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 昼休み。

 部室を訪れた俺に開口一番、「遅い!」と雪見先輩からの叱咤が飛んできた。


「しょうがないでしょ。昼飯食べてた……」


 腕組みしてご立腹の雪見先輩とテーブルの上の風呂敷に包まれた小箱に目が行く。


 まさか……


「私が空いたお腹を押さえて待っていたというのに……覚悟は出来てる?」


 眉は穏やか、目の形は虹のように曲線を描き、釣り上げられたように上向く口角。


 わー、雪見先輩ってこんなにいい笑顔出来たんだー。これなら友達たくさんできそー。……って違うでしょ。


「すみませんでしたァァァッッ!」


 ヤンキーの舎弟並に綺麗な礼を披露した。

 見てくださいこの角度。分度器要らずです。


「……ま、いいよ。私もお昼一緒に食べよなんて言ってなかったし。でも、もう少し察する力を身につけないと、吉川さんも振り向いてくれないよ」


 振り向いてって……そんな恋仲ゲームじゃあるまいし。


 俺が顔を上げると、弁当を広げた雪見先輩はおにぎりを一口ほおばった後、口に手を当てて上品に飲み込んだ。


 そして、本題だといわんばかりに真剣な眼差しで視線を交える。


「じゃあ、相談内容を教えてくれる?」


 そんな真面目な感じじゃなくていいです……ほんとに。なんて思いつつ、


「実は……」


 俺は今日見た夢の話をした。


 吉川がお嬢様風だったとか、雪見先輩に背中からぶすりと刺されたとかを話した上で、誘いを断られた時にどうすればいいのか……そんな質問だった。


「つまり、藤本くんは不安なんだね」


「ふあん?」


 思いもよらない方向からの言葉をキャッチし損ねた。


「そ。夢の中で断られた時のシュミレーションしておくぐらいだから、よっぽどだと思う。もしかして、吉川さんの事好きなの?」


「いや好きじゃないです」


「めちゃくちゃきっばり否定するんだね……」


 そりゃあ、あんなド変態好きになれる訳無い。こちとら、毎日男子トイレの前で見張り番やっとんだぞ。明らかに異常すぎて好きになるとかならないとか以前の問題だ。


「人を好きになるなんて当たり前のことだと思うから恥ずかしがらなくてもいいんじゃない?」


「別に恥ずかしがってなんかいませんよ。……それを言うなら雪見先輩も……すっ、好きな人とかいるんスか?」


 いざ聞くとなんか恥ずかしいな……


「いるよ」


「えっ」


「私、好きな人いるよ」


 2度目の念押しが、馬楝(ばれん)のように押し付けられて──ホントにいるんだなって実感させられる。

 雪見先輩って恋事とか興味無さそうだったから、呆気にとられてしまった。


 でも、俺を見る目は一切躊躇いがなくて、疑う余地なんてどこにも無い。


「意外、って思ったでしょ?」


 やっぱりこの人には全部お見通しなんだな。

 俺は頷いて答えた。


「でも、先輩がちゃんと人間やってて良かったです」


「そ……それはどういう意味? 私が悪意ある受け取り方をする前に弁明が欲しいんだけど」


「だっていっつも本読んでるし、話してみたら気さくだけど、見てる分にはちょっと不気味っていうか……座敷わらし?」


「少しは後輩らしく先輩を敬ってもらってもいいかな? 君から出る言葉はもれなく礼を欠いてる気がする」


「あはは……すいません」



 昼休みの終わりを告げる予鈴がなったので部室を出た。


「じゃ、今日は頑張って。猫カフェだっけ?」


「へ? 雪見先輩も一緒に行くんじゃないんですか?」


 階段を降りながら他人事のように言う雪見先輩。さすがに一緒に行ってくれないと……人尽部関連だし。あんた部長だし。


「私、猫アレルギーだから」


 蘇る本日ご閲覧の夢。


 高飛車な吉川の『ごめんなさい、私猫アレルギーだから』


 戻るは現実。目の前の雪見先輩──『私、猫アレルギーだから』


 こっちがかよォォォ……ッ!


 俺は足を止めた。

 どうしたの? と踊り場から俺を見上げる雪見先輩に犯罪者を見つけたが如く指をさした。


 そして叫ぶ。


「ギルティィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」


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