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第20話

「あんたも魔力失調症なのか…」

「ミッドイ、飲んだほうがいいよ。確かに回復が遅すぎる。力が伝わらないのがよくわかるから」


女が悲しげに言えば、男も諦めたのかしぶしぶ薬瓶に手を伸ばした。そのまま無言で呷る。


「うっ、まず…っ」

「あー、ごめんな。品質と効果は保証するけど、味の保証はできないんだよ」

「それは、先に言え!」


ぐうっと呻き声を抑え込みながら、男が顔を歪めた。ますます不機嫌そうな顔になるが、今度のは心が伴っている。


「ところで、ミーニャは?」

「え、ああ。彼女なら―――」

「どうした?」


カテバルが説明しようと口を開くが、途中で言葉が途切れた。男から視線を外して顔を向けると、彼の姿が消えていた。

代わりにミーニャが泥だらけで立っていた。カテバルの姿が消えたことなど、頭からすっ飛ぶくらいに泥んこだ。


「え、あれミーニャ?! お前、なんでそんな泥だらけに……」

「うえーん、落ちちゃったの!」


ミーニャが声をあげた瞬間、横で見守っていた男女がびくりと肩を揺らした。信じられないものを見たように目を丸くして絶句している。

義妹があまりに見事に泥だらけになっているので驚いたのだろうか。


「え、沼地にか? 邪魔にならないところで大人しくしてろって言ったのに」

「ミーニャ、邪魔してないもん。それにお義兄ちゃんは邪魔しないように言わなかったじゃない。皆の言うこと聞けって言ったよ。だから言うこときいて大人しくしてたよっ。でも突然、沼が現れたんだもん!」


メソメソと泣くミーニャの泥だらけの頭を優しく撫でる。


「そっか、沼が急に現れたのか…そりゃあ怖かったな。あ、そうだミーニャ。朝ご飯あるから食べないか。そうすれば元気になるよ」

「うん、食べる…」


沼地が急に現れるわけはないが、ミーニャは強情だから絶対に自分の非を認めない。折れてやるのも義兄の務めだ。


「あれ、姉御っ?! そんなところで何やってんですか。さっさとリザード―――ぐふっ」


離れた場所にいた魔法士の少年が遠くで喚いた瞬間、やはりカテバルと同様に姿が見えなくなる。


「あれ、どうしたんだろう。急に姿が見えなくなるな」

「ミーニャ、わかんない。それより、お腹減ったなぁ」

「あっそうだな。ごめん、ごめん。ほら、サンドイッチ作ってもってきたんだよ」

「えー、赤いの入ってる?」

「ニンジンな。仕方ないから今日は入れてない。ミーニャの初仕事だもんな」

「やったぁ! じゃあ緑も入ってない?」

「えっ、緑もダメなの?! キュウリくらい食べられただろう?」

「いつもは我慢して食べてるのっ。本当はキライ」

「あれ、そうだったか…ごめん、それは入ってるなぁ。じゃあ今日は特別に抜いていいぞ」

「わーい、お義兄ちゃん、大好き!」

「その前に手と顔を洗おうか。洗浄石持ってきたんだ。お前すぐに汚すからなぁ。あ、あんたらも食べる? 多めに作ってきたから遠慮しなくても大丈夫だぞ」


男女に顔を向けた瞬間、彼らの後ろに雷を帯びたリザードマンが飛びかかってくる姿が目に入ったのだった。


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