初投稿 探偵VS妖怪"うわん"
初投稿作品です。見るな!!!!!!!!!
"うわん"という妖怪をご存じだろうか。
ぎょろぎょろした目に、体中からまばらに生えた毛、そして小柄な体格をしている、江戸時代から伝わった妖怪である。クマの威嚇のように両手を広げ、恐ろしい形相で人をにらむ、絵巻には大体そんな姿が描かれている。
決して強そうには見えないこの妖怪だが、実はとんでもなく恐ろしい能力を持っているのだ。
「うわん!!」
うわんが発するその大声を聞いた者は、驚くのも束の間、いや、驚いたその束の間を狙われ、一瞬で命を奪われるという。(諸説あり) 対抗策として、こちらもひるまず瞬時に「うわん!!」と叫び返して追い払わなくてはいけない。しかしいざそのうわんと出会ったとき――その噂を聞いたことがない者は特にだが――そんな対処を瞬時にこなせるわけがない。
――この私を除けば、だが。
私は今日天気晴傘無駄探偵事務所で探偵をしている銀龍背 風中昴。先代から継いで創立60年、私の代から23年探偵をやらせてもらっている。刑事事件から身内のいざこざまで幅広い範囲の依頼を受けているが、長く続けているとこういったいわゆる"幽霊""妖怪"といった類に関する依頼を受けることもある。(私は霊媒師ではないのだが、やれやれ…)
しかし依頼を受けた以上、最後まで依頼人のために尽くすのが先代から受け継いだ理念。受けた依頼がどんなものであれ、無下にすることはできない。そうして受けた依頼はたいてい裏があったり、偶然が重なっただけだったり、結局謎のまま終わってしまったり…(探偵として恥ずかしい限りだが、世の中どうにもならないこともある。)しかし、ごく稀にだが、信じられないことに"ホンモノ"に遭遇することもあるのだ。
私は郊外のとある神社に赴いた。神社は手入れが入念になされていて、ボロ臭さを感じない。日の出ている時間ならお茶でも飲みながら休息が取れる、和やかな空間であっただろう。しかし私が赴いた時の夜の神社には、人を飲み込みそうな暗黒が鎮座している、そんな禍々しさがあった。そこには、まるで普段は大人しかったのに、ふとしたきっかけで性格が豹変する二面性を持った人間のような、理解を超えた不気味さを――職業柄、そういう人間に会うことも多いため余計に――感じる。
この神社には古くからうわんに関する噂があり、その噂を裏付けるように、この神社の近くで最近失踪事件が立て続けに起きている。それも決まって夜に。私はこの事件の真相をつかむために、この二面性を持つ神社に赴いたというわけだ。
警察も動いてはいるが、こんな眉唾物、というより信じるに値しないような噂を真に受けて妖怪を調査したりしない。しかし、そいつの存在を信じて調査する価値があると考えているものが一人いる。妖怪にあった前例があり、冷静な対処が可能なものが一人。――そう、私だ。
もちろん最初から妖怪の仕業と考えているわけじゃない。一部ホンモノはいるとしても、世の中は基本論理的に動いている。怪奇現象が起こることなんてめったにありはしない。しかし警察はいまだ行方不明者はおろか、事件の痕跡すら見つけられず、手をこまねいている状況だ。かくいう私もいろいろ調査はしているが、耳に入るのは妖怪、幽霊などスピリチュアルな噂ばかりで、有益といえる情報はつかめないのである。行方不明者たちにも特にこれといった共通点はない。真相を覆い隠す霧は一向に晴れる気配がないのだ。
ならばそのスピリチュアルな噂を信じてみるのも悪くない。誰にも見向きのされない小さな可能性が案外真相に迫っていたりするものだ。私は今日天気晴傘無駄探偵事務所の探偵だ。たとえ晴れそうにない霧でも晴らして見せるさ。
"やつ"は夜、この神社に現れる。
