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それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
ルート⑨
4/43

ルート⑨2日目夜

6名が会議室Bの指定された席に座る


「ひとつ確認したいことがあるんだけど、良いかなん?」


思えば、苺はウサギを「金井郁」という名前で指名する以外は出鱈目な名前ばかりだったような気がする

一番平和を願っていたのは苺なのかもしれない


「答えるかは質問を聞いてからってことで良いのかなん?」


だが、そんなことを知らない5人は相変わらずそれにすら返答をしない


「今日の10時からの話し合いに参加したか不参加だったかと、その理由が知りたいなーって思うんだけど、駄目かな?」


返答がないことに痺れを切らして目が合った者にぱっと笑顔を向ける

分かっていて苺と鴬だけをじっと観察して分かったが、全くの偶然だった


「ねぇ、うぐい――」

「それを知ってどうするのかな」

「みんながどんな考えでこのゲームに挑むのか、それが知りたいんだ。いくらなんでもルール違反で死にたくないからって理由で夕食会に参加している人を指名したくないからねん」


恐らく今日の昼に俺と約束をしたことで鴬に目立った発言をさせたくないという心理が他よりも強く働いたのだろう

だからホースに2日目の昼に会ったときだけ言葉を遮るのがブルーではなくホースなんだ


「それは名前を知ることが出来たら指名をするっていうことなのかな」

「違う違う。全然違う名前だって指名されれば誰だってドキッとするでしょ?それだけだよん」


ブルーが訝し気な視線を向ける

ホースも表情こそ変わらないが視線は若干鋭くなっている


「言っていることは理解出来たよ」

「じゃあホースからお願いしても良いかなん?」


少し考える素振りをしてから周囲を見回す

特に反対意見が出なかったからか、小さく頷く


「俺は参加しようとしたよ」

「…………しようと、した?」

「うん。誰もいなかったし、誰も来なかったからね。だから話し合いは行われていないんだ」

「だから参加しようとしたって言ったのか」

「そういうこと」


ちらりと見られた鴬が慌てて視線を逸らす


「…………ボス、強かった。……時間、過ぎた。……ごめん」

「参加する気はあったがゲームをしていたら時間が過ぎたってことか?」

「…………いるか、まだ分からない。……でも、守りたい人、いる。……だから、可能性、検討、良いと思った」

「でもゲームの方が大事なんだろ」

「…………違う。……くれた。考えてた」


発言の内容が以前と違うことを俺はなんと考えたんだったか

ウサギより先に発言するときは全て同じ内容の発言だ

単に発言が面倒だったと考えて差し支えないだろう


「要領の得ない話し方だな。もう少し分かりやすく言ってくれ」

「多分その「守りたい人」からゲームを貰ったんだよね。だからその人と一緒にプレイしたマップとかコースとか?をひとりでプレイしていたから時間がかかったんじゃないかな」

「…………そう」

「そうか。で、何時に気付いたんだ」

「…………10時半。……一応、行った」

「そういえばさっき聞かなかったがホースは何時までいたんだ」

「10時10分だよ」


ブルーが訝し気な視線をホースに向ける


「…………10分?」

「そうだな。どうして10分しか待たなかったんだ。他に参加者がいるか分からない最初の発言者だから嘘を吐くとは思えないが、どうしてそれだけで戻ったんだ」

「もし鴬が参加するなら時間より前に来ていると思ったんだ。俺が部屋を出たのが9時55分だからぎりぎりだったんだよ。でも誰もいなかったから鴬は参加しないんだなってその時点で思っていたんだ」

「筋は通っているな」


ブルーの言葉に異論を唱える者はいない

ホースの言葉に疑問を投げかける者もいない


「次は俺だな。俺は参加していない。理由は意味がないから。ただそれだけだ」

「私も参加しようとした。だけど私が部屋を出たのは10時15分で…」

「…………会わない」

「ああ、ホースともナンバーとも会わない時間だな」

「でもだからって嘘だと決め付けるのは良くないよ。だって、そう発言するメリットが全くない」


自信なさ気に言うウサギに立て続けに3人がコメントするのが面白い

ブルーがナンバーに同意をしているから同じ発言をしている様に思えるが、実際ナンバーは多分「確かに会っていないね」と言っただけだ


信じているナンバー

信じたいからこそ疑うブルー

信じようと努力するホース


「そうだね。だから参加しなかったって嘘を吐くが迷った。でも例え自分を守るための嘘だったとしても、後々どうなるか分からない。だから信じてもらえないかもしれないけど、正直に言うことにしたの」

「分からなくはないが、今は信じられる材料がない」

「でもそれならホースとナンバーだって同じだよね。みんなが信じたいのは分かるけど、証明出来るものがいないのは同じなんだから」


次の発言がウサギが話し合いに参加しようとしたかの話し合いだけでなく、この話し合い自体の流れを左右する

だからこそ、全員が慎重になった

それが良かった


「…………理由」

「時間に遅れたのは単に寝坊。参加しようと思ったのは…なに」

「10時に寝坊って授業ちゃんと受けてるのかなって思っただけだよん。全然関係ないから進めて」

「実力主義の学校だからテストで点数取れれば出席率なんてどうでも良いの」

「軽い自慢入ったねん」

「聞いたのはそっちでしょ」

「進めてって言ったと思うけどねん」

「それにっ、私は成績が良いとは言ってない」

「あれ?そうなんだ。なんかごめんね?」

「っ、さっきからなん」

「ウサギ」


ブルーの声にはっとして視線を壁の方に向ける


「苺も煽るな」

「ボロが出るかなって思ったんだけどねん」

「出ないな」

「どうしてかなん?」

「ウサギは多分本当のことを言っているからだ」

「そう思う理由を聞かせてほしいなん」

「発言に自信がなさそうだったのは場を回しているホース、なんだかんだ的確な発言をしているナンバー、2人の信頼度と自分の信頼度を比べたんだろう。それが発言に出ている。それにホースと、ウサギ自身もさっき自分で言ったが、メリットがない」


