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竜眼の少女  作者: 五十音
アグノードのドラゴン
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魔女狩りの一族と魔女の過去②


 それから時は経ち、人間は魔女を徹底的に追い詰めるようになった。ついには魔女の家にまで入り込んで来たのだ。


「逃げなさい!みんな、逃げるのよ!」


 長の声がして、そこからは必死で逃げた。どこからか聞こえる同族の悲鳴も聞こえないふりをして、走った。

 気づいた時には、もう誰もいなかった。一人、森の中に立っていた。

 川の流れる音がするので、その方に向かう。走って喉が渇いていた。

 どこか見覚えのある場所に着いた。


「ここは……」


 幼い自分が転んだ場所、一時人間とよく遊んでいた場所だった。

 そして、もう二度と会うことはないだろうと思っていた、あの人間がそこにいた。


「どうしたの?!」


 川を渡って人間の元に向かう。

 武装された体に傷などは見当たらないが、その男は地面に倒れ込んでいた。


「あた、ま、が、痛い……」


 人間の体は魔女と変わらないと言うが、魔女には原因を突き止められる自信はなかった。

 逃げた方がいいのはわかっている。ここに人間がいるということは、近くにもいるということだ。それでも、幼いころのあの恩返しはしたかった。


「そんな……」


 無理だと思って男の体を調べてみたところ、頭の中に固まった魔力があった。魔力に適性がない人間がどうして、と思ったが、その魔力が精霊のものだということに気づく。


(精霊に呪われてるんだわ!)


 この男が呪われたのではなく、その親かまたその親が、精霊に何かしてしまったのだろう。たまに妖精を見る人間はいるが、精霊達は基本的に目に見えない存在だ。人間はこの国の土地を荒らしていた。その中で精霊の領域を侵してしまったのだろう。


「精霊の呪いは対象者だけじゃなくて、血を経由して広がっていく。そして完全に呪いを解くことはできない」


 いつか年上の魔女が教えてくれたことだ。

 今魔女がしてやれることは、呪いの進行を抑え、痛みを和らげることだけだった。

 魔女の魔力で呪いを包み込むと、男は少し楽になったようだった。


「う……君は――」


 男が何か言いかけた時、魔女は胸の辺りに痛みを感じた。


「え?」

「離れろ!魔女め!」

「そいつに何をした!」

「見ろ!顔に黒い痣ができてるぞ!」

「呪いだ!魔女が呪ったんだ!」


 人間に見つかった魔女は、そのまま大勢の人間に殺されてしまった。

 意識が戻った男は、精霊の呪いをこの時魔女にかけられた呪いだと思い込んだまま死んだ。



 ドラゴンと魔女の真相、そして魔女狩りの始まりともいえるその記憶に、人々は混乱した。


「どういうことだ?」

「何かの間違いじゃないのか?」


 その様子を見て、フレグはつまらなさそうにつぶやく。


「間違いでも何でもない。今のは鏡を使ってドラゴンが見せたものだ。

 それに、最後のはお前らだけに見えているものだよ。間違いなどはあり得ない。最後のあれは、海神の記憶なのだから」


 魔女狩りの一族が言葉を失っている間にフレグは姿を消した。


「ああ、ようやくわかった。どうして、ジルトの傍にいると痛みが弱まるのか」


 魔女の魔力に反応して、魔女の魔法が強くなったのだろう。

 それはつまり、人間が、魔女狩りが魔女を滅ぼしかけてなお、魔女は精霊の呪いから魔女狩りの一族を守ってくれているということだ。


「こ、ここまでしておいて、今更……」


 男が魔女の魔法を呪いだと思い込んだまま、一族は魔女を滅ぼした。そして、今でも魔女を根絶やしにすることを目標に生きてきた。

 今更どうすればいいというのか。


「今更、だ。それでも、今知ったからには、俺達は魔女に償わなければならない」


 視界の端で、トーチが目を大きく見開いたまま固まっているのが見える。

 魔女の生き残り、ドラゴンの娘が連れ去られることになったのは、トーチがテアントルで姿を現し、そこに張られていた結界を解かせてしまったからだ。

 お世話になった一族の仇だと思っていた相手が恩人だったのだ。仇だったからこそ、私情も交えて恨むことができたが、そうではないのであれば、トーチはただ自身の恨みで恩人である少女を危険に晒しただけである。


「トーチ、今、知ったんだ」


 クラムにはそう声をかけてやる以外できなかった。



*



 クラムは膝をついたまま、一族の見た過去を話し、頭を下げた。


「すまない。すまなかった。本当に申し訳ない」

「今更謝って何になる!!」


 怒声を上げたのはシュレイではなく、後ろにいた別の狼の半獣人だった。


「まだ、まだ魔女は生きていたんだ!ドラゴンの咆哮後も、生きていた魔女はいた!

