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第17話(ティター視点)

ティターは、第十七代勇者パーティの聖乙女だ。

聖華教は聖魔法の力の強さで階級が異なり、一番トップが聖女、その下が聖乙女、その下が聖少女となる。

純粋に力の階級なので、老婆が聖少女を名乗ることもあり、現場ではすごく嫌われている階級名ではあるが。


ティターはすでに三十路だ。聖乙女だなんて名乗りたくない。

だからいつも聖魔法士と名乗っている。


カイデ街道の入り口あたりで馬車から降りて、きょろきょろと辺りを見回していた三人に、ひとまず挨拶した。

封鎖された街道に戦闘職系の格好をした者たちが現れれば、それは同業者だ。


「初めまして、今代の勇者パーティの皆さん」


自分の名前と役職をにこやかに告げれば、剣士の男が照れたように頭を掻いた。


「ご丁寧にどうも、俺はこのパーティのまとめ役のカテバル=ポトリングと言います」

「まとめ役?」


目の前ののっぽが勇者かと思えば、そうではないらしい。

南のモンスター退治から戻る道すがら、リザードマン退治を依頼された。

その足で現場に向かえば、今代勇者パーティの聖女がやってきて、可愛らしく挨拶された。そこで初めて自分たちの後継ができたことを知ったのだ。

確かにもうすぐ大会の時期だとは思ったが、先代に今代勇者の情報を全く伝えないものだろうか。事前の参加者だって風の便りに聞いたほどだ。

そもそも聖女が言うには、初めての仕事なので先代のやり方を見て学べと言われたらしい。つまりお荷物ということか。


リザードマンは数が多くないとはいえ、厄介な相手だ。

それを新人教育の場に使うのはいかがなものか。

自分たちの時は、たしか大量のスライムが初仕事で引き継ぐどころか勇者が蹴散らして終わったが。


歴代最強の名を冠している勇者ミッドイは魔法剣士だ。

自分ともう一人魔法士のトリンの三人で勇者パーティを組んでいるが、ほとんどミッドイが討伐してきたようなものだった。

だからカテバルが勇者かと思ったのだ。


改めて馬車から降りてきた二人を見れば、魔法士らしい少年と武器の持たない町娘がいた。萌黄色の麻のワンピースを着た少女は場違い感が否めない。

誰かの妹だろうか。

兄が心配で様子を見に来たとか、そんな様子にティターは戸惑った。


「ご覧のとおり、今代勇者パーティは年齢層が低いので。保護者代わりということですかね」

「はあ…そうなんですね」


保護者が必要な勇者パーティなど聞いたこともない。

歴代の中でも突出した変り者パーティだ。

自分たちが歴代最強の称号を手に入れたから次代はイロモノでいいと思われたのだろうか。


「おい、ティター。あっちの聖女さまと交代してくれ。力は強いが配分がうまくない」


リザードマンと前線で戦っていたミッドイが戻ってきた。

綺麗な紺色の髪は泥で汚れて見る影もないが、金色の瞳は燦然と輝いて力強さを感じる。まだいけるようだと、安堵する。


「無理しないで、適度に休憩するのよ。ああ、ミッドイ。こちら、今代の勇者パーティで…」

「ようやく全員到着か。随分と遅かったから逃げちまったのかと思ったぜ」

「すみません、伝達が遅れたんですよ。で、戦況はどうなっていますか?」

「半分くらいは退治できたと思うが、沼地に隠れているのがまだまだいそうだ。時間がかかりそうだな」

「聞いた通りですが、どうするんです?」


カテバルは少女に尋ねた。

少女はミッドイが現れた時から嫌そうに顔を歪めている。


「服って汚れるの?」

「え、服?」


少女がぽつりとこぼした言葉にティターは思わず聞き返していた。


「そりゃあ沼地だから汚れるだろう。蜥蜴ヤロウたちも泥ついたまま飛び跳ねるし、襲い掛かってくるしなあ。で、そんな危ないところにこんなガキをどうして連れてきたんだよ」