発言に出ている、というのは「みんなが信じたいのは分かるけど」という部分だろう

咄嗟にこれが言えたなら随分な策士だ

ウサギは天然策士だろうがな


「うん…、そうだね」

「…………同じ」

「ふーん」


つまらなさそうにして身体を背もたれに預ける

ウサギは少し安堵の表情を浮かべていた

それもそうだろう

運営側だと思われても仕方がないデモンストレーションと発言に説得力のない場面で3人もの人間が平等に物事を考えてくれたんだから


「理由を正直に言うとまたなにか言われそうだと思っていることと、あまり積極的でない理由だってことを言った上で、これから言うことが本当だって誓う」

「なんか胡散臭いけどねん」

「…………苺」

「はーい」


俯いて小さく息を吐くと、しっかりと前を見て大きく息を吸う


「最後まで残る自信はない。出来れば死にたくはないけど、生に執着する気持ちはない。だから脱出する人の手助けが出来れば良いと思って」

「それだけの理由なら緊張感のなさから寝過ごしたのも納得出来なくはないな」


茶化す様なブルーの言い方に小さく微笑む


「もう良い?」


鴬が不機嫌そうに問う

最初は理由が分からなかったが、今ならなんとなく分かる気がする

疑うべき場面で信じようとしている3人を不服に思ったのだろう

情に熱い部分もあるが、妙に冷静…というより、冷淡な部分もある


「アタシが参加しなかったのはルールを読んだからよ」

「もしかして1人で生き残ることを目標にするつもりなのかなん?」

「違うわ。だけど6人全員で生き残って失いたくないものがあるのよ。だからひとりで生き残ろうとする人を否定することなんて出来ないのよ」


だからこそ、鴬はここで警告した

信じることの危うさ、愚かさ

これは鴬の過去を知った今だから言えることでもある


「誰かがアタシと同じように考えてるかもしれないし、誰かはもう、ひとりで生き残ろうとすることを決めてるかもしれない。そう思ったら行けなかったのよ」

「鴬は来るんじゃないかと思っていたから…でも今ので納得出来たよ。疑心暗鬼になるのは当然だよね」

「そうよ。それなのにウサギを庇うようなことを言って…誰が一番信頼がないかなんて、考えるまでもないでしょ」


嫌な役割を買うところは情に熱いんだよな


「そういう言い方は嫌だな。俺は現時点誰のことも信用出来ないと思っているよ」

「俺も同じ考えだ」

「…………言い方、酷い」

「言い方とかは別にどうでも良いけど、現時点で信頼度に甲乙を付けるのは無理だと思うなん」

「なんでよ!ウサギは昨日人を殺したのよ!」

「理由は昨日聞いたよ。おかしいと思うところはなかったと思うけどな」

「なにが起きるか分からないのに従うなんておかしいわよ!」

「従ってなんかない。役割を果たさなかったときどうなるのか分からないと「考えて行動」しただけ」


このとき鴬に気を取られていて気付かなかったが、珍しくウサギがムッとした表情をしている


「…………昨日、夜、考えた。……僕、そうする」

「これは結果からくる考察だが、そうしなければ死んだのはウサギだったかもしれない。それでも鴬はウサギが彼の名前を言ったことを否定出来るのか」

「それでみんな納得出来るって言うのかしら」

「そうだね。ウサギの言い分も、ブルーの発言も、筋は通っていると思うよ。それに俺だってそうしたと思う。なにせ招待状が怪しいからね」


怪しいと思うなら来るなよ

その感想は変わらないが、俺も来たひとりだから強くは言えない

あの招待状はなぜか「行かなければならない」という使命感を強く抱かせた

あとから思えばより気味の悪い招待状だ


「むしろ最初にここから逃げようって言った鴬がスパイだってこともあり得ると思うなん」

「なんでそうなるのよ!」

「だって、こんな山道1日じゃ降りられないからねん」

「野宿すれば良いだけだわ!」

「これだけ深い森だからね、野生の熊なんかがいないとは思えないんだ」

「それは…!その発想がなかったから…」

「…………言い逃れ、可能性、捨てる、無理」

「そうだ。だから全員信頼出来ないと言っている」


大きく息を吐いて背もたれにもたれかかる


「分かったわ」

「じゃあ最後ウチだねん。ウチが参加しなかった理由は、ブルーと同じ。意味がないと思ったから。これで答えは出揃ったねん。みんな答えてくれてありがとねん」


それっきり全員が黙ってしまう

話し合いはこれで終わりだろうし、料理を運ぼう

ノックをして3秒待ち、扉を開ける

今回は料理の準備をしている間、誰も話さなかった


「掛け声は必要かな」


気付けば全員が食事を終えていた


「止めておけ」


ブルーがわざとらしく大きく息を吸ったのを合図に全員が誰かを指し示して名前を言う

全員がその手を自分の意志で下すと映し出された映像を見る


ホース 好きな色:ブラウン

ブルー 将来の夢:プロ選手

ナンバー 好きな数字:偶数

苺 好きな動物:大型犬

ウサギ 家族構成:母

鴬 好きな動物:鳥類


全員がなにも言わずにバラバラに部屋を出て行き、そこで監視カメラの映像が消える

随分前のルートだから詳細には覚えていないが、出て行く順番まで同じだ

会話にも変わったことはなかった

よし、一先ず順調に進んでいる

3日目昼誰に会いに行くか

鴬 ホース

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