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アドバイス?

 

「教室まで押しかけなくても良かったと思いますけど……」


「私、家の中でもペットには手綱を付けておきたいタイプなんだ」


「そ、そうなんスね〜。でも首締まっちゃう事とかあるからやめといた方がいいですよ……?」


「そうなったら、そこまでの命だったって割り切るしかないね」


 ひえっ、マジトーンじゃん……。素朴そうに見えてこの人サイコパス入ってるよ!


 冗談はさておき、と雪見先輩は弁当を広げながら吉川についての進捗を尋ねてきた。


 まあ、その話題になりますよね……。


 廃部までのカウントダウンは確実に進んでいる。嘘を言ったって雪見先輩にはお見通しだろうな。


 俺は正直に頭を下げた。


「すいません。実は昨日、吉川に部活の件を伝え忘れちゃって」


 雪見先輩は箸を止めて呆然とした後、ふっ、と慈しむように笑みを浮かべた。


「藤本くんはほんと正直だね。感心するよ」


「怒らないんですか?」


「怒るも何も、この件は藤本くんに丸投げしてるからね。ただどうなったのか聞きたかっただけだよ」


 だったらあのメッセージはなんだったんだろう……。向こう5年分の寿命が削られた気がするんですが。


「で? 感触はどう?」


「楽しかったですよ、猫カフェ」


「それは感想」


 感触って言われても……吉川の本性を知ってしまってる今、遠慮が無い間柄としか言いようがない。


 考え込む俺を見た雪見先輩は見解を述べた。


「考え込むって事は、悪くは無いと捉えていいかな? 藤本くんは割とハッキリした性格だから、ダメならダメって遠慮なく言うでしょ?」


「確かに悪くはないと思います。実は今日も吉川と……まぁ、その辺をうろちょろする予定で……ってなんですかその顔は」


 雪見先輩のニタリと笑う顔が目に入った。

 それが癪に障った。俺と吉川が住む世界はあまりにも遠く、かけ離れてる。雪見先輩には、健気に頑張る哀れな子、程度に見られているようで小馬鹿にされた気分だ。どうせ、吉川を部に勧誘出来るとも思っていないのだろう。


 そして、やはり彼女は、


「じゃあ口説き文句は考えておかないとね」


 と、戯れを言う。


「雪見先輩みたいに本読んでないんで、そーゆーのパッと出てきませんよ」


「私はラブロマンスなんて読まないよ」


 軽くいなして平然を装う。雪見先輩の発言はいちいち意味深で、複雑な意図が絡まっているように感じられる。正直、吉川とは別の種類の疲れが溜まる。


 俺は吉川に恋愛感情を持っていない(というより、消え失せた)。けど、雪見先輩が俺に向けてくる期待は恋煩いにしか感じられない。


 ここはしっかり釘をさしておく必要があるだろう。


「あと俺、別に吉川に──」


「分かってるよ。特別な感情なんて抱いていないんでしょ」


「……そうですけど」


 遮られた。そして見事に先読みされた。彼女のこういう所が釈然としないのだ。

 俺の思案が思い浮かべたそばから全部丸見え……なんて空想すらこの人を前にすると現実味を帯びてくるぞ。


「そんな顔しないでよ〜。睨まれてるようで怖い〜」


 なんて白々しい。絶対思って無いだろ……。


 雪見先輩は「ところで」と話題を変えた。


「今日は吉川さんとどこを巡る予定なの?」


 あっ……全然考えてなかった。


「全然考えてなかったって顔だね。そんな藤本くんにアドバイスをあげよう」


「アドバイス?」


 思わず体が前のめりになる。

 対人関係が絶望的な俺に垂らされた一本の蜘蛛の糸。掴まない理由はない。


「猫カフェなんかの凝った場所もいいけど、意外と普通──例えば、本屋さんとかでも楽しめるんじゃないかな?」


「えぇ……」


「そんな顔しない。あのね……あまり言いたくはないんだけど、どこに行くかじゃくて、誰と行くかが大切なんだと思う。人付き合いが苦手な君なら理解出来るでしょ?」


 うん。想像してみよう。

 同じ遊園地に行くとする。その時、雪見先輩か優子、どちらかと行動を共にしなければならない。

 その場合、俺は問答無用で優子を選ぶだろう。


 なぜなら、優子には気を使わないで済むからだ。いくら雪見先輩と友好的な関係を築けているとは言え、結局は赤の他人。


 気兼ねなく文句を言い合える仲の優子に軍配が上がるのは必然だと言える。


 しかし、思い返されるのは友人と談笑していた吉川。


「吉川にも既に交友関係があります。俺を選ぶメリットなんて皆無でしょ」


 そう言うと、雪見先輩はこれでもかとため息をついた。


「世の中には同じ空間で呼吸できてるだけで喜ぶような変態もいるんだよ。価値を見出すポイントなんて、他人からとっちゃ、どうしようもなくしょうもないものさ」


 確かに、男子トイレに侵入するような怖いもの知らずもいるもんなぁ……


 つまり、吉川の友人を凌ぐ何かが俺にあると?


 ……特段無いと思うんですが。やっぱりこの人、俺で遊んでる? 自惚れて勘違いして盛大に自爆なんてしてやらないからな。


「それじゃあね。いい報告を期待してるよ」


 雪見先輩は万遍の笑みで俺を脅迫して去っていった。


 最悪の昼休みだった。



 教室に戻った俺は雪見先輩のアドバイスを真に受け、近くの書店を調べていた。

 すると、あるページが目に止める。


「漫喫、か」


 行ったことがない俺からすると暗いイメージがあるけど、写真をみると案外そうでもないのか。


 吉川が漫画喫茶? お姫様に鉄棒──並にアンバランスな組み合わせだな。

 でも、そんな彼女を見てみたいという興味もある。


 ……よし。物は試しだ。近くの店に行ってみるか。



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