 愚かにも人間が家を焼き払った後、魔女はひっそりと森で暮らしていた。それをお前たちは、魔女の魔法が解けないからと森を荒らして回り、見つけては痛めつけて殺した!」


 別の半獣人が飛びかからないように周りを固めてくれているが、その半獣人も魔女狩りであるクラムを睨みつけている。


「ほんの百年前までは、まだ魔女が生きていたんだ!何度も迎えに行こうとしたが、俺は上手く人の形を取れないから、すぐに見つかって魔の山に追い返された。

 最後の魔女の存在が消えていく時の絶望が、お前たちにわかるか?!」


 狼の半獣人は勢いを失くし、地面に伏せる。


「助けてもらった恩を返せなかった。

 姫様が生まれた時、魔女の魔力を感じて、どれほど希望を与えられたか!そして、どれほど情けなく思ったか……。他の魔女を守り切れなかった自分が不甲斐なかった。

 それを、勘違いだっただと?!ふざけているのか!!それも恩をいただいておいて!その後も一代に一人は魔女の魔法に守られていたというのに!」


 クラムはただただ頭を下げ続けた。


「本当に申し訳ない」


 そのクラムの後ろから、老人が現れる。


「私が一族の中で最も高齢だ。過ちを犯した世代に近い。

 どうか、命を取るのなら私にしてくれないだろうか」


 クラムの横に膝をつき、同じように頭を下げる。


「お前たちと同じにするな!命を奪うようなことはしない。そんなことをしても魔女は戻って来ないのだから」


 ぐらりとよろめいた狼の半獣人を、同じ仲間が寄り添って支える。


「ジル、泣いてるのか……」


 ジルトの顔を見て気づいたシュレイが慌てたように言う。ジルトはゆっくり首を振って、大丈夫、と言うと、狼の半獣人の方に歩いていき、その躰を抱きしめる。


「姫様……」

「魔女を、守ろうとしてくれてありがとう。そして、私に着いてきて、力を貸してくれてありがとう」

「もったいない、お言葉です」


 狼の半獣人からしてみれば、人間は魔女を滅ぼした種族だ。王族も庶民も関係ない。

 今の王の政治をやめさせれば、半獣人も魔の山に縛られることはないだろうが、それに王宮に掴まっている人間達の自由は関係ない。それでもジルトのやることに力を貸してくれるのは、魔女への恩返しなのだろう。


「この件については、私が決めてもいいかな?」

「もちろんです。先ほどは情けない姿をさらしてしまい、申し訳ございません」

「ううん。情けなくなんてない。魔女のために怒ってくれて、ありがとう」


 ジルトはそう言って、クラムの前に戻る。


「クラムさん、そしておじいさん。

 今まで恨んでいたとしても、あなたたちは実際に魔女に何もしてない。そうでしょう?」


 最後の魔女が百年前なら、今生きている魔女狩りはその時生まれていないだろう。


「だが、俺達の祖先が……」

「そうだね。それにはとても悲しいことで、許せないことだと思う」


 これはジルトの気持ちというよりは、狼の半獣人の気持ちだった。


「でもあなたたちはやっていないし、どんな始まりであっても、色んな人を助けたことに変わりはないと思うの」


 王宮に攫われるような子どもたちを保護して、育てていた。

 最初にそれを聞いて、ジルトはとても安心したのだ。自分のせいで苦しい思いをしている人が、助かる場所があると。


「クラムさんには助けてもらったしね」

「俺も君に助けられた」

「じゃあお互い様だ」


 ジルトはクラムの手を取って立ち上がらせる。


「クラムさん、私達と一緒に、王宮に捕らわれている人たちを助けてくれない?」

「もちろんだ。ぜひ一緒に行かせてくれ」


 クラムの言葉で、元魔女狩りの一族と協力することになった。

 ひとまず、今日は休んだ方がいいということで、結界を張った洞窟へと案内してもらうことになった。


「ジル、良かったのか?」

「うん。シュレイ達は?嫌じゃない?」

「当然だ。ジルがそうするって決めたんだから」


 それでもシュレイは心配そうだった。

 百年前に、まだ魔女は残っていた。そう知ってしまうと、会えたのかもしれないという思いがジルトに生まれてしまった。シュレイはそれを察知しているのだろう。


(でも、もうどうにもならないことなんだよね)


 悲しさはある。それでも今目の前にいる魔女狩りの一族を恨む気持ちにはなれなかった。

ドラゴンが鏡を使ったので、海神はそこに干渉する形で記憶を流しました。元は海神の持ち物なので。

フレグは魔女狩りの近くにいて、ドラゴンの魔力の影響も多大に受けている(歪)人間なので、魔女狩り達と同じ記憶を見ています。

続きます。

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