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竜眼の少女  作者: 五十音
テアントル
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久し振りの再会

「ジル!ああ、本当にジルだ!」


 ファレンとの別れから数時間後、ジルトはついにみんなとの再会を果たした。

 シュレイにもうすぐ着くとの連絡を受けてからそわそわしていたが、みんなの姿を見た瞬間、嬉しくって泣きたくなって、胸がいっぱいになった。

 着くなり飛びついてきたモーリを抱き留めて、ジルトは涙を流す。


(よかった!みんなに会えた!あの時、頑張ってよかった!)


 ぎゅうっとモーリを抱きしめると、痛いよと嬉しそうな声がする。


「ジル、心配だったんだ。また会えてよかったよ」


 そう言ったのはジルトにとってはライヤで、レオと同じく表情があまり変化しない方なのに、顔を歪めて頬を濡らしていた。バンダがこの光景を見ていればびっくりしたことだろう。


「ライヤ!私も会えてうれしい!」


 モーリの次にライヤと抱き合う。ジルトの体温を腕の中で感じて、ライヤは固まっていた何かがとけていくような気がした。


「ジル、久し振りだね」

「シュレイ!ありがとう、シュレイのおかげでここまで来られたよ」

「ジルの為なら何だってする。生きててくれてありがとう」


 今度はシュレイとの抱擁だった。シュレイとジルトは契約を交わした特別な存在であり、片方がかけてしまっていては埋まることのなかった部分が満たされていくのを互いに感じ取った。シュレイにとっては唯一の魔女の生き残りであるジルトは、何にも代えられない存在だ。

 残るはずっと一緒に育ってきたレオだったが、彼は図書館に少しずつ人が集まるのを察知して、場所を変えようと言った。ジルトは少し寂しかったが、本来本を読む場所である図書館でずっと騒がしくするわけにもいかず、大人しく従った。


 図書館の一から三階は主に本の保管や閲覧のための場所であり、その一つ上の四階に会議などで使用できるミーティングルームや学習室がある。ジルト達はその内の一つに入った。

 こまめに掃除されているのか、清潔感のある部屋はみょうに緊張して、再会の熱も次第に収まっていくようだった。


「まず、お互いに何があったか報告しよう」


 全員が席に着いたのを確認してからレオが言った。

 シュレイからみんなが学校に入学したのだとは聞いていたが詳しい説明はまだで、ジルトにとっても何が起きてこうなったのかはわからないし、当然レオ達にもジルトから話さなければならないことがたくさんある。


「ジル、初めにお前から教えてくれるか?みんな心配だったんだ」

「うん、わかった」


 レオに言われて素直に頷くが、正直ジルトにとって研究所での出来事は思い出したくもないことで、あまり事実をそのままいう気にはなれない。何を言うべきで、何を言わないでおくべきなのか、ジルトはしばらく考えてから口を開いた。


「えっと、宿に泊まってた時に外に出て迷子になってね、その時にある人に捕まっちゃって。研究所って言ってた。その人は私がドラゴンの娘だってわかってて、そこでしばらく魔法とか、体の性質とかを研究された。でもある日、すごく逃げたいって思って、気がついたらクラムさんの家にいて、しばらくお世話になったの。それでクラムさんの家を出る日に右目を見られちゃって、一人で飛び出した。その後はシュレイに教えてもらいながら森を抜けてここまで来た」

「クラムってやつのことはわかった。その研究所にいたのは誰だ?名前や特徴はわかるか?」


 間を置かずにレオから質問が飛んでくる。


「名前はわからない。主人マスターって呼ばれている男の人が一人と、女の人が一人いた。男の人は金髪に黒い目で、髪が長かった。女の人は黒髪で黒目かな」


 レオがライヤに目配せして、ライヤがメモを取る。


「わかった。じゃあ次にこっちの動きを説明する。まず、今ここにいない人物だが、バンダは南部の城で働いている。あいつは推薦でもう学校を卒業しているからな。次にイーリスだが、彼女も俺達と同じ学校に通っている。もともと通う予定になっていた学校だ。ジルのことは口外しないように言い含めて、入学後は自由にやってる。わからないことは?」

