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第7話

「はぁ、食った食った…もう何にも入らない…」

「そりゃあ、それだけ食べればな…ミーニャへのお祝いだぞ、もう少し遠慮するとかないのか」


母屋のダイニングテーブルでバウルンにお茶を出しながら、アインラハトは呆れた。

山と並べられた料理が一瞬で片付いた。ミーニャもよく食べるが、彼の比ではない。

まだもらってきた食材はあるので大丈夫だが、義妹は夕食も楽しみにしているだろうから一から作り直さなければならなくなった。


そもそも、自分の昼飯もなくなったのだが。


「いやー、久し振りのラハトの飯だからさ、ついな。その代わり、今度ちゃんと土産持ってくるよ。隣国の年代もののうまい酒だぞ」

「どうせお前も飲むんだろ」

「当たり前だ、味見させろ。で、酒のアテもよろしくな」

「はいはい」

「嬢ちゃんも勇者になったんなら、ついでに祝っとくか。っていうか、なんで勇者になったんだ。他人のために働くなんて殊勝なことできるタイプじゃないだろ」

「あんな優しい子だぞ、悪口言うな。迷子になって案内されたら勇者大会の会場だったんだってさ。あの可愛さだろ、皆手加減してミーニャを勝たせてくれたみたいで、今代勇者があっさり決まったわけだ」

「…………あの小娘が言ったのか?」


半眼になったバウルンに大きく頷けば、盛大にため息をつかれる。


「はぁ、お前が兄馬鹿だってわかってたけどそんな嘘にころっと騙されてるし……なんだろ、すごく疲れる…しかし、それでも勇者ねえ。あの小娘がばれる危険まで冒すほどの何かがあるとか。ここ最近、王都で変わったことでもあったのか?」

「え、さあ? いつもの王都でいつものように魔物が出て皆で退治してたけど。変わったことなんかあったかな?」

「いや、ぼんやりのお前に聞いた俺が悪かった」


ぼんやり?

どういうことだ、昔馴染みは半年経っても辛辣さが変わらない。


「先代勇者は優秀だって聞いたけどなぁ。まぁ、あの小娘が動くくらいだからなんかあるんだろうな、仕方ない、俺もやるかな。お前も相変わらず調子は戻らないんだろ。その手の火傷が物語ってるもんな」


何やら考え込んでいたバウルンが、唐突に尋ねてきた。


「そうだな、変わらないよ。一体何年前の話だと思ってるんだ。調子が戻った症例なんてないことはお前も知ってるだろうが」


魔力失調症。

その名の通り、体内を廻る魔力が暴走して制御が利かなくなる病気だ。発生原因もわからなければ、治療法もない。

患ったのは今から十年ほど前になる。ある日、目覚めたら操れていた魔力が全く言うことをきかなくなったのだ。

例えるなら、パンを捏ねるために小麦粉と水と塩と酵母をきっちり配分通りに混ぜても全く塊にならないような感じだ。いつまでもドロドロして思った形にならない。そのうちどこかへ零れていく。

もしくは無理矢理魔法を使うと、先程みたいに怪我を負うことになる。

簡単な初級魔法ですら火傷になるのだから、上級魔法など使えるはずもない。


それまでバウルンと共に冒険者をしていたアインラハトは転職を余儀なくされ、結果街外れで道具屋を営んでいる。

妻が出て行った原因でもある。

かなりの稼ぎがあった自分があっさり無職無収入になってしまったことにラウラは相当腹を立てていた。

しかも結婚式前日に魔力失調症を発症してしまったので、結婚式自体がお通夜みたいな有り様だった。

肝心の初夜すら営める雰囲気はなかった。

三日で妻が出ていくのも納得するというものだ。


ミーニャを置いていったことは予想外だったが、アインラハトには有り難かった。

唯一の幸運だったと言っても過言ではない。

彼女を育てるために道具屋を開いたようなものだ。


だから、アインラハトはミーニャにとても感謝している。彼女がいなければとっくに自棄を起こして自分も失踪していただろうから。


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