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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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悪魔の囁き

 三、四限は魔法座学で、イルに教えてもらった内容の一部をごく丁寧に習うことになった。魔力の性質についての授業だったが、やはり女性についての魔力の説明はなく、図書館で調べてみようとジルトは思った。


「以上です。次に授業ではそれぞれの性質の特徴について説明しますので、各自予習しておくように」


 二限続きの授業では居眠りをしてしまう生徒も多かったが、ジルトとその両隣は眠そうな素振りは全くなかった。共同生活数日だが、ウォートが夜遅くまで本を読み漁っているのは知っているし、それを示すように彼の目には常に隈ができている。いつ寝ているのか疑問であり、それを会話のとっかかりにしようとしていたジルトだが、休み時間になるとウォートはいつも外に出て行ってしまうのでその機会はなかった。


「ジルト君の性質は何?」


 昼に突き放してから少し気まずかったサクラは、ジルトと違いその素振りも見せないで、優しく話しかけてくれる。


「たぶん、火」

「たぶん?面白いね。私も火の性質だよ」


 優しい彼女の出す炎はきっと柔らかいのだろうな、とジルトは思った。


「明日は魔力と性質強化の実技授業があるの。一緒の班だといいね」

「うん、そうだね」


 本当はもっと話したいが、なるべく少ない言葉で返そうとすると、中々話ができない。そうこうしているうちに、五限開始のチャイムが鳴った。その時にはもうウォートは教室に戻ってきていた。



 *



 歴史の授業が終わり、セダムの補講授業に行こうとしたが、歴史の担当教員と入れ替わりにクラス担任が入ってきたため、ジルトは浮きかけた腰を下ろした。


「中間テストが近くなっているが、それより先に歓迎祭の展示を決める。クラス長、副長、進行を頼む」


 クラス長なるものが存在することは、この時初めて知った。


「では、我々一年生のために行われる歓迎祭ですが、知っての通り、この歓迎祭と秋の収穫祭は貴族、庶民関係なく学校区の学生が全員で盛り上げるものです!上級生の屋台などを楽しむのがメインですが、一年も祭りに参加するために何かしらの展示をする必要があります。って、ここまでが資料の内容ですが、何か案のある人!」


 元気に司会を担当するのは、オレンジの髪に黄色の瞳の少年だった。その後ろで黒板に文字を書いているのは藍色の髪と瞳をした少年だ。オレンジの髪の子がクラス長で、藍色の髪の子がクラス副長なのだとジルトは理解した。


 教室のあちこちで話し合う声が聞こえる。右隣のウォートはつまらなさそうに廊下の方を向いているので、サクラと話をしようと思ったが、彼女は既にジルトと反対隣の生徒や前の席の生徒と話している。ちらりとジルトを見てくれるが、ジルトを避けている周りの生徒への申し訳なさと、実際に入ってくるなという視線を向けられ、サクラの思いやりを受け止めることはできなかった。

 必然的に女子の少ないテアントルでは女の子は重宝される。加えてサクラはかわいい。男子たちが放っておくはずもなく、いきなり現れたジルトにサクラの興味をひかれるのは面白くないのだろう。

 話に参加できないまま、クラスでの話し合いは進み、結果ジルト達のクラスは小さな魔力の結晶を使った作品を作ることになった。魔力の結晶についての授業はジルトがいない間に行われたらしく、ジルトはよく理解できないまま話し合いは終わってしまった。

 みんなが帰るために教室を出て行く。ジルトもセダムのところへ向かおうとした矢先、クラス担任がジルトに近寄ってくる。話しかけようとしてくれたサクラも、遠慮をして挨拶だけして教室を出て行った。

 担任と二人取り残された教室で、ジルトは声を発せなかった。顔に皺の刻まれ始めた目の前の男は眼光が鋭く、怖かった。


「レーネ君」


 出された声も地を這うように低く、ジルトはびくりと肩を揺らす。


「展示品の制作は放課後、六限の時間帯にあたる。君は補講でいないだろう。話に入る必要もない」


 それだけ言って、教室を出て行ってしまう。

 数秒遅れて意味を理解したジルトは、ぶわりと頬を赤くした。喉元に何かがせり上がってくるのを何度も飲み込みながら、目頭が熱くなるのを我慢した。

 つまり、彼はこのクラスでの活動に、ジルトは必要ないと言ったも同然なのだ。普段ならそんな風には考えなかったかもしれないが、この一日を通して、ジルトは自分がどのように受け止められているのかを理解していた。


(泣いちゃ、だめだ)


 ジルトはよく泣く方だと自分でも理解していたが、こんなことで涙をこぼしたくなかった。泣いてしまえば、その言葉を受け入れてしまうような気がした。


 ――ジルニトラ――


 あの男の、悪魔のような囁きが聞こえた。


(外の世界で、君は受け入れられないよ。今までは君の周りの人間が優しすぎただけだ。君は理解されない存在なんだ。ドラゴンの娘だとは誰もわかっていないのに、酷い扱いを受ける。そういう運命なんだよ)


 確かにジルトの周りにはいつも優しい人達がいた。


(戻っておいで。俺のもとならそんな思いをしなくてもいい。俺が愛してあげるよ)


 頭で響く声を、頭を振ってかき消す。

 あそこに戻っても地獄のような日々が待ち受けるだけだ。今クラスの人が冷たく感じるのは、ジルトのことをよくわかっていないから、それだけだと言い聞かせる。


(ふふ、じゃあ彼らは君がドラゴンの娘だと理解したらどうするのかな?尊敬する?畏怖する?それとも君を責めて怒るだろうか?)


 どうするのだろう、とジルトは純粋に疑問に思った。もし、自分の正体を知ってしまったら、どんな反応をするのだろうと。


(ううん、関係ない、そんなこと。私は理解されたいんじゃない。この国を変えたい、いろんな人を理解したいだけなんだ)

(その強がりがいつまでもつかな)


 じりじりと右の頬が熱くなる。痛みを伴う熱にしばらく耐えると、それは次第に消えていき、頭の中で響いていた声も去って行った。

続きます。

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