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第22話

この世界は弱肉強食だ。

そして力を失った者への排斥は無情だ。


世界を手にするほどの才能溢れた男が、栄華を失うのは一瞬で。

彼を取り巻いて称賛していた人々はあっという間に手のひらを返した。


役立たずと罵られ。

無能と貶められる。

自身で作ったものは無用の長物だろうと取り上げられた。


とくに妻となった女の豹変ぶりは凄まじく、むしろ結婚生活が三日も続いたことが奇跡だとさえ今なら思えるほどだ。

可愛らしく男を褒めていた姿からは想像もできないほどに冷酷に罵られる。


「私は、天才と呼ばれた貴方の腕を見込んで結婚したのであって、只人となった男に興味はないの」


結婚式の当日に、花嫁衣裳に身を包んだ女は嘲りも浮かべて吐き捨てた。

そこに美人だと褒めそやされた美貌はなく、ただただ醜悪なだけだったが、男にとってはそれすらもどうでもいいほどに絶望に打ちひしがれていた。


自分の価値は、この世に生み出す物でしか測れないものなのか。

自分の存在は、目で見える形でしか意義を見出せないのか。


そうであるならば、己はなんだ。

そうであるならば、今、呼吸している体はなんなのか。


魔力が扱えなくなっただけで、世界はこうもあっさりとひっくり返るということに絶望した。


結婚生活四日目、姿を消した妻がいなくなった居間に座りながらぼんやりと扉を見つめていると、不意にぎゅっと袖を握られた。

いつの間に、そこにいたのか。


居間のソファの横にちょこんと座っていた幼女は、自分で着替えてもおらずピンク色のパジャマ姿のままで、まっすぐに男を見つめてぽつりとつぶやいた。


「おはよう…おにぃちゃん?」


小さな手は驚くくらいに頼りなく、そして力強かった。

この手は自分を必要としていて。

この手は自分がいなければ、存在できない。


自分の価値を見失っていた男には天啓のように、感じられた。

小さな手が温かかった。

まあるい頬がただ優しかった。

無垢な水色の瞳が美しかった。


それだけで、男の中に活力が湧いた。


全てを一夜にして失った男は、四日目にして自分の人生の支えを見つけた。


彼女のことを全力で愛して、彼女のことを全力で護ろう。


この世は理不尽で、どうしようもない苦しみに満ちた世界だけれど。

彼女にだけは、ずっと可愛いままで。

彼女が困らないように。彼女が泣かないように。彼女が傷つかないように。


大切に慈しんで生きていこう、と誓う。


たった一人残った友人は、男が作り上げた数々の魔道具などを取り戻そうとしたけれど、もう男にとってはどうでもよかった。


男にとっての幸せは少女の笑顔で、可愛い姿を傍で眺めることだったのだから。


こうして天才的な魔道具師はある日、忽然と世間から姿を消したのだった。

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