ルート⑨5日目昼
5日目昼誰に会いに行くか
ナンバー 苺 ウサギ → ナンバー
4日目の夕食会で開示される指名失敗ペナルティをAにしたのにはちゃんと理由がある
Bを選ぶと当然開示される情報が違う
それによってナンバーの行動が変わる
理由は多分ブルーやウサギに本名で指名される恐れが増したことだろう
ブルーとウサギが話し合いをするルートがあったが、それによればBを選んだときに開示される情報は割と重要だ
俺が今回狙っていることに関して言えば、ナンバーに積極的に消極的な行動をしてもらっては困る
だから重要な情報は隠しておく
「ナンバー様、おはようございます。と言っても、もうすぐお昼ですが」
「…………おはよう、ございます」
「いつも遅い時間に朝食を食べていらっしゃるのですか?」
「…………今日だけ」
「それは良かったです。普段なら既に昼食用のバイキングに変えているものですから」
「…………軽いもの、取る。……少し、待ってて」
「かしこまりました」
黙って立ってナンバーがブランチと言うにも遅い食事を取るのを見る
「…………気不味い」
「失礼しました。ナンバー様の好みを知るチャンスかと思いまして」
「…………好きな食べ物、情報、ある」
「ですが、それ以外にも好きな食べ物はあると思いますし、苦手な食べ物もありますから」
「…………いつも、美味しい」
ここね、何回聞いても嬉しいよね
「……でも、パン……なんか、違う」
「パンは出来合いのものだからかもしれません」
「…………作らない?」
「残念ですが設備がないので作れません」
「…………そう。……残念」
この会話をしたときはホースの好物が開示されていなかったが、この会話で気付いた
別ルートで開示され、合っていたときは少し嬉しかったな
「そういえば、お伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「…………食べながら、良い」
「ありがとうございます」
ナンバーが座った席の向かいに座ると一瞬視線を逸らしたが、すぐに目の前の皿に移す
夕食会のときと様子が違う理由は分かっている
だが、今は言動を変えられない
申し訳ないが、我慢してもらうしかない
「…………なに」
「鴬様と随分親しい様子ですが、昨晩のことどう思われましたか?」
「……っ」
口に入れた食べ物が気管支にでも入ったのか、むせている
やっぱりキスをされたことを思い出したのだろう
何度見ても可愛いし、完全に誰よりもヒロインだと思う
「大丈夫ですか?お水を…」
「…………いらない。……大丈夫、座って。……意味、正確に」
「正確に、ですか」
浮かしていた腰を下ろすと少し戸惑っている風を装う
「昨晩鴬様はホース様を本名で指名されました。そのことをどうお思いですか?…という言い方で伝わりますか?」
「…………伝わる。……聞く、理由」
「ただの興味本位です。気分を害されてしまったのなら、申し訳ございません」
「…………別に」
こういう話し方をしている理由を知っている身としては直せとは言い辛い
だが、正直各々がどういう補足をしているか分からないために起こる認識の齟齬が起こってしまうので直してほしい
「…………ホース、わがまま、付き合った。……鴬、すごい」
「そうですか。ではナンバー様はご自身がどなたかを本名で指名する理由を探していらっしゃるのですね」
「…………どうして」
「レストランに入っていらっしゃったとき随分と考え込んでいたご様子でしたので」
「…………気を付ける」
小さく微笑むとじっと目を覗き込まれる
「…………人、死ぬ、嬉しい?」
「それ自体はとても悲しいことだと思います。それに、どなたかの大切な方が亡くなるのもとても悲しく思います」
「…………分かった」
怒らないで、だよな
この時点ではルールの穴について知らないはずだ
なにか別のことを試そうとしていたのだろうか
「…………今日、怒らないで」
気にはなるが、ここで対応を変えるわけにはいかない
「お客様に怒るなんてことは致しません」
「…………それなら、良い。……質問、終わり?」
「これは質問ではないのですが、最後にひとつ」
この後のナンバーの焦り様、可愛いんだよなぁ
「今夜苺様を指名される方がみえますよ」
「…誰。…どうして」
「どなたかはお答えしかねます。廊下で小耳にさんだ程度ですので理由は分かりかねます」
持っていたフォークをぐっと握って真剣に考えている
俺が得た情報を引き出せないのなら、俺が行動した理由を聞くしかない
「……僕、言った、理由」
「秘密です」
「…………それ、信用、無理」
身体に少し力が入る
睨んでいるのだろうか
「ご自由になさって下さい。それからひとつアドバイスを」
「…………なに」
「ルールをもう一度きちんと読んで下さい」
「…………どうして」
「刑事ドラマでは現場100回とよく言いますから」
「…………分かった。……ありがとう」
ここからはBを選んだときには言わなかったことだ
だが次にAを選んだときに起こった変化が開示された情報だけからくるとも限らない
変えたいと思っていることに直接的に繋がること以外変えないのがセオリーだろう
「守りたい方は見つけられましたか?」
レストランの出入口付近、つい口にしていた言葉を再度口にした
「…………ウサギ、不確定。……ブルー、野球、34、関連、ない。……18、確定。……34、バスケ。……知らない」
ウサギにとって致命的である可能性が高い「実家が紅茶屋」という情報が開示されても不確定なのは接点がケーキ屋ではないからではない
ナンバーにとって、2人が産まれたことは大切なことだったからだ
いつだったかウサギが言った様に、ウサギが産まれなかったことで他の5人がゲームに参加させられない
そんな未来があったとしても、ナンバーはウサギのいる道を選ぶだろう
エース背番号として有名なのは確かに野球が18でバスケが34だ
だがブルーは左投手だから34との関連性はある
ただそれを知らないだけなのか、箸を持つ手が右だから勘違いしているのか
それとも俺に嘘を吐いているのか
「そうですか。まだ見つけられていないのですね。いないことが一番良いのだとは思いますが、いるのなら早く見つけて守れると良いですね」
これはいつも俺が言っている「そうだとは言ってないけど、そう思うのは勝手」という誤魔化しだろう
この時点で苺に気付いていないのなら「誰が指名しようとしているのか」よりも「どうしてそれを自分に言ったのか」を先に聞くはずだ
「…………殺す、守れる?」
「相手がそういう考えなのであれば、そういうこともあると思います。でも俺は、例え守れなくても、大切な人には生きていてほしい」
ここでは守れなければ死ぬだけだ
だけど、今その考えをされるのは不味い
「…………誰が、大切?」
「主語をお願いします」
静かな動作で俺を指す
「わたくしの大切な人、ですか」
「…………そう」
一緒にゲームをした5人のことを思い出す
いつもは笑顔を思い出せるのに、今は死んでいくときの顔しか思い出せなかった
前この会話をしたときもそうだったな
どうしてだろう
「忘れてしまいました。ナンバー様もお気を付け下さい」
「…………分かった。……ありがとう」
きみがもし「正しい終焉」だったのなら、きみ以外はきっと死ぬ
それでも、きみの思い出はなくならない
どうか、思い出す顔がきみが素敵だと思える顔でありますように