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それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
ルート⑨
8/43

ルート⑨4日目夜

6名が会議室Bの指定された席に座る


「今日はアタシから良いかしら」


誰もなにも言わない


「あなたが昨日あんな提案をした理由を考えたのよ」

「聞かせてほしいな」

「どうせ殺されて罪を償うとか思ってるだけで、そんな考え方はおこがましい。ウサギの流れに乗っただけ。最初はそう思ってたわ」


寂しそうに目を伏せる


「だけど今日…なんて言えば良いのかしら。このホテルの唯一のスタッフ」

「じゃあスタッフで良いんじゃないか」

「話したのよ。そのとき「人はなんだかんだしぶとく生きようとするものだからホースがあんなことを言った理由をもう一度考えてみるべき」って言われたのよ」


俯いて首を振る


「結局アタシには分からなかったわ。だけどスタッフのことで分かったことがあるのよ」


俯いていた顔を上げて前をきちんと見て大きく息を吸った


「スタッフはこのゲームを望んでないけど、やらないって選択肢はない。それから、人を殺したことがある」

「前半はみんな気付いてたと思うけどねん」

「今は黙って聞け」


不服そうな顔をするが黙って鴬に視線を向ける


「ゲームの参加者は人間ではなく駒だけどゲームに勝ってこのホテルから出れば人間に戻れる。だけどアタシたち6人はまだ、6人の中では人間だ。そう言ったのよ」

「一体なにを言ったらそんな返答が来るんだろうね」

「城野歩がどうなったか、だろ」

「そうよ。そのあとアタシたちが死んだら物としてじゃなく遺体として扱ってほしいって言ったら、まとめるとそんな回答だったのよ」

「それで、そこからなにが分かるのかなん」


最初聞いたときはなにが言いたいのか全く分からなかったが、これは本題に入る前の掴みの話しだ

俺が人を殺したことを後悔しているが、お前はどうなんだ

そういきなり聞かれても困るだろう

ただ人を殺したことを後悔しているか、と聞けば良いだけかもしれないが、鴬的には駄目だったのだろう

その理由は分からない


「スタッフは人を殺したことを後悔してるわ。アンタは後悔してる?」

「どんな答えでも満足出来ない。それがきみの答えだね」


ホースは変わらず微笑んでいる


「それでも敢えて答えるよ。後悔している」

「残念ね、不正解よ。アタシの答えは「後悔していない」よ。後悔なんてするくらいなら幸せになってほしかったわ」

「それが俺を本名で指名したくない理由なのかな」

「そうよ。人を不幸にしたことを後悔するくらいなら最初からそんなことしなきゃ良いのよ。どうせならその人の不幸を踏み台にして幸せを掴みなさい」


これは本心だと思う

だけど、本名で指名しない理由とは少し違う気がする

これは単なる俺の勘だ

攻略ルートは見えているものの、分かっていないことが多い


「鴬、意図的にやったことならそれは間違っていないとは思う。だけど何気ない言動が不幸を呼んでしまったとき、人は後悔をするんじゃないのかな」

「ウサギ、良いんだよ。鴬が言っていることは正しいんだ。彼女を不幸にしたのは間違いなく俺なんだよ。自分のギャンブルに彼女を巻き込んだ俺が悪いんだ」

「どうせ今夜死ぬんだ、罪の告白でもしておいたらどうだ」

「そうだね」


鴬は明確に今夜ホースを本名で指名するとは言っていない

だが誰がどう考えても今夜鴬はホースを本名で指名するだろう

それを裏付けるのは「幸せになってほしかった」と過去形で言ったことだ

このホテルから出られる見込みがあるのならそんなことは言わない


「俺の彼女はモデルを目指していたんだ。だけど現実は甘くなくてね。父が芸能事務所を経営していたんだけど、経営が危なくなってね。彼女はそこから這い上がる。助けになるならってうちの事務所からグラビアアイドルとしてデビューしたんだ」


なにか言いたそうにぐっと拳を握った鴬の手をウサギが優しく包む


「グラビアアイドルのはずだったんだよ。でも実際はAV女優だった。処女を複数人でレイプするっていうテーマのね」


ブルーとナンバーがわずかに顔をしかめる


「俺も俺の父も騙されたんだ。俺は自分のギャンブルに彼女を巻き込んで、負けた。それだけなら、まだなんとかなったのかもしれない。でもそのAVが話題になったことで彼女は学校で居場所を失って、実際に何度もレイプされた。それで自殺したんだ」


何度聞いても重いし、気持ち悪い


「事務所は畳んだよ」

「それが無意味だって言ってんのよ!だったらさっさと畳めば良かったのよ!あの子をあんな目に遭わせておいて、それで結果が事務所を畳むなんて、意味が分からないのよ!売上は十分あったでしょ。それならそのお金で事務所立て直しなさいよ!」

