ルート⑮5日目
1日目夜の指名失敗ペナルティとして開示する情報をどれにするか
A B C → C
4日目夜の指名失敗ペナルティとして開示する情報をどれにするか
A B → B
5日目昼誰に会いに行くか
ブルー ナンバー 鴬 → 鴬
今回はここまで13回目と同じ選択、言動をしてきた
つまり9回目とは4日目の指名失敗ペナルティの開示する情報を変えた状況と同じ
このまま行けば、5日目、今晩の夕食会で苺はウサギを「金井郁」と指名するはずだ
そうなればウサギは身の危険を感じ、明日の夕食会で苺を本名で指名するだろう
だが、なにもしなければ今晩の夕食会でウサギは鴬に指名されてしまう
明日の夕食会で苺を指名してもらうためにはウサギに今晩の夕食会を生き延びてもらわなくてはいけない
今晩ウサギへの指名を阻止することが出来れば、今晩ナンバーがブルーを指名し、生き残りが鴬、苺、ウサギ、ナンバーに変わるはずだ
そして明日の夕食会で苺が消え、生き残りは鴬、ウサギ、ナンバー
だが、ウサギもナンバーも鴬を本名で指名することは出来ない
なんとかして明日の夕食会で苺に鴬を本名で指名してもらいたい
Bを選んだときに会いに行けるのはブルー、ナンバー、鴬
今日鴬に会いに行くから、明日会いに行けるのはナンバーだ
苺に接触する機会はない
だが、苺は可能な限りナンバーを守ろうとすることは分かっている
鴬になにか吹き込んで苺から見て不審な動きをさせることで鴬を本名で指名してくれる可能性は大いにあると思う
つまり、今日が勝負だ
気合を入れて、鴬の客室のドアをノックする
少しするとドアノックをかけた状態でドアが開く
「なんの用かしら」
当然の反応と言えばそうなのかもしれないが、少し冷たくない?
いや、他が異常なのかもしれない
だって、俺は目に見える唯一の敵だ
何度も指摘された様に、仕方なくやっていることではある
だからと言って、簡単に割り切れるものなのだろうか
「鴬様にルールのことについてお話ししたいことがございまして。お茶をご用意いたしましたので、ドアを開けていただけませんか?」
思案する様に視線を逸らすとドアを閉める
ガチャリと音がして、ドアが大きく開く
そうじゃないと困るし、そうなると予想してはいた
だが、部屋に入れるという判断をこんな短時間でしても良いのだろうか
鴬はなんだかんだで強く強かだと思う
だから心配はないと思うけど、将来高価な壺でも買わないか、と思ってしまう
「ルールについての話しって、なにかしら」
椅子を軽く引いて、自分はベッドに腰掛ける
どうやら椅子に座っても良いということらしい
「記載漏れがあったことが分かりましたので、お伝えに参りました」
「アタシにだけ?」
「いいえ、他の皆様にもお伝えいたします。ですが、状況から見て、鴬様が最優先だと考えたので鴬様からお伝えさせていただくことにいたしました」
「その状況って言葉も気になるけど、先に記載漏れについて聞くわ」
紅茶と軽いお菓子をベッド脇のテーブルに置き、一応一言断って椅子に座る
「他の参加者から名前を教えてもらうのはルール違反です。しかし、相談は良しとします」
「相談っていうのは足りない情報を補い合うってことかしら」
「はい。それから、誰が誰をどのタイミングで指名するか、ということも相談に含まれます」
「同盟を組めるってわけね」
軽くため息を吐く
「もう5日目よ。大切なことじゃないかしら」
「そうですね。しかし、このルールを予め知っていたとしても、鴬様とホース様の殺し合いは避けられないと思いますよ」
「どうしてかしら」
見て来たからだよ―――とは言えない
「鴬様はホース様の本性にお気付きかと思いましたが、違ったようですね」
「気付いてるわよ。それでもアタシは……」
「そうでしたか、失礼しました」
気付いていたのなら、すぐに殺そうと思ってもおかしくはないはずだ
少し鴬のことが理解出来ない
「それで、どうしてアタシが最優先だと思ったのかしら」
