"勇者"の日記
とある遺跡にて、一冊の日記が見つかった。
その表表紙には、『勇者■■の日記』と書かれていた。
研究者である『教授』と『助手』は、解読されたその日記を読むことにした。
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■月■日
今日、魔王を討伐する勇者に選ばれた。
一か月後、仲間と共に魔王討伐の旅に出る予定だ。
誉れ高い任務だ。必ずや達してみせる。
旅の間でした反省を次に活かせるように、この日記を書くことにした。
取り敢えず、今日はこれだけ書いておこう。
■月■日
遂に今日、魔王討伐の旅が始まった。
旅の仲間と共に王様に拝謁し、軍資金と武器を貰うこととなった。
だが、貰えたのは50Gの軍資金と棒切れだけだった。
それで一体どうしろというのだろうか。
国庫がキツいのは知っていたが、今現在一番重大な任務であるはずの魔王討伐にこれとはな。
正気を疑ったが、王様に対し不敬な真似は許されない。
俺にできるのは、こうして日記に書いて鬱憤を晴らすことだけだ。
あのクソハゲジジイ本当■■■■!
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「これは……この翻訳は、正しいのでしょうか?」
「うむ、確認作業は厳重にしておるし、間違いはないはずだ」
「しかし、それならこの"王様"は、"勇者"にたったの"50G"と"棒切れ"だけで"魔王"討伐に向かわせたというのでしょうか……一体何を考えていたのでしょうかね」
「うーむ……もしかしたら、"魔王討伐に勇者を向かわせる"というポーズが欲しかっただけなのかもしれんな。財政状況も苦しかったようだし、溜まっていたであろう国民の不満逸らし、という目的で、な」
「そんな一時しのぎにしかならないバカなことをしますかね……?」
「さあな。もしくは、この"勇者"は捨て駒で、他に何人もいたのかもしれない。まぁ、考えるのは後にして、今は続きを読もうか」
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■月■日
王都を出て、最初の村に着いた。
貰った金だと宿にすら泊まれなかったので、仕方なく民家にお邪魔させてもらった。
寝心地は余りよくなかったが、運よく壺や樽の中から結構な金が手に入った。
明日はこれで装備を整えることにしよう。
これであの棒切れなんかとはオサラバだ!
■月■日
装備を整えたので、村を出て早速戦ってみた。
この辺りはまだ普通の獣や、時折弱い魔物がでるくらいだ。
腕試しに丁度良かった。
仲間との連携も確認できたし、狩った獣を売ったら、明日には次の村に行けるだろう。
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「……"勇者"のこれ、強盗行為に当たりませんかね?」
「ふむ、まぁ、戦時中だと村から金目のものを徴収するなどはよくある話らしいからな……」
「でも"勇者"ですよ? これ、本当に翻訳合ってます?」
「……次にいこうかね」
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■月■日
あれから幾つかの村を経由して、今日ようやく大きな町に入った。
ここは品揃えが豊富だ。
ここまででそれなりに増えた金で、色々と買い込んだ。
宿にも泊まれたし、今はそれぞれの部屋で休んでいるところだ。
明日は、何やら領主が困っているようなので、それを解決する為に動こうと思う。
■月■日
領主の話によると、町から少し離れた所にある採掘場で、魔物が暴走しているらしい。
それを鎮めてほしい、ということだ。
本格的な魔物との戦闘は、これが初だ。
気を引き締めていこう。
■月■日
死闘を制して、どうにか魔物を鎮めることができた。
この暴走は、結界に不具合が発生していたため起こったようだ。
暴走を止め、無事結界も直せたが、結界の不具合による魔物の暴走は、王国各地で起こっているらしい。
この旅は、どうやら各地の結界を直しながら進むことになりそうだ。
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「魔物の暴走、ですか。そんなことが起こっていたんですね」
「うむ。各地で"結界"が壊れていたというのは……どうやら、王国は想像していた以上に厳しい状況に置かれていたようだな。この"王様"は一体どんな奴だったのだろうな」
「どうせ碌な奴じゃありませんよ」
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■月■日
あれから色んなところで魔物の暴走を抑えて回った。
その中で、俺達は結構強くなれたし、仲間との絆も確かなものになってきていると思う。
この調子で魔王討伐までいきたい。
ところで、この先にある山に聖剣があるという噂を聞いた。
魔王討伐には聖剣が重要な鍵を握っている。
何としてでも手に入れたい。
視界の先に聳え立つ山に、俺は期待を胸に向かう。
■月■日
険しい道のりだったが、どうにか山の山頂へと辿り着いた。
この先の祠に、聖剣があるという。
達成感に浸りながら祠の中に入ろうとしたその時、突如魔王の手先である魔族が現れた。
俺達は必死になって戦ったが、道中の疲れもあって、奴等を取り逃がしたばかりか聖剣まで奪われてしまった。
目の前で聖剣を奪われたのは屈辱的だったが、悔しがってる暇はない。
一刻も早く奴等から聖剣を奪い返さなくては。
そのためにはもっと強くならなくてはいけない。
俺達は更なる特訓に励むことにした。
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「成程、ここで"勇者"は聖剣を取り損ねていたんですね」
「ふむ、もしかしたら、これが魔族と人族の戦いの決め手だったのかもしれんな」
「大きな発見ですね、これは!」
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■月■日
今、俺達は魔族との戦いの最前線にいる。
ここに来てちらほらと魔族が見られるようになったが、あの敗北以来特訓に特訓を重ね、より強くなった俺達は、奴等を倒すことに成功している。
ここは最前線なだけあって、治安が悪い分、身の安全を守る為には良い宿に泊まるしかない。
結構値が張るが、仕方がない。必要経費として諦めよう。
■月■日
魔族に関する情報が手に入った。
それには、魔族が物資を補給する為の中継地である村の場所が記されてあった。
奴等の中でも強い奴は最前線に駆り出されており、村の守りは薄くなっているらしい。
そこで、明日その村を奇襲することにした。
この作戦が成功すれば、魔族との戦いはこちらが優勢になるだろう。
今後を左右するかもしれない戦いだ。一層気を引き締めていこう。
■月■日
村への夜襲は、成功した。
だが、制圧後の処理でもたついている間に、前線にいた魔族どもが駆けつけてきやがった。
その先頭に居たのは、忘れもしない、目の前で聖剣を奪いやがったあいつだ!
