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竜眼の少女  作者: 五十音
アグノードのドラゴン
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ドラゴンの登場

 ジルトの目は歪だった目の形も、人の目の形で揃っていた。


「ああ!ついに!」

「姫様が力を取り戻された!」

「この日をどれだけ夢見たか!


 大人しくしていた半獣人達が、歓喜の叫びを上げる。

 反王政派としてこの戦いに参加していた人々も、王族の象徴がなくなったことに、そしてそれが元の持ち主に帰ったことに喜びを示す。


「これで王族の権力を示すものはなくなった!」

「元はドラゴンのものだって?なんてやつらだ」

「王族に力を奪われていたのか!」

「ドラゴンの元に戻ってよかった!」


 しかし、上がるのは喜びの声だけではなかった。


「何が王族だ!ただの極悪人じゃないか!そこにいる全員殺してしまえ!」

「いや、そこのドラゴンの娘もだ!王族の言う予言が本当かどうかもわからない。

 そもそも、ドラゴンは人間を殺したいほど恨んでいるはずだ!危険な存在だ!」


 怒りの声もそこら中から響いてくる。

 アジュガとファレンはジルトを守るように民たちとの間に立った。


「そもそも、人間がドラゴンを怒らせたのが悪いだろ!」

「怒らせたのはずっと昔の人間だろ?なぜ何もしていない俺達が悪くなるんだ?」

「本当にドラゴンがいるかどうかも怪しい!ただ目が赤くて魔力が多いだけの人間じゃないのか?」

「王族も嘘だったからな!

 本当にドラゴンだったらともかく――」


 声と声が行き交う中、半獣人達が一斉に地面にひれ伏した。それにより人間も言葉を止める。


「なんだ?」


 半獣人達が頭を垂れる先は王都の門だった。


「ドラゴンが信じられないか?」


 門の先にはいくつもの小さな光――妖精や精霊たちが集まっていた。その声はそれより更に奥から響いている。

 突如、大きく風を切る音が聞こえる。広場にも強い風が吹き、大きな影が覆いかぶさる。影を作っているのは大きな黒い竜だった。

 黒い鱗は陽の光で輝き、大きく広げられた羽は広場を覆うほど大きい。赤く輝く瞳はジルトと同じ色だ。


「ド、ドラゴン!」


 誰かが叫んだ。

 伝説上の生き物が現れたことに人々は戸惑う。ある者はどこかへ逃げようと走り出し、ある者は半獣人に倣って平伏する。

 逃げる人々は騎士たちによって魔法ですぐ拘束された。


「はなせ!」

「暴れるな。怪我人が出る」


 人の行動に反応することなく、ドラゴンは広場に降下する。地面が近づくにつれてドラゴンの姿は小さくなり、広場に降り立った時には人の三倍ほどの大きさに収まっていた。


「人間よ、そこにいるのは、俺の愛しい娘だ。証明になったか?」


 ドラゴンに睨まれた男は、がくがくと首を振ってうなずいた。


「ジルト、遅くなってすまないな」


 ドラゴンがジルトを向くと、ジルトの前にいた王族達の口から悲鳴が漏れる。


「お父さん、大丈夫なの?」

「ああ、ジルトが本来の力を取り戻したことで、俺も回復した」


 それでここまで飛んできてくれたのだろう。


「アジュガ、随分と変わったように見える」

「君の娘のおかげだよ」


 アジュガはジルトを見て微笑んだ。


「そうだな」


 アジュガと話しているところを見て、恐怖心が少しは薄れたのか、腰を抜かしていた青年が立ち上がる。


「ドラゴンが何しにここに来た?まさか、人間を滅ぼしに来たのか?」


 ドラゴンがぎょろりと目玉を動かすと、青年はまた地面に尻をつく。


「俺は人間が憎い」


 赤い瞳には復讐の炎がまだ灯っているように見えた。


「ド、ドラゴンだって人間じゃないか」

「元はな。だが、俺は人間に生贄として山に捨てられた。助けてくれたのは魔女だ。

 その魔女はお前たちに殺された」


ドラゴン――人間時代のルエスには、人にいい印象は一つもなかった。


「今でも殺してやりたいほど憎いが、俺が憎いのは魔女を殺した人間で、お前たちではない。

 俺の子に手を出すというのならもちろん殺してやりたいと思うが。

 俺もジルトによって変わった。人間は他者を犠牲にしたり殺したりするだけでなく、助け合うこともできるのだと知った」


 ルエスとして生きていた時代から、彼は人に助けられたことはなかった。生贄として捧げられ、最後も人間に殺されかけた。

 人が人を助けることすら想像できなかったが、今、娘の目が戻っているのは、人間の協力のおかげった。


「そこに転がっている者達に対しては別だが、俺の娘が悲しむだろうからな。

 この国を守護するものとして、そんなことに時間を割くこともできない」


 ドラゴンは王族を見ることもなかった。

 向きを変えて、集まっている人間達に向き合う。


「人間の魔力が減少しているのは、元々人間に魔力への適性はなく、次代を経るにつれて消費されていったからだ。

 だが、土地の魔力も減ってきている。それは今この国に足りないものがあるからだ」


 ドラゴンの前に、二人の人間が現れる。それは、階段の上にいたはずのレオとモーリだった。

 ジルトとおなじように、ワープで移動させられたのだろう。


「モーリ・エスピ、レオ・ネドロ。次代の海神と獅子だ」


 急に呼ばれた本人たちは驚いているが取り乱してはいない。モーリなんかは目が合った子どもに手を振っていた。


「本来ドラゴンが変われば、獅子も新たに生まれ変わる。俺はドラゴンになってすぐ弱ってしまったので、獅子を授かることができなかった。さらに悪いことに、海神の代替わりとも時期が重なった。

 大地の王である獅子の不在と、全ての源である海神の代替わりによって、この国の魔力自体が落ちていたのだ」

「その話は本当なのか?」

「そもそも海神なんて、ドラゴン以上に話を聞かない」

「獅子だってそうだ。みんな、予言の中でしか聞いたことがない」


 ドラゴンの話を疑うものもいるが、予言やおとぎ話の中でしか聞いたことのないドラゴンが目の前にいる。予言に出てきた獅子や海神も存在するのではないかと考える者もいる。

 疑いの声は広がらなかった。


「獅子と海神が戻れば、土地も回復する。儀式の時は海神も来るだろうから、嫌でも信じるしかない。

 外国の兵器とやらが脅威になっているのだろう。信じなくても構わないが、この国を護るためにはこの島で生きる全てのものの力が必要だ。半獣人は獅子の誕生を、精霊は海神の代替わりが行われることを望んでいる。人間も多少は理解の姿勢を見せろ。

 私もこの国の守護者として、この国を護るために協力するものには、ドラゴンとして魔力を授けよう」


 その言葉に、ドラゴンの言葉にじっと耳を傾けていた騎士たちが剣を掲げた。


「やはりドラゴンはこの国の守護神だ」

「私はこの国のために、全てを捧げるぞ!」

「経緯はどうであれ、ドラゴンから魔力を授かっているのだから、元よりそのつもりです!」


 遠くの方でバルディアもそれに倣っているのが見えた。


「やはり、俺の知る人間とは違うようだ……」


 小さく呟かれた声に、驚きとともに喜びが含まれていて、ジルトは嬉しくなった。

 その時、ジルトの後ろ、階段の上から声が響いてきた。


「ちょっと!勝手なことしないでよ!」


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