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第10話

「ご、ごめんください…」


店の扉が開いて顔を覗かせたのは、小柄な少女だ。

ミーニャと同じ年くらいに見える。腰まである金色の髪をまっすぐにおろしているが、サイドには小さな花の髪飾りをつけている。生花でなく、造花だが恐ろしく手が込んでいる一品だ。


「いらっしゃい、どんな御用でしょうか」


うちの店にはわりと年配の冒険者が出入りするが、彼女の格好は聖華教の真っ白な神官服だ。裾の長いスカートに、ケープを羽織っている。手には聖華教のシンボルのついた杖だ。

明かに客筋ではない。


「聖華教の方が欲しがるようなものは置いていないんだけどな」

「あ、あの…突然申し訳ありません。私はマイネ=クルックスと申します。こちらはミーニャ=ハウゼンさんのおうちで間違いないでしょうか?」

「え、ミーニャ? きみ、ミーニャって言ったのか?!」


同年代の女の子が義妹を訪ねてきたのは初めてで、思わず声が浮かれてしまった。

苦節十年。あの人見知りで泣き虫で怖がりは、全く友達を作ろうとはしなかった。育て方を間違えたかと心配したが、こうしてようやくお友達と呼べるような存在がやってきてくれた。


「あ、いえ、お友達というか…私、この度、勇者パーティに招かれまして」

「ん? ということはミーニャの仲間なのか」

「はい、そうなんです!」


嬉しそうに笑う少女に、思わず感心してしまった。

彼女は仕事を誇っている。義妹と同じくらいの年に見えるが、形だけのミーニャよりもずっと勇者らしい。聖華教の格好をしているのだから回復役だろうが、意気込みは十分に感じられる。

そんな子が仲間にいてくれるのだから心強いが、一方で少女たちを勇者として働かせることに一抹の不安はある。

今代勇者パーティは見た目で判断されて集められたのだろうか。それとも他の仲間が強いから勇者と回復役はお飾りでも大丈夫だと思われたのか。


「お義兄ちゃん、お客さん?」


ひょっこり店に顔を出したミーニャを見て、少女は声を上ずらせた。


「あ、あの。ミーニャ、さん!」


赤い紅玉のような瞳はまっすぐに義妹に向いていた。そこには純粋に好意の色が見えて、ひとまず安堵した。

ミーニャは昨日帰ってきてからも一度も王城での話をしなかった。

綺麗な格好でアインラハトを楽しませると、すぐにいつもの草臥れたワンピースに着替えてしまう。髪飾りは秘蔵の道具で直したので、そちらがまたつけられるとご満悦だった。

何かあったのかと心配したが、彼女が何も話さないので結局は聞けずじまいで、今も悶々と店に立っていたのだ。それが杞憂にすぎないとわかってよかった。一人でも好意的な仲間がいれば、ミーニャも安心できるに違いない。


「あの、昨日は、あまり話せなかったので…せめて挨拶くらいは、と思いまして…。私、聖華教の聖女をしております、マイネ=クルックスと言います。えと、これからもよろしくお願いします」


あれ、聖女?

聖女といえば、聖華教のトップクラスの聖魔法の使い手に与えられる称号だ。

意外な実力に驚きを隠せないが、当のミーニャはこくりと小さく頷いて、きゅっとアインラハトの手を握った。


聖女の実力よりも義妹の態度が一大事だ!

初めての出来事に、緊張しているのだろう。

ここは義兄として立派にフォローをしなければならない。

だって、同年代の少女がミーニャを訪ねてきてくれるなど、本当に人生初のことなのだ。この貴重な機会を逃がしてなるものか。


「そうか、わざわざ挨拶に来てくれたんだね。ええと、最初は少し不愛想かもしれないけれど、慣れたらたくさん話ができるから。これからも義妹と仲良くしてください」

「はい!」


見かねて少女に笑いかけると、彼女は満面の笑顔で答えてくれた。

ミーニャはそっぽ向いていたが、初めて同じ年頃の友人ができたかもしれない。

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