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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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ウォートの怒り

「君のクラスの催しにも使われる魔力の結晶はね、魔力を具現化したものだ。砂ほどの大きさのサイズを作り出すのも一苦労だが、その輝きは美しい。魔法道具は使用者の魔力を使うものと、結晶を使うものが存在するが、後者は値が張って貴族でも入手が難しい」


 放課後、ジルトは落ち着かない気持ちでセダムの補講を受けていた。


「うーん、実際に結晶を作るのはまた今度にしようか」


 セダムは教室の窓から廊下の様子を見て、苦笑した。ジルトが補講に集中できなかった原因はそれである。

 午前の魔力実技での計測器の破壊、午後の性質実技での先生との実演。その二つの出来事は、ジルトの印象を何だかうさんくさい変色者でもない推薦入学者から、よくわからないがすごい人に変えた。

 性質実技の授業後、名前も知らない人達に一度に話しかけられ、ジルトは逃げるようにしてセダムの補講に向かった。そこで諦めてくれればいいものの、大半がジルトについてきて、ジルトの補講が終わるのを廊下で待っていたのだ。


「ごめんなさい、セダムさん」

「いいんだよ。君は飲み込みがはやいし、しっかり予習してきてくれるから進みはいい。友との交流も学生にとっては大切だからね」


 にっこりと目元の皺を濃くした彼の計らいで、ジルトは補講を半分の時間で切り上げることになった。


「ね、レーネ君、さっきの炎刀えんとう初めてって本当?」

「あれ付与じゃなくて変形の魔法だったよな!いつの間に習得したんだ?」

「今から時間ない?僕、コツを教えて欲しいんだけど」


 教室を出た瞬間に十人程のクラスメイトに囲まれる。

 何とかしたいが、矢継ぎ早に飛んでくる言葉にどう答えればいいかわからないし、そもそもジルトはあまり声を出してはいけないのだ。


「ごめん。部屋で勉強しなきゃ」


 とにかく人目に付く前にこの人達を追い払おうとする。


「じゃあ部屋に行ってもいい?君のルームメイトって誰?」

「ウォート君」


 用事をつくっても離れていく様子がなく、困っていたジルトだが、ルームメイトを明かすと、周りで喋っていた人達がしんと静かになった。


「何?」

「かわいそうに。あんな奴がルームメイトなのか」

「庶民のくせに王族からの支援なんか受けてるんだぜ」

「あれは絶対()()()()よな?」

「ああ、あの隈が証拠だ」


 ジルトが聞けば、我こそはと一斉にしゃべりだす。ジルトが聞き取れる範囲では話がよくわからない。


「何を売ってるの?」

「何って、体さ」


 ジルトに一番近い男の子が吐き捨てるように言った。


「だいたい予想がつくだろ?」

「レーネ君は箱入りかい?実は貴族とか?」


 体を売るという言葉をジルトはこの時初めて聞いたが、深くきくのは普通ではないのだと認識する。


「ああ、そうかも。でも、勉強遅れてるから」


 ジルトが部屋に戻るのだと理解すると、取り巻いていた少年たちはまた今度教えてよと、名残惜しそうに離れていく。

 ウォートは好きで一人でいるのだと思っていたが、そうでもないらしい。初日のジルトのように煙たがられる存在だったのだ。彼の方から喋りかけるなと言われているものの、同じ部屋で暮らしているのに、ジルトは彼のことを何も知らなかった。



 *



 部屋に入って、ジルトは驚いた。

 いつもはいないはずのウォートがいたのだ。それも痣や血の散る上半身を晒して。

 驚いたのは彼も同じらしく、珍しく目を大きく見開いている。


「それ、どうしたの」


 ジルトが訊ねると、はっとして、ぎろりと彼女を睨みつける。


「何でもない」

「何でもなくないよ!早く手当しないと」


 ばたばたと救急箱のある場所に向かうジルトに、ウォートは立ち上がって近くにあった本を一冊投げつけた。


「何でもないって言ってんだろ!貴族が偽善を口にするな!」


 本の当たった肩を抑えながら振り返ると、ウォートがぐらりと床に倒れ込むところだった。慌てて支えにいくも、ジルトの腕が痣に当たったのかウォートは顔を歪める。


「無茶しちゃだめだよ。そんな風に自分の体を売るのもやめたほうがいい」


 ウォートの傷は明らかに他者に付けられたものだった。ジルトにとっては先程の話との照らし合わせで、誰かに殴らせることが“体を売る”という行為だと思っていたのだ。

 しかしその意味は遠からずとも別のところにあり、正しい意味を知り、かつジルトの勘違いを察したウォートは口をあんぐりと開けてからきゅっと閉じた。


「回復魔法はわからないけど、手当くらいなら――」

「俺が、体を売ってるってきいたのか」

「え?」


 ジルトは何が起こったのかわからなかった。

 頬が痛い、歯も痛い。顔が左を向いていた。

 床に手を突いたジルトは殴られたのだ、とウォートの固められた拳を見てから気づいた。


「貴族共が、好き勝手言いやがって!()()()()()はお前らの趣味だろうが!」


 かっと怒りで顔を赤くしたウォートが叫ぶ。ジルトは、彼がこんなにも大きい声を出せるとは思っていなかった。


「そういうのって」

「はっ、貴族の箱入り坊ちゃんは無知でお綺麗なことだ」

「私は貴族じゃ――」

「お前らなんてみんな死んじまえばいい!!」


 ジルトの言葉には耳を貸さない。ウォートは脱いであった服を引っ掴んで、部屋から出て行ってしまった。

 バタンと乱暴に閉められたドアを、ジルトは困惑して見つめるしかなかった。

続きます。

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