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第16話(カテバル視点)

先ほどまで恐ろしいほどニコニコしていた勇者は、今は無表情で馬車の窓から外を眺めていた。

対照的に殴り飛ばされただろう魔法士のナウロ=バルブスはさっぱりとした表情で、少女の隣に座って甲斐甲斐しく世話を焼いている。


「姉御、馬車の揺れはどうですか。クッションもっと敷きます?」

「窓から見える景色が綺麗ですね、何を見てるんですか」

「朝ごはん食べました? 僕、サンドイッチ作ってきたんですけどお一ついかがですか」


お前は彼女の従僕かと文句を言いたいが、なによりカテバルを不快にさせているのは馬車と並走して走るおおういという声だ。


町を過ぎたあたりから、野太い男の声が聞こえる。

気のせいではなく、馬車にまとわりつくように絡みついてくる。


「お師匠どのの門出だ! めでたいなあ」

「初めてのお勤めだ、これは盛大に祝わねば」


恐ろしいことに、相手は二人いて、どうやら馬車に並走して走っているらしい。

字の通り、馬にも乗らず自分の足だけで駆けてきている。とんでもない脚力だ。

手には鈴のようなものを持っており、しゃんしゃんと涼やかな音色がしているし、首からはラッパをかけている。

一種の大道芸のような格好だが、どこから見ても屈強な戦士たちだ。


しかも見たことがある輩たちでもある。


「おい、あれなんとかしろ」


カテバルが窓の外に向かってしゃくれば、少女は一瞥しただけでまた窓の外へと視線を戻した。その先には外の騒ぎは全く映っていない。

まるで自分には関係ないと言いたげな様子に、カテバルのこめかみに青筋が浮く。


「ああ、あれは姉御を師匠と崇める方たちですよ。バーギーさんとダウタロスさんっていって勇者大会で負けて姉御にすっかり心酔してて。僕も先日挨拶させてていただきましたよ」

「なんでお前が知ってるんだ?」


カテバルの視線を追って、窓を見たナウロが納得したように声を出して、説明する。


「殴られ消失仲間ですから」

「な、殴られ消失…?? なんの仲間だって?」

「姉御に殴り飛ばされると世界が変わるっていうか。なんか新しい世界の扉を開けたような気になるんですよね。カーティさんもいかがです、結構クセになりますよ」


勇者に殴り飛ばされる仲間を募るな、と言いたい。

だが胸を張って誇らしげな様子には、もう何も言えない。


やはり諸悪の根源の少女は何も興味がないように静かに窓を外を見ている。


「お師さん、気を付けて言ってきてください!」

「ワイは心から応援しておりますっ、お師匠!」

「俺が先に応援に行くと言ったのを邪魔したくせに」

「ワイが来るのを妨害したお前に言われたくない!」


並走して走りながらエールを送り、合間に激しい口喧嘩が始まる。その間にシャンシャンと鈴の音がこだまし、とにかくやかましい。


カテバルは両手で耳を塞いで深々とため息をつくのだった。


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