その噂に従い、こうして夜の神社に足を踏み入れることになった。しかし、こういう明かりのない暗闇、加えて神社というスピリチュアルな空間に夜入るのはさすがに抵抗があった。手に構えた懐中電灯の頼りない光が、余計に私の不安をあおる。情けないが、私は少しばかり小刻みに動かざるを得なかった。
鳥居を抜けたあたりで私はある"気配"を感じた。
…いる。
それは恐怖からくる錯覚などとは違う、確信的なものだった。それは以前"ホンモノ"にあった時と同じように感じたものだった。形而下的なその気配は、私の心臓の鼓動を警鐘を鳴らすように早くさせる。これほど存在感を感じているのに、いまだその姿を見れないことが、私をより恐怖に駆り立てた。しかし怖がってばかりもいられない。こんな恐ろしい妖怪はここで払いのけなければ。そして妖怪を退治したことがあるのは、私の知る限り私以外いないんだ。そんな使命感と自信が私を奮い立たせる。恐れることはない、冷静に対処すればいいのだ。そう、前に"ホンモノ"に遭遇した時のように…
忘れもしない、あれは2年前の夏だった。私が受けた依頼の中で三度目となる"ホンモノ"が出た依頼だ。
夜、人通りが少なく明かりもない、私をこの空間の異物だといわんばかりの静かな通りで"やつ"は出た。
「ねえ、私…キレイ?」
日本人女性にしては、初対面に対してかなり大胆なアプローチをしてくる奴だ。だが私の頭一つ分は上の身長と、おしとやかな服ではとても補いきれないガタイの良さから発せられるそのアプローチは、正直恐怖でしかなく、私は苦笑した。
「…女にかっこつけるのが男の仕事です…あなたはきれいだ。たとえ妖怪だとしても、ね。」
「これでもぉ~??」
口裂け女はテンプレ通りにマスクを外して、狐のような耳まで裂けた口を私に向ける。先代直伝のきざな言い回しは恥ずかしいくらい通用していない。くそったれ、こういうのは初めて真剣に口説かれて戸惑うやつじゃないのかよ。ちょっと期待した私がばかみたいじゃん。
私は恥を感じた後に冷静さを取り戻し、胸ポケットを探る。その間に口裂け女は巨大な腕を振りかざし、今にも襲おうとしてくる。
「シュバアアアアアアアァァァァ!!!!!」
「くらえ!!」
私は胸ポケットから"べっこう飴"を取り出し、口裂け女に投げる。
「!! ギャアアアアス!!!!」
私は生じた隙を逃さず追撃した。
「ポマード!」
「!!!!! ヘアアアアアアアア!!!アア!!」
噂通りだ!こいつは"ポマード"と聞くとたちまち苦しみだす。(諸説あり)
「ポマード!ポマード!!ポマード!!!」
「ヒイイイイイイイイイイ!!!!!」
「ポマード!ポマード!ポマード!ポマード!ポマード!」
「アアアアアア!!!アス!!!」
「ポマード!ポマード!!ポマード!!!ポマード!!!!ポマード!!!!!!」
「アス!アス!アス!アス!アス!アス!」
「ポポマード!ポポマーデス!(メ〇ゾーマ的な)」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「ポマード!…ゼェ…ポマド!…マド!ポ!」
「我限界立不瀕死救済求」
「うわん!!」
「ポマー―――…あっもう死んでる。」
このようにして私は今まで妖怪を倒してきたのだ。
なに、今回の妖怪の対策もそう難しいものではない。「うわん!」と叫ばれたらこちらも叫び返せばいいだけのことだ。だから今俺の頭に地面が乗っかていることもそう難しいことではないのだ。
…あ?あれ?
あっちに私の体がある。首からうえがない。
あっ…こっちがあたまか。
どうやらさっきの回想中に襲われてしまったようだ。人生最大の不覚である。もっとも、これから死ぬわけだが。だがこうやってあっさり死ぬのも、すっかり諦めがついてなかなか楽である。私の意識は私を食らおうとする口の中、喉奥を見たのを最後に、消えてなくなった…
完