「答えをお教えすることは出来ません。ですが、ヒントを差し上げましょう」
もったいぶる様にゆっくり、大きく息を吸う
「ナンバー様が手を組もうとするのは、どなただと思いますか?」
「アタシだって言いたいのかしら」
微笑んで見せる
「分かったわ。もう出て行ってくれないかしら」
「そう冷たいことを仰らないで、もう少しお話ししませんか?」
鴬が睨むのと同時に、ドアがノックされた
「誰?」
「…………ナンバー」
勢い良く俺を振り返る
そんな顔されても俺だって今来るとは知らなかったから
「少し待っていてくれるかしら。今着替え中なの」
「…………分かった」
俺の腕を引っ張って立たせると、背中を押してクローゼットに押し込まれた
「黙ってそこにいなさいよ」
「はい」
椅子の位置を直し、俺の物がないかチェックし、紅茶を持って来たカートを恐らくドア付近に置く
最後に髪のチェックをし、ドアを開けた
部屋に入れるつもりなのは明白だ
ナンバーと鴬の会話が聞けるとはラッキーだ
今回は少し会話が変わるだろうが、ウサギの名前を教えたときの会話がどんなものだったか想像する材料にはなるだろう
「待たせたわね。どうぞ、入って」
「…………急に来て、ごめん」
「良いわよ。はい、座って」
「………ありがとう」
会話が始まらない
普通訪ねた方が用件を言うだろ
ナンバーはなにをしている
ここからだと身体が半分しか見えない
鴬が気を遣ったのか、俺に対しては背中を向けている
「どうしたのかしら」
「………守るため、殺す。……決意、本当に、した」
「そう」
「………手伝って、ほしい」
視線をほんの一瞬こちらに寄越す
「返事は具体的に聞いてからで良いかしら」
「………もちろん」
俯いて何度か小さく深呼吸すると顔を上げる
「……ウサギ、ブルー、脅威。……同時、好ましい」
あれ?そういえばナンバーはこの時点でウサギの名前を分かっていなかったんじゃなかったのか?
だから苺がウサギを「金井郁」と指名するまで気付か―――いや、違う
ナンバーの守りたい人にはホース以外の全員が含まれている
それはBを最初に選んだときの早い段階で明らかになっている
だから苺がウサギを「金井郁」と指名してからしか動かないだけだ
「……ウサギ、指名、してほしい」
「でもアタシ、ウサギとは本当に関わりがないのよ。分からないわ」
「……教える」
ぐっと拳を握る
「ナンバーはまだ聞いていないでしょうけど、それは禁止行為なのよ」
「………どういう、こと」
「ついさっきルールに記載漏れがあったって言いに来たのよ」
「………教えるの、駄目?」
「そうよ。足りない情報を補い合ったり、誰が誰をどのタイミングで指名するか、なんていう相談は良いらしいわ」
どう出る?
「……ブルー、分かる?」
「ええ、でも、ブルーは分かっても指名しないと思うわ。実際、ブルーはあなたたち2人のこを分かっていると思うのよ」
「……ウサギ、指名成功、どうなるか、分からない」
「それはそうかもしれないわ。でもそれなら、ウサギを指名しなければ良いだけじゃない。ウサギは最初に全員で帰ろうって言ってたわよね」
力なく首を振る
それが本心であることは分かっているだろう
だが、死人が出ている以上、考えが変わっている可能性がある
「というか、アタシがブルーでナンバーがウサギでも良いじゃない」
「……それは、駄目」
「どうしてよ」
「……なんとなく。……嫌われそう、な、そんな、感じ、する」
「殺したら同じよ」
それに、それなら鴬が狙われるだろう
「……分かった。……ブルー、お願い」
「良いのね。後悔しないのね」
大きく頷く
「分かったわ。今晩よね」
「……うん」
このまま帰ってもらうわけにはいかないが、なにか違和感が…
ウサギは自分が危ないと思ったら苺を指名すると分かっていたから、苺を守るためにウサギを指名する
では、どうしてCの次にBを選ぶと苺の指名の前に動くのか
Cの次にAを選んだときは苺の指名の後でしか動かない
―――Cの次にA?
