【フィローリ誕生日記念】愛でなくてなんなのさ
時代はラゼリードが生まれる370年前。
フィローリの身長はまだ成長中でシャロアンス(184cm)と同じくらいです。
アルコールランプに苦手な火を点す彼。マッチを3本も消費してしまった。彼はチッと舌打ちを一つ。
三脚には生クリームの入ったビーカーを載せ、アルコールランプを下に置く。
温度計を入れたビーカーが適温になるまでの間に、シャロアンスはまな板の上でチョコレートを刻む。
根気よく細かく。彼の神経質な性格がわかるようだ。
「お、いい温度」
刻んだチョコをビーカーの中へ。
「こんなもんかなぁ?」
ガラス棒でビーカーの中身をかき混ぜ、フッとアルコールランプを消すと温度計を引き抜き、シャロアンスは呟いた。
「何してるの」
不意に掛けた声に、シャロアンスは頓着せずに返す。
「実験」
「何の?」
「実験道具で手作り生チョコが作れるかどうかの実験。一部例外あり」
例外とは包丁とまな板だろう。
さすがに適材が無かったらしい。
「ふーん、誰が食べるの?」
「フィーを実験台に」
シャロアンスは毒抜きしたカティの花びらの砂糖漬けを1枚ピンセットでつまむとビーカーの中に入れ、氷の魔力で冷やし始めた。
「えっ? 僕?」
「えっ!? フィーいたの!?」
「居たよ! 気付いてよ!」
《親友》の怒りにシャロアンスは頭を掻きながら
「わりぃ、いつも傍に居るから気づかなかった」と、こぼした。
全くいつもいつもそれなんだから。
「で、それ」
「ん?」
フィローリ──つまり僕はビーカーの中のチョコレートを指差し、ニコリと笑った。
「僕にくれるんでしょ?」
シャロアンスが耳を赤くしながら「実験台だ」と言い換える。
「実験台でいいから、頂戴」
「おうよ、食え」
計量スプーンを出す辺りまで、完璧に実験モードだなぁ。シャロアンスはそっぽを向く。
僕はニコニコと笑いながらビーカーを手に取ると、小さじで掬って一口食べた。
「ん。美味しい。ありがとう、シャロ。僕の誕生日に甘いものなんて嬉しいな」
「……おう」
「あ、今日って確か愛を誓う日だったかな? 確かシリルではチョコレートを贈るんだっけ? ん? ………シャロ? これ、まさか」
「うるせえ、友チョコだ! 友チョコ!」
そっぽを向いていたシャロアンスが勢い良く振り向く。その顔は真っ赤で。とても言い訳がましかった。
「はいはい、友チョコ。あ、一口食べる?」
「味見してレポート書かねえとな。寄越せよ」
「はい、あーん」
「恥ずかしくて「あーん」なんて出来るか!」
ぷりぷりとシャロアンスが怒るので、やっぱり独り占めする事にした。
だって、君のチョコは僕の為のものでしょう?
「おい、レポート書けないだろ」
うるさいなぁ。僕は生チョコレートの塊を口に咥えると顔を近付け、シャロアンスの唇に押し当てた。
眼鏡越し、間近にグラデーションの掛かった青い瞳。
これ以上ないくらい見開かれた瞳が面白くてたまらない。
シャロアンスの唇がチョコを受け取ると同時に唇に触れない様に口を離した。
「お、おまえ…………」
口元に手を当てたままシャロアンスはうだうだ言ってる。
「レポート書いたら?」
「…………」
顔、真っ赤だね、シャロ。
……僕も真っ赤だよ。
END
いちゃいちゃしやがって。