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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

伝説のおまわりさんがいる街

作者: ヒロモト

公用車に乗って現場に向かっていく途中。小便がしたくなったので公園に車を停めてもらった。

相当な拷問の跡があるドザエモンが近くの海岸で上がったらしい。

マル暴(暴力団)の争いか何か知らんが現場に捜査本部が出来るだろう。嬉しいな。

警視監にもなると偉すぎて暇なのだ。

夜に飲み歩けるような気のおける友人もいない。

なので俺は現場が好きだ。

俺が動けば普段現場に出ない階級の奴らも慌てて出てくるし、現場は緊張感に包まれる。

大人しくしとけと嫌われているのは知っているが暇なのは仕方がない。

定年まであと少し。それまで楽しませて貰う


「あのぉ。警視監?」


「んー?」


運転手が地域課のおまわり二人に囲まれていた。

しばらくすると交通課もやって来た。

あー。駐禁かい。


「あのな。この方を誰だと……」


運転手が水戸黄門の助さん格さんみたいな事を言い出しそうだったので俺は止めた。


「君。警察最強は地域課だよ?逆らっちゃ駄目よ」


大人しく俺は切符を切られた。


車に戻ると妻からメールが来ていた。

怪しい男が家の電話に俺の携帯の連絡先を聞きたいと何度もかけてきていると困っているらしい。

俺は「次かかってきたらこの番号を教えていいぞ」と返信した。

すぐに知らない番号から着信があった。


「石崎だ」


『石崎?俺だよ。たなっちょ』


たなっちょ。相当記憶を遡った。

確か三十年前に東大の講義で何度か話をして何度か飯を食いに行った男だ。

いつかの同窓会で会った……かもしれない。

つまり友達ってほど仲は良くなかった。


『コンビニのカフェラテがよ』


「うん」


『300ミリ217円のやつと270ミリで217円のやつどっちがいいか悩んでる』


300ミリリットル217円のカフェラテを売っているって事は◯◯ストアか。


「同じ値段なら安いほうがいいだろ」


『でもよ。俺300も飲めねぇよ』


「ファストフードのカフェラテなら190円で同じ量飲める」


『んー。ちょうど斜向かいに◯バーガーあるから見てくる』


「そうしろ。買ったらまたかけてこい」


『うん』


ボンヤリと不安な気持ちが生まれたので俺は少し◯バーガーが斜向かいにある◯ストアについて調べた。

なんだ?あいつ。この辺じゃないか。

俺は地域課に電話をかけた。

先程の巡査が出たので仕方無く俺は役職を告げた。

可哀想な程に萎縮し何度も謝ってきたがうっとおしいので用件だけ伝えて切った。

切った瞬間にたなっちょから電話が来た。


『もしもし?』


「買ったか?」


『ううん。また◯ストアに戻ってきた。何か店員に話しかけるの恥ずかしかったから』


「分かるよ。どうしてもカフェラテが飲みたいのか?」


『うん。もうかれこれ3時間も悩んでる。足が疲れたよ』


刑事の勘ってのは馬鹿にならない。

経験から来る違和感に敏感になれない奴はいい刑事にはなれない。


『はい。はぁ?困ったぞ。おまわりさんが声をかけてきた。俺。通報されたかな?』 


「心配するな。俺が呼んだ」


『なんでぇ?』


「だってお前自殺しようとしてるだろ?」


『うん』


「でも止めて欲しいんだよな?」


携帯を落とす音がしたしばらく後に咆哮が聞こえた。


「たなっちょ。聞こえるか?お前は運が良い。俺に電話をかけたんだ。きっとこれから良いことあるさ」



……

俺は運転手に行き先変更を告げた。

たなっちょと久しぶりに話したくなった。

あいつはどんな人生を送ってきたのだろう?

俺が現場に行かなくなった事を下の連中達は喜ぶんだろうなぁ。



たなっちょはヤクザに金を借りてしまった。

金を返せなくなり、取り立てと嫌がらせに参ってしまい自殺を考えた。

警察は呼んだら来てくれるが、警察が来る時にはヤクザは消えていて犯罪として取り合ってくれなかった。

たなっちょには悪いがあくびが出るほどよくある話だ。

心神心弱になった、たなっちょはありとあらゆる友人知人に電話をかけた。

だが、あの様子だ。

誰もまともに話を聞こうとしなかった。

23人目に電話をかけたのが俺らしい。


「いやぁ。もし、やけになってコンビニで暴れてたり通り魔なんかしてたりしたら……」


巡査部長が言うにはたなっちょの懐には包丁が隠されていた。

その可能性も確かにあったろう。


「伝説のおまわりさんにお会いできて光栄です」


俺はキャリア組だが、交番勤務を望んだ。

俺のキャリアは老婆の道案内や酔っぱらいの喧嘩の仲裁から始まった。

それが警視監まで上り詰めたんだ。

自画自賛ではなく伝説だろう。


「なぜキャリアがおまわりさんを?」


「事件を解決する人間より事件を未然に防ぐ人間のが俺はカッコいいと思ったからだ。あとこち亀が好きでな」


「……」


本音だ。だからこそ防犯に務める地域課こそが警察最強なのだ。

今もその考えは変わらない。

引退したら何とかまたおまわりさんをやりたいと本気で思っている。

そのためだけに長官を目指そうか?


「じゃあね」


巡査部長は15度の敬礼で俺を見送ってくれた。




「あら?公用車を呼ばないの?」


俺が自分の車で出かけようとしているので妻が少し驚いている。


「今晩は遊んでくる。公用車なんか使ったらマスコミがうるさいもん。泊まりになるから先に寝てなさい」


「珍しい!お友達ができたの!?」


「そんなに驚くなよ。温泉に行ってカラオケして来るんだ」


「お友達の名前は?」


「たなっちょ」


たなっちょは運がいい。

上がったドザエモンはたなっちょを脅していたヤクザだった。

ヤクザはよりによってよその組のシマの人間であるたなっちょに手を出した。

シマ荒らしは極道にとって重罪だ。

たなっちょも大概だが俺も運が良い。

俺は結果として一人の命を救い金貸しのヤクザの組とそいつを殺したヤクザの組。2つの組を同時に潰せた事になる。

しかも友人が出きた。

俺は本当に長官まで行くんじゃないか?そうしたら自分に人事を出してお巡りさんになろう。

だが俺の年齢で酔っぱらいの喧嘩の仲裁は少しキツイなと苦笑しながら車のキィを回した。










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