そうだ、そのときは決まって俺がルールを読み返す様アドバイスをしているはずだ
だからCAでは動かない
その理由はルールの穴を確認するためであり、そこに苺やウサギといった他の参加者は関係していない
CBと他の違いはなんだ?
待てよ、そもそもCBでの行動が一致しない
CBは3回目、13回目、そして今回の15回目だ
苺はどうして5日目の夕食会で3回目のとき「金井郁」と指名しなかったのに、13回目では指名した?
3回目と13回目の違いは―――ナンバーが苺を本名で指名したかしていないかだ
つまり、苺はナンバーの些細な違いを見抜き、行動を変えたということか
ナンバーに苺を殺す気がなければ、苺はウサギを「金井郁」と指名する
もちろん、ウサギに殺されるために
駄目だ、考えが上手くまとまらない
兎に角今はナンバーにウサギを指名することを止めてもらわらないと
「押し込んで悪かったわね」
クローゼットが開き、鴬の声が聞こえた
考えに耽っていてナンバーが出て行ったことに気付かなかった
「鴬様、ナンバー様がウサギ様を指名するのを止めて下さい!」
「は?なんでよ」
「説明している時間はありません。苺様の願いを叶えられるのはウサギ様だけなのです!」
鴬の背中を押して部屋から出す
「なんなのよ!」
文句を言いながらも走って行く足音が聞こえる
これで止めてくれるとはとても思えないが、なにもしないよりは良いだろう
部屋のカードキーを封筒に入れ、ドアの隙間に挟む
これで鴬は部屋に入れるし、問題ないだろう
上手くいくと良いのだが…
***
5名が会議室Bの指定された席に座る
鴬がナンバーをじっと見て、その視線に一度だけナンバーが応えた
3回目にはなく、13回目とは少し違う行動だ
良い方向に変わった結果だと思いたい
無言の時間が続く
「今日確認したいこととかがある人はいないってことかなん?」
苺がそう言って見回す
誰も返事をしない
「つまんないの」
少しむくれた表情をして膝にナフキンを置く
4人も倣ってそうしたので、やはり今日の話し合いはないらしい
「今日はウチが掛け声やっても良いかなん?」
「嬉しそうに言うな」
「え?でも鴬がホースの指名に成功したんだから、もう誰も誰のことを成功させようとしなくて良いんでしょ?実はちょっとやってみたかったんだよねん」
「それはそうかもしれないけど、そんな言い方しなくても良いと思う」
「それウサギの台詞じゃないわよ」
若干苦い顔をしながらもきちんとつっこみを入れる
「いくよん?せーのっ!」
鴬はブルーを指している
そして、ナンバーが指しているのは…ウサギだ
駄目だった
「綾辻信元」
「金井郁」
ブルーが苦しみだす
「どう…して…」
鴬はなにをしたんだ
なにをすれば、あんな曖昧な言葉で説得が出来た
兎に角、狙った通りになってくれた
「ごめんなさい。さようなら」
静かにそう言うと、情報が映し出される壁を見た
ナンバー 実家:政治家一家
苺 好きな数字:素数
ウサギ 好きな動物:猫
鴬がちらりとナンバーを見てから黙って部屋を出て行く
ウサギはその様子に小首を傾げるが、なにも言わずに後に続いた
「なにがしたいの」
「…一緒に帰ろう」
ぐっと拳を握った
「ウチはここで願いを叶える。邪魔しないで」
強く言うとナンバーの言葉を聞かずに部屋を出る
ナンバーはというと、伸ばしかけた手をどこにもやれず、茫然としていた
しばらくそうしていたが、やがて小さくため息を吐いて部屋を出て行った
画面が暗くなる
ナンバーはこの苺の言葉を、どう捉えるだろうか
6日目昼誰に会いに行くか
ナンバー




