」


 ジルトはそう言った。


「ありがたくその意思を受け取ろう。だが、そう固くならないで欲しい。ここにいる者はみな学生だ。謳歌すべき青春があり、それは大人になってからでは手に入らない。学生生活をまず第一に。その一環として魔力を高め使える魔法を増やすという感覚でクラブ活動に取り組んでもらいたい。それが先達の意思だ」


 柔らかく笑ったクラブ長によって、今まで講堂内に籠っていた異様な熱が霧散していく。


「難しいことは大人に任せておけ、とのことだ」


 クラブ長はジルトに小さな袋を差し出した。その中には黒い石が収まっている。


「私達はA.K.が独自に開発したこの道具によって情報を共有している。北部や中央の村や町にそれぞれ一つずつある。本来なら余りは新しい村や町からの参入者に渡すのだが、狙われやすい君には一つ渡しておこう。もし学校の通信機を取られても誰かしらと連絡が取れる。黒髪の中でも深い黒の君なら、この道具を魔力の結晶だと誤魔化すこともできるだろう」

「ありがとう、ございます」


 ジルトは手の中の袋を大事に握り締めた。


「では改めまして。A.K.クラブクラブ長、三年二組のガイラル・アリステイトだ。ジルト、君とその仲間たちを歓迎しよう。

 なおクラブの者はみな仲間。敬称や敬語は必要ない。どうぞよろしく」

「よろしくお願いします!」


 ジルトとガイラルが握手をすると、拍手と歓声が上がった。


「ジルト!古語教えて!」

「カトレア様……カトレアさん!一度お話してみたかったの!」

「クラブ長ったらずっと黙ってろって言うんだもん。話長いから疲れちゃった」


 各々が好きに話しながら、ジルト達に近づいてくる。

 歓迎の言葉を投げられたり、質問攻めにあったりとA.K.クラブ内は騒がしさにあふれ、ジルトはおろおろしながら対応した。他の仲間もそれぞれ人に囲まれていて、戸惑いつつも楽しそうにしている。シュレイがしっぽを出さないように頑張っているのが伝わってくる。

 今までは数少ない仲間たちと、気を張りながら生活していた。全ての秘密を話せたわけではないが、同じ志を抱く仲間を手に入れて、ジルトはこれからの生活に大きな希望を見出した。

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