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竜眼の少女  作者: 五十音
北部にて
24/116

懐かしい交信

 クラム・クローバー。教えられた名前を頭の中で反芻させると、何だか懐かしいような心持になる。ジルトはもう一度寝かされたベッドの上でぼんやりと天井を眺めていた。

 あの白い空間から逃げたいと思った。自分が徐々に自分ではなくなっていくような感覚が怖いと思った。無意識のうちに魔法を使ったのであろう、目が覚めたら全く知らない人の家に横たわっていた。

 その人物は、魔力の強い、もしくは魔法を使える女性たちを保護する活動を行っていた。おそらくジルトのせいで、王宮で酷い目に遭ったであろう、遭うことが予想されたであろう人々を救っているのだ。この場に逃げたのは運がよかったのか、悪かったのか。

 ごろりと横を向くと、脳の奥でか細い声が聞こえた。ぷつぷつと点のように途切れていた音は、次第に明確なひとつの線として言葉に成る。


〈ジル、どこいいる?〉


「シュレイ!!」


 ばっと起き上がると、あたまがくらりとして再び布団に戻ることになる。

 ちかちかとした視界が元に戻ったところで、声に集中しようと目を閉じる。


〈強く念じてくれ、ジル。距離が遠すぎて正確な場所がわからない〉

〈シュレイ、私はここだよ〉


 具体的な説明をする必要がないのはわかっていた。自分の存在を自分で確かめるように意識を体中に巡らせる。


〈よかった!ジル、無事なんだな〉


 契約によってジルトの位置を確認したシュレイが、ほっとしたような声でジルトに語りかける。


〈うん、大丈夫。親切な人に助けてもらったの〉

〈そうか、それなら――〉


 ぷつりとシュレイの声が途切れる。


〈シュレイ?〉


 呼び掛けても返事はなく、数分後が経った。


〈悪い。こっちで話してた。ジル、俺達が迎えに行くから、しばらくそこで待ってて。一週間以内には着く〉

〈わかった〉

〈あと、絶対にドラゴンの娘であることはばれないようにして〉

〈もちろんだよ〉

〈じゃあまた連絡する〉

〈うん、またね〉


 シュレイとの交信が終わり、ジルトはふぅと息を吐き出す。シュレイの声が途切れた時にみんなで話でもしてたのだろうか。ジルトの頭の中に、みんなの顔が浮かぶ。レオ、モーリ、シュレイ、ライヤ、バンダ、イーリス。もうしばらく会っていない。もうすぐ夏になる。

 じわりと溢れる涙を腕で拭う。

 泣いていちゃだめだ。もうすぐみんなに会えるんだから。何ともなかったんだから。大丈夫なのだから。自分に言い聞かせる。


(強く。強くならなきゃ)



*



 魔女狩りの一族は昼食をみなでとるという決まりがある。大人たちは魔女についての情報を共有し、子どもや魔力の強い少女、女性は食事が終われば普通に遊び、時には魔法を教え合う。


「クラム、最近すぐ帰るのね」


 魔女についての情報は特に入っておらず、食事も終わって自分の家に戻ろうとした時、トーチがクラムの服の裾をついっと引っ張った。


「……そうか?」


 ジルトを一人きりにさせるのが心配だったのだが、クラムはまだジルトのことを他の人に話していなかった。特に隠しておく必要もないのだが、ジルトは回復したら帰る場所があると言っていたため、わざわざ紹介する必要もないと思っていたのだ。


「そうよ!私とも全然話してくれないし」

「他の子もいるだろう」

「クラムがいいの」


 わかるでしょ?と下から見上げられて、クラムは首を捻った。


「トーチはみんなと仲がいいだろう?俺にこだわる必要はない」

「違ーう!もう、クラムのわからずや!」


 あからさまに怒ったトーチに、クラムは訳もわからずにとりあえず謝る。


「すまない。じゃあ、久し振りに俺の家に来るか?」


 宥めるようにトーチの頭を撫で、ふと思いつきを口にした。

 ジルトだってずっと大人の男と二人では楽しくないだろう。トーチとジルトは歳が離れているが、誰とも打ち解けられるトーチならば、短い期間でもいい話し相手になってくれるだろう。


「ほんと?!嬉しい!」


 ぱっと花が咲いたように笑うトーチに、クラムも思わず微笑んだ。



 *



 「こ、こんにちは。初めまして、ジルトです」


 家で本を読んでいたジルトは、クラムと共に現れたトーチに気づき、立ち上がって挨拶をした。

 年下の子を兄弟のようにかわいがるトーチだが、クラムが想像していたようにすぐにジルトに歩み寄ることはなかった。じっと真剣な目でジルトを見つめ、眉をひそめる。どうかしたのか、と問いかけるほどの間ではなかった。


「初めまして。私はトーチ」


 ふわりと表情を和らげて、トーチはジルトの手を取った。


「私は十八、あなたはもう少し下かしら?」

「私は十四歳」

「やっぱり。まだあどけないもの。どうしてクラムの家にいるの?」

「え、えっと、倒れているところを助けてもらって」


 それでそれでと話を続ける二人を見て、クラムはほっと息をついた。

 クラムとも会話はできるが、あんなに楽しそうに話すジルトを見たのは初めてだった。


「え?!一緒のベッドで寝てるの?!」


 クラム!と責めるような声が飛んでくる。


「家には一つしかない。使うように言ったんだが、ジルトも譲らなくて、折衷案だ」

「お年頃なのに!あなたも中々頑固なのね。勝手に使っちゃえばいいのに。遠慮することないわ」

「それはちょっと」


 和気あいあいと話を弾ませる少女たちに交じりながら、クラムは穏やかな時を過ごした。

続きます。

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