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竜眼の少女  作者: 五十音
アグノードのドラゴン
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王族の秘密

 ジルト達が地上に戻った時、既に王都は陥落していた。

 塔の印にはバンダが迎えに来ていた。


「お帰りなさい。ジルちゃん、俺の姫様をありがとう」

「バンダ!」

「うわ、カトレア様、危ないですよ、狭いんだからここ」


 カトレアがバンダに抱き着くと、バンダは慌てながらも嬉しそうに顔をほころばせる。


「無事でよかった」

「それは俺の台詞です。ご無事で何よりですよ。

 俺の方は、特に手こずらなかったというか、王宮の結界が急に破れたので、大したことはしていません」


 ヒユが結界を解いたのは本当だったのだとジルトは思う。

 そして、ヒユと一緒に魔力の結晶――ジルトの目を取り戻しに行ったファレンが少し心配になった。


「さて、移動しましょう。広場にはほとんどの王族が集められています。

 何より、みんなが君を待ってるよ、ジルちゃん」


 バンダの言葉通り、広場には王族も、そして王都に務めている人も、南部の人も、本来なら此処にいないはずの平民たちまでが集まっていた。塔から続いている王城の道を通ってきたので、ジルト達は広場の階段の上に辿りつき、全体をよく見ることができた。

 赤い瞳をしたジルトの登場に、歓声が上がる。


「すごい歓迎ぶりだね」

「道中ジルちゃん大活躍でしたから。それに、捕らえられていた人々が解放されたのも大きいでしょう」


 アジュガの言葉にバンダが答えた。


「さすがジルだね。

 それなら、僕も頑張らないと」


 アジュガは広場を見下ろしながら、手を高く上げる。


「ジル、お友達の手を握ってて。たぶん大丈夫だとは思うけど」

「わかったわ」


 ジルトはアジュガに従ってカトレアの手を取った。

 同じくジルトに手を伸ばそうとしたバンダは、レオにその手を払われる。


「あいた!」

「お前は必要ない」

「酷いよ、レオ君。そして懐かしいね」


 確かに、懐かしい。ジルトは思わず笑みが浮かんだ。


「鎧を被り、記憶を湛えし者、その重みに沈め」


 アジュガの声が辺りに響く。

 ドラゴンの色を持つ男に気づきざわめく観衆の中、王族の集められた辺りと、観衆の一部で地に伏せる人々が現れた。


「うっ」

「カトレア?!」


 ジルトと手をつないでいたカトレアは、苦しそうに胸を抑えたが、それも一瞬のことで、彼女自身不思議そうにしている。


「やはり問題なかったね。予想通りだ」


 アジュガはちらりとカトレアを見てから、再び地上に目を向ける。


「都合よく逃げられると思うなよ。

 さ、あとは簡単だ」


 アジュガが上げていた手を胸に引き寄せるように下ろすと、立っていられなくなった人たちが一か所に集まった。

 もともといた王族に、地面に倒れた人達が加わった。王族以外はなぜか全員フードを被っている。


「そこの君、フードを外してやってくれないか?」


 アジュガは近くに立っていた男――クラムにそう言った。


(クラムさん!よかった、無事だったんだ)


 クラムから少し離れたところに、女性が固まっている。王宮に捕らえられていた人々だろう。周囲には元魔女狩りの一族がいて、守られているようだ。

 南部や王都で務めていた騎士たちは点在しており、共に戦った平民(あるいは、それに着いて様子を見にやってきた者達)の近くに多く立っている。

 半獣人達は人間からは距離を置いた場所で待機していた。ばちりと視線があったシュレイが、微笑んでくれる。


「くそ!離せ!」


 怒気を含んだ声に、ジルトの意識はまた王族たちのいる所に戻る。


「お前たちだって大して変わらぬ身のくせに!いや、それより悪い!魔女を最終的に滅ぼしたのはお前たちなのだからな!」

「呪われた手で触らないで、汚らわしい!せめてその醜い呪いのあとを隠したらどうなの?!」


 クラムがフードを取っていくと、そこには金色の髪と青い瞳が現れる。王族の証だ。

 暴言を吐かれてもクラムは答えず、全ての人のフードを外し終えた。


「王族が逃げようとしていたのか!」

「なんてやつらだ!」

「お前たちのせいで、すべてむちゃくちゃになったというのに!」


 民衆から声が上がると、レオはすぐにジルトの耳を塞いだ。


「レオ?」


 何やら王族の方も言い返しているようだが、ジルトには何も聞こえなかった。

 レオは広場の声が小さくなってからその手をはなす。


「今のはお前に関係ない話だったから」

「そうだね、レオ。ありがとう」


 アジュガはそう言うと、ジルト達を置いて広場に下りていく。

 そして王族の前に立つ。


「やはりお前か、アジュガ・キラン!」

「貧しいお前を引き取ってやった恩を忘れるなんて!」


 何人かはアジュガをよく知っているようで、もぞもぞと体を動かしながら叫びあげる。


「引き取ってやった?」


 それに答えたアジュガの声は冷たく重かった。


「誰も頼んでいないし――ああ、勘弁してくれないかな?子どもたちの前なんだ」


 しかしアジュガは直ぐにジルトのよく知る声に戻る。


「お喋りしに来たわけじゃない。喋るのはお前だけだよ」


 アジュガが耳元で何かつぶやくと、その王族は顔を引きつらせた。


「さて、この広場の皆様にもお聞きいただこうか。

 ()()とは何なのか」


 王族はアジュガを睨みながら口を開く。


「王族とは、ドラゴンに魔力を与えられるきっかけを作った功労者――ではない」


 国民にドラゴンの記憶が共有されたとはいえ、実際にそう信じてきた者達からすれば、その王族の言葉はかなり衝撃的だったのだろう。広場の人々がどよめく。


「は、もう知っているだろう!王族は魔女を滅ぼした人々の中で、ドラゴンの誕生を知る者の子孫だ。

 魔女を滅ぼし、一人の男を殺した後、ドラゴンの咆哮をきいた。そしてその身に魔力が宿り、色が変わり、殺した男から奪った石が熱を帯びるのを見て、それがその男のしたことだと気づいた。

 殺したはずの男が生きている。きっと殺しにくるだろうと思っていたのに来なかったので、この事実をいいように利用した。その場にいた者達で作り話をして、自分たちを王族とした。そしてその嘘が露見することのないように、秘密を守るという契約と記憶を継承していくこととしたのだ」


 それが王族の正体だった。

 喋り終えた者は、急に苦しみだしたかと思うと、再度アジュガを睨みつける。


「この、悪人め!私に喋らせるなんて!!」


 怒りに染まった男の目は、もう青色ではなかった。この国で一般的な黒の瞳となっていた。

 近くにいた女性の王族が悲鳴を上げて気を失う。


「なぜ怒るんだ?君が死なないようにしてやったというのに」


 アジュガの言葉から察するに、契約を破った者は死ぬことになっていたのだろう。


「青い瞳に誇りを持っていたのか?偽装のための契約による副作用だ。君自身の色ではない。

 ドラゴンの咆哮を間近に浴びた最初の者達なら、この地の王に相応しい色に変わるほどの魔力を持っていただろうけど、今では王に近い血筋の者しか大した魔力は持っていない」


 アジュガの言葉が終わらない内に、その男は気を失ってしまった。

続きます。

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