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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
43/116

中間試験の結果発表

 歓迎祭の翌週、その前に行われた中間試験の結果が返却された。ジルトは国語は満点、それ以外も平均をはるかに上回る点数であった。テアントルで真面目に座学を受ける生徒は少ないが、それを置いておいても優秀な成績であったと言えるだろう。


「すごいね、ジル」


 隣からジルトの結果用紙を覗き込んだのはサクラだ。薄桃色の髪は今日もさらさらしている。


「ありがとう。セダムさんのおかげだ」


 補講の担当であったセダムの名前を言ってもわからないかもしれないといった心配は無用だった。


「セダム先生!あの先生ってとっても素敵だよね。物腰が柔らかくて、偏見もないしみんなに平等に接してくれるの。授業はもってもらったことないけど、いつかはセダム先生の授業受けたいわ」


 異国の教師であるセダムは有名らしく、彼の人のよさゆえにかほとんどの生徒に気に入られているらしかった。


「おはよう、ジル」


 声がした方を見ると、オレンジの髪が教室の入り口からのぞいていた。先日友達になったばかりのバルディア・バールである。


「おはよう、バル」


 ジルトとバルディアの関係の変化に教室がざわりとして、ジルトは気まずい中で返事をした。その隣のサクラはやれやれとでもいう風に苦笑していた。


「ジル、君はすごいな。今回の実技テスト校内1位なんだって?」


 周りの視線も気にせずずかずかとジルトの席に歩いてきたバルディアは、ジルトの肩を掴んで大きく揺さぶる。サクラが止めてくれなければジルトは一限の間ずっとゆらゆらした感覚が残っていただろう。


「私の順位、どうして知ってるの?」

「そりゃテアントル名物の貼り出しがあるからね。昇降口前の掲示板、見なかったの?」

「張り出し?」


 そんなものがあることにすらジルトは気づいていなかった。今日はいつもより混んでいて教室まで進みにくいなと思った程度だ。ご丁寧にバルディアが案内してくれると、そこには掲示板を埋め尽くすほど大きな紙があった。

 その順位は全学年の総合、科目ごと、座学、実技の種類ごとに細かく分けられており、一つにつき五十名までの名前が載せられている。一年の順位を見れば、いつものメンバーの名前がいくつか見受けられる。特にレオの名前は面白いくらいにあって、座学全科目一位、座学総合一位、実技全科目二位、実技総合二位で総合一位と大変優秀な成績であった。


「君の友達のレオ君はすごいね。僕なんか一つも載らないのに」

「バル……」

「いや、いいんだ。羨んだってしょうがない。普通なら一組の名前で埋め尽くされる掲示板にジルの名前があるってだけで僕は嬉しいし、頑張ろうって思える」


 意気込んで笑うバルディアが、同じく二組で貼りだし結果に乗っているウォートの名前を出さないことに意味はないのだろうか。すこしずきりとしながらジルトはありがとうと微笑んだ。



*



 「ねえジル、明日、時間あるかしら?」


 試験の結果発表のためにあるような日なので、今日は午前で授業が終わり、みんなで食堂でお昼を食べるためにジルトが立ち上がった時だった。

 サクラが若紫の瞳でジルトを見上げながら言った。


「明日?」

「そう、できればジルのお友達も一緒に」


 レオ達もと言われればジルトには伝わった。


「A.K.クラブの話なのね」

「ええ、クラブ長が会って話をしてみたいと。ジルは変色者ではないのに魔力が強大で、周りからの風当たりが強いという噂は上級生にも広まっているようだから。私がジルをクラブに入れてはどうかと相談したら、その場で面会の申し入れがあったわ」


 授業や歓迎祭を通して、2組の中ではジルトは受け入れられつつあるが、変色者でもないのに優秀であるジルトをやっかむ者は少なくない。今日の貼り出しで魔力面だけでなく学業においても目立ってしまったため、ジルトを好ましく思わないものはさらに増えそうだ。


「学内の様子からジルは王族でも貴族でもないだろうとクラブ長も反対はしないのだけど、ジルはカトレア様……カトレアさんと一緒にいるでしょう?レオくんのように他にも素性の知れない変色者とも……」


 打倒王政のために魔力はどうしても欲しいが、万が一A.K.クラブの真の目的が露見してしまった場合が心配なのだという。


「わかった。明日はみんな時間があると思う」

「本当?!じゃあお昼の時間に学校で」


 ぱぁっと花が咲いたように笑ったサクラは「呼び止めてごめんなさいね」と、ジルトを送り出してくれた。

 中間試験の結果発表の翌日から、中央では一週間学校が休みになる。歓迎祭と中間までの疲れをとり、体育祭、期末試験に向けて頑張れるようにするためだ。しかしながら施設自体は解放されているので学生の出入りは自由である。特にテアントルは上流階級の者が多く、実家に帰る者がほとんどなので、ジルトは人の少ない学校に胸を弾ませながら食堂へ向かった。


