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第3話

「たのもーっ」

「どなたかーあーいらっしゃらないかあー」


家の扉の前で声を張り上げている男たちが二人いた。

あまりに二人の体格が良すぎて、扉が見えない。それどころか家が随分と小さく見える。

朝も早くからなんだとアインラハトは市場で貰った食材を抱えながら家へと急いだ。

小高い丘を登った上にポツンと建つのが道具屋ハウゼンだ。王都にあると言っても商業地区の街中ではなく外れも外れた場所にあるため儲けは少ないが、固定客がいるのでそれほど生活に困ることもない。贅沢三昧というわけにはいかないが。


表は店で裏が母家になっている。彼らは店の入り口で騒いでいた。隣近所はほとんどないに等しいほど離れていてよかったと安堵しつつ、近づく。ちなみに義妹はどれほどの騒ぎが起きようとも起きる時間にならなければ決して起きない。寝ることに関しては根性の座った娘なのだ。


片方は剣士で、片方は体に鎖を巻き付けた男だ。どちらも大きく鋼のような筋肉をしている。

どこかで聞いた組み合わせだな、と首を傾げつつ荷物を地面に下ろして用件を尋ねる。


「ここは道具屋ですが、何かご用でしょうか」


常連客でないことは確かだ。

見たことはない。

相手はしげしげとアインラハトを見下ろして、ぽんと手を打った。


「ああ、そういや店をやってるって聞いたな。ではあなたがあの方のご家族か!」

「おお…っ、ぜひぜひあの方に会わせてくれ! 俺が一番弟子だ」

「パーギー、馬鹿なことを言うな。ワイのほうが一番だろう!」

「なにぃ?! 表に出ろ、このアホ鎖男め。一瞬で得物の錆にしてくれる…」


途端に険悪な雰囲気になって顔を突き合わせる二人に、落ち着くように声をかける。


「ちょっと、ちょっと…こんなところで喧嘩はやめてくださいよ。というか、貴方たち昨日勇者大会に出ました?」

「ああ、そうだが」

「おうとも!」

「ああ、そうなんですね。優勝候補のパーギーさんとええとダウタロスさん?」


先ほど市場で仕入れた情報を元に推測して名前を出せば、二人が同時に頷いた。

アインラハトはにこやかに微笑む。


「よかった。ちょうどお礼に菓子折り持っていこうかと思ってたんですよ。昨日はいろいろと義妹に便宜をはかってもらったみたいで…十年に一度しかない大会なのに申し訳ない」

「へ、菓子折り?」

「いやいや弟子入り志願に来てなぜ菓子折りを貰うんだ?」

「いや、これは菓子折りをもって出直せということか…」

「なに?! では俺が一番だと約束してもらえればすぐにでも持ってくるから」

「だから抜け駆けするなと言ってるだろうが、ワイの方が先にここにいたんだぞっ」

「それは貴様が俺が出掛けるときに邪魔をしたからだろうが!」

「だから、喧嘩はやめてくださいって。それより、こんな朝早くに用件はなんでした? 誰かに会いにきたんですか?」


取っ組み合いを始めた巨体の前で、アインラハトは二人の話を振り返って聞いてみた。


「「そうだ、ぜひともミーニャ殿に弟子入りしたい!」」


はもった。

というか大声で耳が痛い。

何を言われたのか分からなかったが、耳鳴りと頭痛が治まればなんとか理解できるかもしれない。


「え、なんですって?」


耳を塞いでもう一度尋ねたとき、二人の巨体はどこにもなかった。

代わりに寝間着姿の義妹が立っていた。もう起きる時間だったのか、ぱっちりと開いた水色の瞳には眠気は少しも見られなかった。起きたばかりだというのに寝ぐせのまったくないまっすぐな髪を揺らしてにこやかに笑う。


「あれ?」

「おはよう、お義兄ちゃん! 今日もいい朝だね」

「え、うん、ミーニャ? え、今ここにお客さんがいた筈なんだけど…あれ、お前裸足か?」


先ほどの二人組のことなど頭からすっ飛んだ。

小さな素足がペタンと地面にくっついている。

なんてことだ!

あんなに柔らかな足が、小さくて可愛らしい生足が、地面についているだなんて!!

傷がついてしまったら大変だ。義妹には痛い思いなどしてほしくない。


「えへへ、あんまりいいお天気だったから窓から飛び出しちゃった」

「相変わらずお転婆だなぁ。そうだとしても年頃の娘がみだりに寝間着でウロウロするな。ほら抱っこするから、おいで。それじゃあ歩けないだろ」

「うん」


ぴょんと飛びついてきたミーニャの腕がするりと首に回る。片手で体を支えて、ぶらぶらしている小さな足の裏の土を払ってやる。


ごろろと喉を鳴らす猫のように、ご機嫌でミーニャが胸にすりすりと顔を押し付けてくる。

それをしっかりと堪能しながら、地面に置いたままの食材を義妹に示した。


「今日、市場に行ったら皆がお祝いだってたくさん食材をくれたんだ。朝から豪華だぞ」

「わーい」

「後で市場の皆にお礼を言いにいこうか」

「朝の市場はムリだよ」

「言われずとも分かってるから。夕方の市場だよ」


ミーニャの部屋に向かって歩きながら、すっかり先ほどの二人組については忘れるアインラハトだった。

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