「今のところないよ」

「よし、次になぜ俺達が中央の学校に通っているかだが、ジル、セダム・ベンケという人物を知っているか?」


 レオが出した名には聞き覚えがある。

 ジルト達が孤児院を出るきっかけにもつながっている人物だ。仕事でアグノードに来ている外国人で、最北端で倒れているところをジルトが助けた。


「うん、覚えてるよ。私に魔法の紙をくれた」

「そのセダムさんが学校の教師で、ジルに渡した紙から俺達の居場所を探し出して、推薦制度を使って俺とジル、モーリ、シュレイをテアントルっていう貴族学校に入れてくれた。中央、特に学校区辺りは権力の介入が許されていないから、王族達から隠れるのには持ってこいだろ。それに魔法を学ぶこともできる。大雑把に説明するとこんなところだ」

「わからないところはないか?」

「大丈夫だよ、ライヤ」


 ライヤに問われてジルトが頷くと、


「その名で呼ばれるのは久し振りだな」


 ライヤが苦笑した。


「どういうこと?」

「言ったろう、私は王族だと。名前でバレるからずっと偽名を使ってたんだ。それがライヤ」


 そういえばそうだった、と思いながらもジルトは驚く。


「じゃあ私、何て呼べばいいのかな?」


 そうだな、とライヤはジルトの方に真っすぐ向き直った。


「改めまして、私はカトレア。カトレア・オーキー。よろしくな、ジル」


 差し出された手を、ジルトは取った。


「カトレア。よろしくね」


 カトレア、カトレアとジルトは何度か繰り返す。


「まだ慣れないなぁ」

「ふふ、そうだろうね。だけどジル、ジルは慣れなきゃならないことがたくさんあるぞ」

「そうだね。学校はもう始まってるし、授業とかどうなるんだろう」

「授業なら心配いらないよ!セダム先生が補講の形で教えてくれるんだって!」


 モーリが元気に答えてくれる。


「いや、ジルは授業以上に心配しなくちゃならないことがあるんだ」


 不満気な顔で教えてくれたのはシュレイだった。


「え、なに?」

「王族であるカトレアは別として、魔力が使える女性は基本的に王宮に集められる。だからジルトが()()()()魔法が使えたらおかしいし、疑われる。でもお前が魔法の勉強をするための学校でもあるから、魔力の使えない存在として在籍するのも意味がない」


 説明を引き継いだレオが、難しい顔をする。

 ぐるっと見渡せば、キラキラした顔のモーリ以外、全員が暗い顔をしていた。


「それで、私はどうすればいいの?」

「ジル……。お前は()()()()学校に入学することになっている」

「え、ええ?!」


 男として入学とは一体どういうことだろうか。


「実際にはもう入学はしてる。体が弱くて休学中ってことになってたが、さっきセダムさんにもジルのことは伝えたから、三日後には教室に入ることになると思う」

「え、そうなの?どうしよう、私。男の子って」

「混乱するのは当然だ」


 カトレアがジルトを抱き寄せて、よしよしと頭を撫でる。


「俺だってどうにかしたかった。だがどうにもならないだろ。ジルの魔力は大きすぎる。女だったらすぐにドラゴンの娘ってばれる」

「ジルの魔力なら男でも危ういけどな」

「それでもまだましだ。魔力の高いものに姿を変える魔法は使えないからな」


 そう言いながらも不安ではあるのか、レオの眉はぎゅっと真ん中に寄せられたままだった。


「そもそも学校は全寮制の上に、二人一部屋だ。俺が一番心配なのはそこなんだよ」

「ジルにとって、というか私達にとっての他人がずっとジルと一緒なのは私も心配だ」

「俺とレオはたまたま同室だったから、何かあればこっちに逃げてきてもいい」

「ぼ、僕も応援する!」


 全員の不安にあてられながらも、ジルトは自分を奮い立たせる。


「私、大丈夫だよ。頑張るから」


 ここを乗り越えなければ、強くはなれない。

 彼女の目標は王と交渉して、少しでもこの国を良くすることだ。そのために自身の力を最大限にきちんと扱えるようにする。

 こんなことで怯んでいるようでは、王との謁見すらかなわない。


「そうか、そうだよな。どっちにしろやるしかないんだ。悪いな、不安にさせて」

「大丈夫だよ、レオ。だって学校ではみんなに会えるんだし、ずっと離れてた今までに比べたらすごく安心できる」

「そうだな。何かあったら俺を呼んで。助けに行くから」

「私もだ。私は王族だからあまり皆近寄りたがらない。人避けには持ってこいだ」

「みんな一緒だと、嬉しいね!」


 モーリがにっこり微笑んだのを見て、ジルトもつられて笑った。

 仲間がいる。たったそれだけの事実がこれほどまで心強いことだとは。長い別れを経た今だからこそ、みんなの大切さが身に染みた。

 ジルトの学校生活は、衝撃の連続からスタートすることになった。

続きます。

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