第12話
「何やってんだ、ミーニャ?」
小さな背中に呼びかければびくりと跳ねた。
彼女がイタズラをして叱られるときの反応だ。長年付き合っているのだから、それぐらいわかる。つまり義妹は叱られるような行為をしていたことになる。
立っているミーニャの奥には蹲ってひっくとしゃくり上げている聖女がいる。
彼女にはたくさんのゲル状の物体が付着していた。頭から服まで、べったりだ。
うねうねとクラッシュゼリーが卑猥に動く。
「ほんと、何やってるんだ、ミーニャ」
「やって欲しいって頼まれたのっ」
「そんないかがわしいこと、聖女様が頼むわけないだろうおおおお???!!!」
ばっと振り返ったミーニャが必死で言い訳をするが、下手すぎる。
誰がこんなヌルヌルでいかがわしいゲル状のものを体につけてほしいと頼むというのか。
「はっ、怒ってる場合じゃない。とにかく早く処置をしないと大変なことになる」
クラッシュゼリーは刺胞動物の一種で、ゼラチン質の体を持ち無色透明だ。光を受けて七色に輝くことからクラッシュゼリーの名前を持つ。
そして特性は特殊な粘液があることだ。アインラハトも素材としてよく使うのだが、彼らの触手から粘液が出て、それが繊維を溶かす。その上、刺されると興奮してしまうのだ。
つまり、媚薬やら精力増強剤の原材料に使われる。
マイネは知らないようで、泣きながら茫然としている。
だが、徐々にその衣服が透けていることには気が付いていない。
「すみません、キラキラしてたから何かしらって聞いたのは私なんです、ごめんなさい、ごめんなさい…」
えぐえぐと泣きながら必死で言い募る少女はどこか煽情的だ。
そんな場合ではないのに、アインラハトはドギマギした。
「ミーニャ、流し方は知ってるだろ。早く彼女を洗って」
「わかったよ、お義兄ちゃん」
ミーニャは力強く頷いてマイネの体をひょいと抱き上げるとそのまま湖へ、どぼんと放り投げた。
「へ…きゃああああ、うぷっ」
「ミーニャああ??!」
「これでばっちりだよ、お義兄ちゃん」
「馬鹿、何も湖に投げる必要ないだろう」
「だって手っ取り早いし」
「だってじゃありません。湖に落ちたら溺れることもあるんだぞ。そもそも突然人に投げられたらびっくりするだろう」
「えー」
「可愛らしく口を尖らせても義兄ちゃんは許しませんからね」
「げほっ、がはっ…す、すみ…ません、あの…はあっ…私、泳げ…ないんですう…がばばば」
力尽きて沈んでいく聖女を助けるために、慌ててアインラハトは湖に飛び込むのだった。