「ジル、遅かったな」

「ごめんなさい、先生のお話が延びちゃったの」


 食堂に向かえば、見慣れた四人が席についていた。変色者の多いテアントルでもシュレイの色は珍しいので、見つけるのは簡単なのだ。

 遅れた理由を述べてから昼食を選びに行ったジルトが席につくと、明日からの休暇についての話になった。


「やっとジルの学業も落ち着いたからな。みんなでどこか行きたいね」


 カトレアの言葉に、モーリが元気いっぱいに頷く。


「うんうん!ご飯も学校で食べることが多いから、中央の食堂に行ってみたい!」

「俺は劇を見に行きたい。山……北部にいた時から憧れてたんだ」

「劇か。私も久しく行っていないし、いいかもしれないな」


 北部から中央を目指していた時は先に進むのに必死で、各々のやりたいことについての話などゆっくりはできなかった。ジルトは学校という小休止に感謝した。


「おいジル、にこにこしてないで、要件を言え」


 不機嫌そうにレオが指摘する。

 こういった話題には率先して参加するジルトが一歩引いていることだけで、レオにはジルトが何か話があるとわかるようだった。


「あ、えっと。サクラが……明日みんなに会いたいって」


 サクラの名前を出しただけで、全員何についての話かわかったようだった。先ほどまでの和気藹々とした雰囲気は消え、空気が強張る。


「みんな?それは、私も、ということだよな?」


 一番驚いたのはカトレアなのだろう。不思議そうに首を傾げてジルトを見る。


「うん。たぶん、私がどういう立ち位置なのか知りたいんだと思う」

「当然だろう。変色者ってだけで権力者に近いように感じるのに、王族とも一緒にいるんだからな」


 レオは動揺も何もく、平然としていた。


「行けばいいだろ。ジルと関わるなら、必然的に俺達にも関わることになる。最初から説明してやったほうが面倒がなくて済む。ただ――」


 レオは一度言葉を切って、カトレアに目を向ける。


「反発するやつらばっかだ。お前がどういう目で見られるかは、わかるだろ?」


 反発するもの、と婉曲に表現した反王政派は王族であるカトレアにいい印象は抱かないだろうと、遠回しに言った。

 カトレアは一度動きを止めてレオを見た後、困ったような笑顔を見せる。


「理解しているよ。私がどう思っていようが、私が王族であるという事実は変わらない。むしろ知ってもらういい機会だと思う」

「ならいい」

「ふふ、レオに心配されるとは変な感じだな」


 おかしそうにくすくすと笑いだしたカトレアに、シュレイが大げさなほど驚いた。


「嘘だろ?!今のがカトレアを思いやっての言葉なのか?!」


 金の瞳がぱちぱちと消えたり現れたりする。

 ジルトとモーリは向き合ってにこにこと微笑みあった。


「レオはわかりにくいもんね」

「うん。カトレアはよくわかったね」

「流石にずっと一緒だったからね」


 レオは優しい。

 ジルトを心配して湖まで迎えに来てくれたり、寒い中探し回ってくれたり、モーリに意見を求めたり。他者を思いやるということを知っている。けれど、その優しさが厳しさとなって現れることも多く、人によってはレオの心配を叱責と捉えてしまうことがある。

 わかりにくいレオの不器用な優しさを他人が理解してくれるのは、ずっと一緒に育ってきたジルトとモーリにとってとても嬉しいことなのである。


「……なるほど」


 しばらく考え込んでいたシュレイは、同じ部屋で過ごした中でレオに言われた言葉を思い返していたのだろう。特にシュレイとレオはお互いに素直でないところがある。レオの優しさは本当にわかりにくくなっている。


「おい、俺の話じゃないだろ。明日行く、それでいいだろ」

「レオが照れた!」


 おもしろそうに言うモーリの頭をレオが押さえつける。


「それでいつどこに?」

「明日のお昼に学校。入り口でいいんじゃないかな?」

「そうか。なら一旦解散だ」


 荷物を持ってトレイを片付けようとするレオの耳はほんのり赤い。


「レオ、耳――」

「ジル?」


 レオの綺麗な青い目が、余計なことを言うなと眇められる。


「何でもない」

「よし」


 ジルトはきゅっと口を閉じたが、レオが行ってしまってから、我慢できなくてカトレアと笑い合ってしまった。

続きます。

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