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第11話

せっかくミーニャに初めての友人ができて、遊びにきてくれたのだからもてなししたい。

二人は外へと遊びにでかけているので、三時のおやつの時間には戻ってくるように伝えてある。


ミーニャの体力に合わせて少女が疲れてしまうかもしれないから、義妹にはきちんと釘を刺して置いた。他人を振り回さないこと、調子にのって一人でどこかへ行かないこと。二人で仲良くすることを約束させた。

おやつを盾に脅したので、きっと守ってくれるはずだ。多分。


そうしてアインラハトは一人、台所に立ちながらだんだんと心配になってきた。

思わず小麦粉を捏ねていた手が滑る。


「あちゃあ、やっちまった」


木ボウルから溢れた小麦粉と水のどろりとした液体がテーブルの上に流れるのを見てため息つく。こんな失敗なんて近年では見られない。それほどにアインラハトの焦燥を表している。


さっさとおやつを作って、あの二人の様子を見に行こう。

初めての友人への扱いが分からずミーニャが困って泣いているかもしれない。

想像するだけで胃が痛くなってきた。

加速度的に悪いことばかりが浮かぶ。


ケンカしちゃったとか、転んで泣いちゃったとか、何すればいいかわからなくて途方にくれてるとか、おやつ何かなと放置しちゃったりとかだ。

怒った顔、拗ねた顔、泣き顔、困り顔が浮かんでは消えていく。

自然と小麦粉を捏ねる手も不規則になる。


駄目だ。

全く作れる気がしない。


てきとうに捏ねた小麦粉をちぎって二本の細長い棒状にして二つ編みしていき、これまたテキトウな大きさに切って熱しておいた油で素揚げする。


簡単な小麦粉菓子だ。

最後は砂糖と森で採れたハウランの粒を振りかければ出来上がる。

小麦粉が揚がる香ばしい匂いが台所に立ち込めたが、いつもなら現れる義妹の姿はもちろんない。


さらにアインラハトの焦燥感は募った。


ザルに揚げた菓子を葉を敷き詰めた皿に移す。ラニアという名の赤い大きな葉は油を吸着するため重宝するのだが、そんなこと今はどうでもいい。


火の始末をしてエプロンを外して、ダイニングテーブルに放り投げるとアインラハトは外へと飛び出すのだった。



#####



家の近所を見て回り、森へと一歩踏み込む。

ミーニャの遊び場でもあるので彼女一人であれば大丈夫だと思っているが、よく慣れた場所でも危ないこともある。


今更になって普段彼女を一人で行かせることに不安を覚えつつ、小道を進んで湖の方に向かえば悲鳴が聞こえた。


思わず駆け出す。

いつもの小道も長い道のりに感じた。五分もかからず辿り着けるはずだが、一時間以上にもそれ以上にも感じられる。木綿のシャツはいつの間にか汗をすってグッショリしているほどだ。


ようやっと開けた場所に出る。正面には青い空を映して輝く湖がある。湖面は凪いでいるから、湖に落ちたわけではなさそうだ。

どこにいるのかと見回せば、再度小さな悲鳴が上がった。


「やぁっ、取ってください…っ」


声のした方を見れば聖女が泣きながら、地面に踞っていたのだった。

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