打ち明け話
「大変だ!ジルが連れていかれた!」
ログハウスの中、ぱちりと目を覚ましたシュレイが叫んだことにより、眠っていた全員が起きることになった。
「ん~?悪い夢でも見たのかい?」
「違う!ジルが!」
再び寝ようとしたバンダ以外の顔が真っ青になる。
「おい、どういうことだ!」
レオは起き上がって、シュレイの傍まで行くとその胸倉を掴み上げた。
「俺はジルとつながってるんだ。大体の距離はいつでも把握できている。それが急に遠くなったんだ。ありえない速度で」
シュレイはレオの手を解きながら、必死に訴える。シュレイ自身も何が起きたかまではわからない。
「それは確かだ。さっきイルとかいう奴がジルトを殴って、そのまま連れ去った」
「イル?!そんなことあるわけがない!」
「そうだよ!イルはそんなことしない!」
ドアを開けて入ってきたライヤの証言も加わり、その場はさらに混乱を極める。
「君たちの知り合いなのか?」
「恩のある人だ。ジルをそんな風に扱ったりはしない」
「でも確かにそう呼んでいた。あと妙な魔法を使って移動したぞ。黒い穴が現れた」
「ワープ?!確かにイルは使えるが――」
「イルがジルに酷いことなんてしないよ!」
「とにかく早く追おう。俺ならジルの居場所がわかる」
――パンパン。
乾いた音が二度鳴った。
「はいはい、皆さんいったん落ち着いて」
未だに床に腰を下ろしたままのバンダが二回手を叩いたのだった。不安定に騒がしかった場が、静かになる。
「とりあえず、やみくもに動くのはまずい。状況を整理しよう。ジルちゃんがイルと呼んだ人物に殴られたうえ、連れていかれた。しかしイルは君たちの恩人。殴るという行為はしない」
バンダが淡々を言葉を発していく。冷静さを取り戻したものから床に座り、バンダの言葉に耳を傾ける。
「それならそのイルと呼ばれた人物はイルじゃなかったんじゃないの?」
「だけどそいつは高度な魔法を使った。魔力が多い者は姿を変えることはできないはずだ」
レオが話に参加する。
「そうだね。でもイルに化けてた人と魔法を使った人が同じとは限らないよ。むしろ彼女を狙う人物が複数いるなら、連携して当たり前だろうね」
「そういえば、昨日もそうだったが、ジルトは何か言いたそうにしていたぞ」
ライヤが、昨日その言葉を止めたレオを見る。バンダもそうだね、と頷く。
「君たちの追われている理由を聞いてなかった。こういう状況だけど、いや、だからこそかな?詳しく教えてくれないか?」
レオは迷った。まだ完全に信用できる相手ではない。その上、ライヤはドラゴンの娘であるジルトを求める王の横暴を恐れて逃れてきたのだ。ジルトの正体を知ればジルトの捜索に協力してくれないどころか、その正体を他者に広められてしまうかもしれない。
「レオ、言ってもいいと思うよ。ジルだって言おうとしてたんでしょ?」
モーリが黙ってしまったレオに言葉をかける。モーリは知らないが、レオの意思決定にはモーリの意見がかなり反映されている。
「そうだな。シュレイもいいか?」
「俺は早くジルを探せれば何でもいい」
苛立っているのか僅かに口から牙を覗かせながらも、シュレイは同意した。
「あんたらを信用して言う。ジルはドラゴンの娘だ」
レオは二人の表情をよく観察していたが、バンダは細い目を見開くほど驚いただけで、そこから嫌悪は感じられなかった。ライヤに至っては、むしろ喜びがうっすらと滲んでいる。
「なーるほどね!あはは!これはびっくり!レオくん、まず俺達は君らの敵にはならないよ。むしろ味方だね!うんうん、そりゃライヤの話を聞いたら言いにくいわけだ」
「彼女には申し訳ないことをしたな。私はむしろ、この国の正当な継承者として、ドラゴンの娘を尊敬しているんだ」
レオは何が何だかさっぱりわからない、という顔で説明を求めた。
嫌悪感を表すであろうと予想した人物が、こんな反応をするとは夢にも思わない。
「中央や南部ではね、王の政治に嫌気がさした人たちが、ドラゴンの娘を新たな王として望んでいる。王に殺されちゃうからその声は小さいけど、確かにその思想はあって、俺たちもそういう連中の一部ってこと」
「そうなんだ!じゃあ仲間なんだね!」
「そうそう!」
いえーいとモーリとハイタッチしたバンダは、緩んだ顔を急に引き締めた。
「この話はここまで。ジルちゃんの奪還について話そうか」
バンダの糸目がさらに細められる。
「彼女が竜の娘なら攫われた理由は様々だろうけど、姿を変える魔法が効くのは魔力が低い者だ。だとすると彼女の瞳が目当てだろう。急がないと酷い目に遭わされる」
バンダを中心にジルの奪還に向けての作戦が立てられる。バンダはお調子者のようで頭が切れ、かつ情報にも精通しており、話が進むのは早かった。そのことにレオはひっかかるものがあったが、その正体もわからず、話を聞くことに専念した。
続きます。