「あーいや、彼女が今代勇者なんで…」


カテバルの説明にミッドイが固まった。

もちろん自分だって信じられないことを聞いた。


「え、え? この子が、勇者なの?!」

「はい。先日、正式に陛下から任命されました」

「なんでだよ、今年はパーギーやダウタロスやスウって猛者揃いだって聞いたぞ。それでなんでこんなガキが勇者になるんだよ。しかも武器もなんにも持ってないじゃないか。素手で何をするって?」

「そうですよねー、信じられないですよねぇ。実際に試合を見ていた俺も今でも信じられませんからね」


カテバルが困惑したように頷いているが、試合を見ていない自分たちは全く信じられない。


「馬鹿なこと言うなよ。こんなに小さい素手のガキに何ができるって―――」

「触らないで」


おもむろに少女に伸ばした手をミッドイは止めた。

頭を撫でようとしたか、手を掴もうとしたか、とにかく非力に見える少女に手を伸ばしただけで、危害を加えるつもりなど毛頭なかっただろう。

だが、少女の拒絶は硬質で、圧倒的に強者の覇気に満ちていた。


「なんだぁ、偉そうに」


ミッドイが鼻白むが、少女は怯む気配はない。

変わらずに嫌悪の眼差しを向けている。


「泥汚れって魔法でキレイに落とせる?」

「え、ええ。聖魔法を使えば落ちると思うわよ?」


聖魔法を応用すればできなくはない、と思う。

だが、不浄とか汚れとか呪いとかを落とす魔法で、目に見える汚れは洗って落とす方が普通だ。聖乙女程度の力では洗濯したほうが綺麗に落ちるような気がする。そもそも通常の用途以外で使えるほど力が強くない。そのため、どこまで綺麗になるのかは確信がもてない。


「姉御、僕の魔法でも綺麗になりますよ!」

「お前が魔法使ったら服自体がボロきれになるだろうが」


少年が嬉しそうに声をあげるが、カテバルが一瞬で否定した。

少女はそんな二人のやりとりを無視して、仕方ないとつぶやいた。


「次からは服を用意してほしい。着替えてからしか行かない」

「はあ、服だ? そんな平民の格好の何が大事なんだよ?」


ミッドイが呆れたように告げた瞬間、彼の姿が見えなくなった。

掻き消えたとか、立ち去ったとかでもなく。倒れているとか、空に浮かんでいるとかいうわけでもなく。


文字通りに姿が見えない。


「え?」

「あああっ、なんで今代勇者を殴り飛ばしたっ?!」


ティターが瞬きして隣にいた筈のミッドイを探していると、慌てたカテバルの怒鳴り声が聞こえた。


殴り飛ばす?

誰が誰を?


「あー、姉御のあの拳は効きますよねぇ。僕も受けた時から世界が変わりましたよ。気分爽快、目覚めすっきり、ようこそ新しい世界へって感じで」

「馬車の中からずっと思ってたけれど、お前はなんでも前向きに受け入れすぎなんだよ、変態! いやそれより早く助けないとリザードマンのいる前線まで吹っ飛んだんじゃないか。方向考えて殴れよ。いや間違えた、殴るなよ?!」

「お義兄ちゃんが作ってくれた服だもん」

「わかってるよ、お前がお義兄ちゃんを大好きなのは。だけど誰彼構わず殴れってお前のお義兄ちゃんは言ってないだろうが!」

「大丈夫ですよ、カーティさん。腐っても勇者なんだからリザードマンの真ん中に飛ばされても大丈夫ですよ」

「大丈夫の根拠が薄いな! それに気絶してるかもしれないだろうがっ」


三人の今代勇者パーティを茫然と眺めていて、カテバルがまとめ役と言った意味が分かった気がした。確かに、これは大変だ。

なんだかよくわからないが、大変なことだけは伝わった。


いや、しかし今は勇者パーティの心配よりも自分たちのパーティの勇者が心配だ。


「え、ミッドイをリザードマンたちのいる方向まで殴り飛ばしちゃったの?!」



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