イーリスとの出会い
「な、なんだこれ?!お前、女のくせに魔法が使えるのか?!なら高値だな!」
少女は解放されることなく、店主が炎で蔓を焼き払い、元の状況に戻ってしまった。
「それは、俺の魔法だ」
ジルトを抑え、シュレイが一歩前に出た。手の中に植物を出現させながら、ゆっくりと店主に歩み寄る。
いきなり現れた子どもに、店主は言葉を失う。それはシュレイが変色者だったからである。しかも灰の髪に金の瞳。珍しい色合いだ。
魔力の平均所有量が少ない北部において、ジルト達は既に目立っていた。金髪が二人、灰色の髪が一人。目立たないわけがない。ただ、人というのは物珍しがりはするものの、その興味関心は長続きはしない。その人物が直接、何か行動を起こさなければ。
「悪い。私たちの仲間なんだ。先に席を取っておくよう言っていたんだが、長く待たせ過ぎて食べてしまったらしい」
整った顔立ちの金髪のライヤが加わることによって、人々の視線が徐々に集まっていく。
「いや、でもこいつ金がないって動かなくて」
「事実そうだったんだ。私達が金を持っていて、動けなかったんだ」
「でも逃げようと」
「誰だって掴みかかられれば逃げたくもなるだろ」
通行人の視線が集まる中、子どもに説教をされる趣味はなかったのだろう。店主は不承不承謝罪の言葉を口にし、ジルト達を店内に招きいれた。
食事をし、きちんと少女の分もお代を払って定食屋を出た。
数分歩いて人通りの少なくなったところで、少女がぴたりと止まって、ジルト達を振り返った。
「さっきはありがとう」
にこりと笑ってお礼を言った少女は、その髪も目も金色に輝いていた。ライヤはきりりとした美人だが、それとは違って彼女は可愛らしい顔つきをしていた。ショートカットの髪がさらりと風に揺れる。
「ごめんね、つい魔法を使っちゃって。びっくりした?」
「そうだな、女性で魔法を使える人はそうそういない。私も私以外に使える人間には初めて会った。ただあまり人目のあるところで使用すると王宮に売られるぞ。気をつけた方が――」
「え?!あなたも使えるの?!」
少女の方が驚いたらしく、大きな目を更に見開いている。
「あ、ああ。一応」
「じゃあ、その子も?」
少女がジルトを指さす。ライヤは一瞬躊躇ってから、
「いや、この子は違う」
否定した。
「ふーん、そうなのね」
顎に手をやって何か考えてから、少女が思いついたように言った。
「ね!あなた達、中央の学校を目指してるんでしょう?!一緒に着いて行ってもいいかしら?!」
「え?」
「は?」
驚いて口が開いてしまったジルト達を置いて、彼女は話を続ける。
「私、イーリスっていうの。あなた達と同じ十五歳よ。魔力を使えるからってドラゴンの娘って言われてて、ちょっとした迫害も受けたんだけど、村の人はみんなよくしてくれたわ。でも最近ドラゴンの娘が確認されたって噂があったでしょ?それで私はそうじゃないってわかって、何だか自分がわからなくなっちゃって。行かなくていいって言われてた学校に行く準備も淡々と進んじゃって、わーってなって家を飛び出してきたの」
ジルトは話を聞きながら気が気でなかった。彼女はさらっと流すように言ったが、ドラゴンの娘ではないかと疑われ、そのせいで酷い目にあった少女。自分がドラゴンの娘だと知られるのが怖かった。
ライヤがそっとジルトの肩を抱く。
イーリスと名乗った少女は、それにも気づかず話を続ける。
「あなた達も変色者でしょ?魔力の高い者同士一緒にいて損はないんじゃない?ああ、そこのあなたは別だけど」
明らかな侮蔑を含んだ言葉にシュレイが反応する。
「ジルを馬鹿にしたのか?」
「別に、馬鹿になんてしてないわ」
「俺はジルが助けようとしなければ、お前なんて放っておいた」
「へぇ、やけにその子を庇うのね」
不機嫌そうに眉根を寄せたイーリスと、同じく不機嫌丸出しのシュレイが睨みあう。
「い、いいじゃない。一回レオに相談してみようよ」
「「ジル!」」
シュレイとライヤの二人ともが抗議の声を上げた。
ジルトだってわかっていた。自分たちは学校に行くために旅をしているわけじゃない。それでも、自分のせいで辛い思いをしたことがある人間を、捨て置くことはできなかった。
「だめに決まってるだろ」
宿で合流した三人に事情を告げたところ、レオが即答した。
新たな変色者との遭遇にイーリスが目を輝かせた直後だった。
「ジル、お前の性格はわかってるが、それは無理な話だ。俺達だって潤沢な資金があるわけじゃないんだ。イルの残してくれた金と、ライヤ達の金で成り立ってる」
わかっていたことだったが、今になってイーリスに余計な期待をさせてしまっただけだと気づき、ジルトは目に見えて落ち込んだ。
「ごめんなさい」
「えー、いいじゃない。同じ変色者同士よ?私今晩泊まるところもないの」
項垂れたジルトの肩を持ち、レオの顔を下から覗き込むようにして、イーリスが頼む。
レオの目は包帯で覆われたままだが、その瞳が急激に冷たくなっていっているのを、ジルトは感じ取っていた。
「知るか。勝手に仲間意識を抱かれても困る。金がないのもお前の勝手だろ」
「なっ、確かにそうだけど!私、魔法だって使えるのよ?」
「だから?」
ジルトとモーリは、レオが包帯を巻いていてよかったと心の底から思った。声が低くなるくらい怒ったレオの目は、深海より暗くて冷たい。
「まぁまぁレオ君、今日くらい泊めてあげようよ。金なら俺が出すからさ」
空気に耐えかねて、バンダが提案する。ライヤが無表情でバンダを睨みつけるが、彼は気にしなかった。
「ほら、賛成の人、手ぇ挙げて!」
バンダが高く手を上げると、ジルトもおずおずと挙げる。遅れて、モーリも元気よく挙手した。
「あ、俺達偶数だから多数決意味ないね。でも、ほら、ジルちゃんがそうしたいって言ってるよ!」
ジルトの手首を掴んで、控えめな手を高々と上げさせたバンダ。反対派の三人に冷たい視線をぶつけられた。
「君たちみんな目が鋭いんだからそんな睨まないでよ!いいじゃん、どうせ君たちだってこの子を追い出せないだろ?」
この数日で仲間の性格をだいたい掌握したバンダが事実を突きつける。ジルトが賛成しようとそうでなかろうと、ここに居る仲間たちは他人を傷つけることができないのだとわかっていた。ただ、彼らが大事に思うジルトが軽んじられているのが嫌で、形だけ反対しているのだ。
「はぁ、勝手にしろよ」
「糸目野郎」
「お前の金だけで払えよ」
レオ、シュレイ、ライヤが冷たい言葉を次々に投げかける。
バンダは、最年長の自分が大人にならなければと、傷ついた心を隠しながら宿の主に追加の金を払いに行った。
「ごめんね、ありがとう」
「ジルちゃん!!君はいい子だね!」
謝罪と感謝を伝えに来たジルトを抱きしめると、レオに背中を蹴られた。この痛みも我慢である。
続きます。