先の屈辱を晴らすため、俺達一同は奮起して戦ったが、あと一歩のところで奴を倒すことはできなかった。
奴に重傷を与えはしたが、仲間は沢山死んじまって、俺も大怪我を負ってしまった。
この怪我ではリベンジに戻ることもできず、悔しさに震えながら、俺は怪我を癒すため前線から少し引いたところで養生している。
この怪我が治ったら、いつか必ず、奴を倒してやる。
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「この時の戦いは、もしかして……!」
「うむ、恐らくはかの有名な『オズワルトの夜戦』だろう。ここで、人族は大損害を出しながらも相打ちのようなかたちで終わったとされているが……成程、こうなっていたのだな」
「これまた貴重な発見ですね、教授!」
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■月■日
あの戦い以降、この戦いは徐々に魔族側が優勢になっているらしい。
それもあって、俺達勇者一行は白い眼で見られている。
屈辱だが、今はこの悔しさをバネにして鍛え、忌々しい奴等を倒せるまで強くなってみせるしかない。
今に見てろ、■■!
■月■日
遂に奴が、あの忌々しい■■が俺達の近くまで来ているらしい。
これで漸く今までの修行の成果を見せられる。
あの戦いを生き残った仲間と一緒に、腐れ■■をボコボコにして、今まで散々馬鹿にしてきた奴等を見返してやる。
この次のページを勝利で彩るべく、俺は決意をより強固なものにした。
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「……この日記は、ここで終わっていますね」
「成程な。これに書かれている内容を見るに、この日記を書いていたのは【裂覇】のガンダリオンだろうな」
ふぅ、と一息ついた『教授』は、余韻に浸るかのように目を細めながら言った。
「……さて、大変興味深い資料であったな、これは」
「えぇ、かの人魔大戦を魔族の視点で書いてある書物は数少ないですからね」
「しかも、魔王軍四天王の一柱であった【裂覇】のものとは、大当たりを引いたな」
「そうですね。これで研究資金アップを狙いましょう! ……それにしても、思った以上にあの国の内情は悪かったんですねぇ。こんなに腐っていたとは思っていませんでしたよ」
「そうだな。末席とはいえ四天王に名を連ねることになるような者にすら、雀の涙ほどの金とゴミに等しいものしか与えない"王様"や、魔物を統制下に置く装置である"結界"を暴走するまで放置していた各地の領主たち、村人の家に押し入り金を巻き上げる"勇者"ーーーー戦がなかったとしても、遠からず滅びていたとしか思えんな」
ですね、と相槌を打った『助手』は、『教授』から話を引き継いで続ける。
「それと、【裂覇】が自分のことを魔族の言葉で"勇者"と表していたり、私達人族のことを"魔族"と表していたりしたのは何故なんでしょうね?」
「ふむ、恐らくは、上からそう教育を受けていたのだろう。"憎き悪魔の魔王を倒せ!"という風にな」
「戦争をしかけ、暴虐の限りを働いておいて、それは、随分と面の皮の厚いことで」
「まぁ、これも同じく、戦時中にはよくある話、ということだ」
「はぁ。そういうもんですかね。……何にせよ、周りの出土品も含めて、考察やら何やらをレポートに纏めないといけませんからね。教授、今夜は寝かせませんよ!」
「ははは、助手君、それはこっちの台詞だよ」
彼らの賑やかな話し声は、翌日まで途切れることなく続いた。
余りの熱中っぷりに、翌日研究室の管理人から「ゆうべはお楽しみでしたね」と(若干青筋を浮かべられながら)揶揄われたとか。
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とある魔族が住んでいたものと思われる遺跡にて、一冊の日記が見つかった。
その表表紙には、魔族の言語で『勇者■■の日記』と書かれていた。
魔族、ひいては『人魔大戦』の研究者である『教授』と『助手』は、解読されたその日記を読み終えーーーー他の資料と共に、大事に保管場所へと戻した。
一体どちらが、本物の悪魔なのだろう。
ーーーーということで、最後までご覧いただき、ありがとうございます。
"勇者"は実は魔王側だったという、まぁ考えてみればそこそこありふれたトリックだった気がしないでもありませんが、随所のネタも併せて結構楽しく書けました。
""が付いているか否かでの言葉の区別や、最初と最後の文章の対比など、伏線やミスリード的なもの(?)も楽しんでいただけたら幸いです。
蛇足になりますが、一点だけ、本作において、■の文字は、日付以外だと汚い言葉の代わりに、所謂伏字として使っています、と補足をさせていただきます。
さて、この小説は、とある歌を聴いていたら思い浮かんだものを、衝動的に書き上げて出来た作品です。その為、色々と粗があるかもしれません。
矛盾点など見つけましたら、ご報告頂けると嬉しいです。
余談~【裂覇】亡き後、某城内にて~
「【裂覇】がやられたか……」
「ククク……奴は所詮四天王最弱……」
「■■ごときに負けるとは、四天王の面汚しよ」
その後、四天王その1は勇者に倒され、四天王その2は裏切り、四天王その3は部下に殺されたとさ。めでたしめでたし。