「それならたぶ」

「ブルー」


ホースが小さく首を振る


「みんなごめんね、夕食前にこんな話し聞かせて。今夜は俺の最後の晩餐だからね、きっと俺の好きな食べ物でも出してくれるんじゃないかな」


ごめん、それは無理だわ

展開が変わることは避けたいからホースの好物はもう知っているけど、メニューを変えることは出来ない

それにこのときの夕食会ではメニューについて話している

余計変えるわけにはいかない


「最後の晩餐はハンバーグですか」

「お嫌いでしたか?」

「いいえ、一番好きな食べ物ではなかったので少し残念に思っただけです。でもいつもとても美味しいですから。ありがとうございます」

「申し訳ございません。ホース様の好きな食べ物は時間が足りなかったので…」

「もう少し早く申請しておけば手作りが食べられたんですね。食べてみたかったです」

「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」

「でも――あ、いえ、なんでもないです。いただきます」


そういえば翌日ナンバーに会いに行くとバイキングのパンの話しになる

こういう曖昧な答え方をしておいて良かった


「掛け声は俺で良いかな」


全員が無言のまま食事を終えるといつもの笑顔のホースが言う

了承の返事を全員がすると小さく微笑む

これから死ぬのになんでそんなに落ち着いてんの

それはホント怖い


「せーの」


全員が誰かを指で指し示す


「椎名剛」


ホースを指した鴬の声だけが妙に鮮明に聞こえた

微笑んでいたホースが苦しみだし、息もまともに出来ない状態の様子


「きみの、大切な友達を、奪ってしまって…ごめんね」


身体が力なく崩れ落ちる

その身体をナンバーが支え、横たわらせるのをブルーが手伝う


ブルー 好きな動物:猫

ナンバー 家族構成:父、母、兄、姉、妹、弟

苺 家族構成:父、母、祖父、妹

ウサギ 実家:紅茶屋


情報は十分見たはずなのにナンバーとブルーだけでなく誰も動かない

いつの間にか注目が集まっていた鴬の視線の先には横たわったホース…いや、椎名剛がいた


「鴬、部屋まで一緒に行くか」

「行けない」


行かない、ではなく、行けない

理由を知っていれば、この言葉は少し切ない


「アタシ、本当は知ってたのよ」

「事件のことをか」

「そうよ」

「ウチらにも分かるように言ってよん」

「…………相手、詐欺グループ。……売上、ホースの会社、全部、ない」

「そういえばそんな事件があったね」


いつも通りの無表情かつなんの色もない声で言ったウサギを鴬が少し睨む


「ごめん、ごめん。悪気があるわけじゃないんだ。でも世間的な認識として、そんなものだと思うけど」

「ナンバーはいつ気付いた」

「…………ブルー、言葉、止めた」

「そうか…」

「…………言ったこと、本当。……でも、出来ない、知ってた。……知らないフリ、ホース、望み、叶える、辛かった」


ナンバーが鴬をそっと抱きしめる


「…………もう、大丈夫」


ぽんぽんと優しく頭を撫でると鴬が声を上げて泣き出す

残った3人は軽く目配せをして部屋を出て、ブルーだけは少し離れた廊下で待っていた

椎名剛を部屋に運ぶためだ


「ありがとう。もう大丈夫よ」


しばらくすると身体を離して言うが、またすぐにナンバーが引き寄せる


「ちょっと」

「…………答え、出ない。……僕、どっちが良い、分からない」

「最初に守るためなら殺すことだって出来るって言ってたじゃない。それがアタシでも、それがあなたに必要なことなら応援するわ」

「…………ホース、殺した、死にたくない、帰りたい。……どうして」

「馬鹿ね」


そっと身体を離すと両手で頬を包む


「…………鴬?」


軽く唇を重ねると悪戯っぽく笑う


「ちゃんと見張ってないと「あの子」なにするか分かんないのは分かってるでしょ。守りたいなら躊躇なんてしてられないわよ」

「…………それは…、……そう、でも」

「あとは自分で考えなさい。ブルーを呼んで来るわ」

「……え、あ、まっ…」


ナンバーが呼び留めていたことは気付いていたはずだが、鴬はそのまま部屋を出た

へなへなとその場に座り込むナンバーに入って来たブルーが慌てて駆け寄る


「どうした。大丈夫か」

「…………大丈夫。……少し、驚いた。……それだけ」

「お?おう。それなら良いが…」

「……大丈夫」


2人で椎名剛を持ち上げると部屋を出て行き、監視カメラの映像と音声がなくなる

4日目夜の指名失敗ペナルティとして開示する情報

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