ルート⑭3日目
1日目夜の指名失敗ペナルティとして開示する情報をどれにするか
A B C → B
3日目昼誰に会いに行くか
ブルー ナンバー → ブルー
2日目は10回目と同じ様に進めた
トラブルはない
今日はブルーとウサギが話しをする
6回目のとき同様、先回りして近くの部屋から2人の会話を聞こう
そのときは聞いただけだったが、今回はその後ブルーと話す
ナンバーのエンディングは確実ではないが、回収出来るかもしれないルートが2つある
どちらかと言えば、こっちの方が成功率が高そうだと思って先にこっちをすることにしたが、間違いだったかもしれない
成功率が高い、というのはあくまで変えたいところの成功率であって、ナンバーのエンディングのことではない
だが、どちらも確証があるわけではない
今回はヒントを得るという目的のままやった方が良いだろう
前回が偶然過ぎたんだ
「ブルー、ウサギ。話しがあるんだけど、良いかな」
「なんだ」
「ドア越しだと大きな声で話さなくちゃいけないから、ドアチェーンかけてでも良いから開けてほしい」
「分かった」
すぐにドアが開くが、音をたてて止まる
「内緒話か?」
「うん、苺とナンバーのことで」
「出る。少し待ってろ」
ここで部屋を出るという選択を取るということは、ブルーも2人のこと気になっているという証拠でもある
そして、恐らくこのときには薄々勘づいていたはずだ
最後にウサギがなんと言うのか、分かっていたはすだ
それでもドアを開けたのは、ナンバーと苺が―――南京太郎と安藤希和が互いを思い合っていた様に、綾辻信元が金井茉莉を思っているからだろう
「ありがとう」
「いや、俺も気になっていた。端に寄って出来るだけ小さい声で話すぞ」
「そうだね」
今思えば、部屋に入れれば良い
それをしないのは、エレベーターの表示を見て対処出来る様にするためだろうか
「えっと、まず、私が苺のことが気になるって思った理由なんだけど、「負けたくない人」ってひとりとは限らないし、過去に関わりがあった人だとも限らないよね。でもわざわざ「自分には人を殺す気があります」って宣言した」
「前半は思っていたが、言われてみれば後半部分もあるな」
「うん」
「で、来たってことは具体的になにかあるんだろ」
背伸びをして小さく手招きをする
流石に不思議そうな顔をしたが、素直にかがむ
耳元でウサギがなにか言うと、ブルーは驚いた顔をした
「分かっているのか。それを知っているということはお前も店に頻繁に出入りしていたと教えるようなものだ」
「分かっている。でも、思い出して。女の子は破天荒、男の子は女の子のためならなんでもするような子だった」
「つまり、自分が殺されないために俺たちを殺すかもしれないってことか」
随分前ホースが「最終日にひとりだけ自分の方針に従って指名し、それ以外は指名に成功してはいけない」という提案をしたことがあった
それに対してナンバーは「最適解」だと言ったときと「最適解に近い」と言ったときがある
その違いは恐らくこうした微妙な違いからなのだろう
この会話だって細かいところは違えど、要約してしまえば同じ会話になる
「それに、私たちが気付いているってことは向こうも気付いている可能性が高い」
「だが名前どころか、顔もぼんやりとしか思い出せない」
「だから知っていることを共有しよう」
共有したあとのことを言わないのは、ブルーが承知していると思っているからだろう
若しくは、断るはずがないと思っている
「だが、今事を荒立てるのは…」
「多分ブルーと同じ考えなのがホースと鴬で、先にやった者勝ちだと思っているのが私とナンバーと苺だと思う」
ブルーはほぼ無条件で苺に従うナンバーとは違う
こうして説得が必要なのは面倒だが、そのおかげで今回の計画は実行出来る
「分かった。一先ず分かっている情報を整理するぞ」
「苺の好きな食べ物がホットケーキで好きな数字が素数、ナンバーの将来の夢がニートで実家が政治家一家。これで間違いないよね」
大きく頷き壁を背もたれにして座る
「まずは2人について覚えていることを挙げていくしかないな」
「そうだね。えっと…2人とも政治家一家だった」
「あ、それなのに女の子の夢はキャリアウーマンだった」
「それは知らなかった」
腕を組んで考える様な仕草をする
「そういえば、男の子の誕生月は7月だよ」
「2人は同じ誕生月だ」
「誕生月と言えば誕生石。確か7月はガーネットだったはず…」
「そうだ、女の子は誕生石の色、赤を沢山持たされていたが、実際好きな色は随分違ったはずだ」
「青とか緑?」
「緑だ。男の子の瞳が緑なんだ。どうして今まで忘れていたんだ…」
ブルーは何故だか悔やんでいる様子だが、忘れていた方が幸せかもしれない
そういう場合もある
「女の子だが、苗字で呼ばれるのを嫌っていたからなのか、苗字が思い出せない」
「私はフルネーム思い出した。逆に男の子が少し曖昧」
「それで、どうするんだ」
このどうする、とは「名前が分かったがどうする」という意味だろう
知っているぞ、と牽制しに行ってもミスれば逆に指名されるだけだ
「お互いに答えを知らないんだから答え合わせのしようがないし、お互いを信じて今夜指名しよう」
「待て、もう少し様子を見ても良いんじゃないか」
「そんな悠長なことを言っていたら殺されるよ。ブルーの実家がケーキ屋だってことは全員が知っている。もしかしたらそこから私に辿り着くかもしれない」
「それは…そうかもしれないが…」
顔を逸らして俯いたブルーの前に立ってかがむ
「私のこと、守って」
耳元で囁く様に言われた言葉に、強く拳を握る
「分かった…。約束する」
「ありがとう」
正直に言って、吐き気がする
ウサギは多分、裏切る素振りを見せて、ブルーに指名させるつもりなのだろう
そのためにナンバーと苺を殺そうとしている
「鴬とホースはどうするんだ」
「私は2人とも全然知らない。相手もそうだと思う。ブルーは?」
「俺は鴬を知っているかもしれない」
「でも相手はブルーの重要な情報を知っている」
力なく頷く
「鴬が分かってからにする?」
「いいや、多分俺たちと同じようにホースと鴬は互いにすぐに分かるはずだ」
ウサギの意外な提案をブルーはすぐに棄却する
既にウサギを守らなくてはいけないという思いが働いているのだろう
「鴬は俺たちが2人を指名したことに怒るだろう。そのとき仲間にならなければ次はお前だ、と言えば仲間になるだろう」
「すぐに分かりそうなの」
「今知れる可能性のある情報は好きな数字、実家、好きな食べ物…」
「好きな動物」
「その4つで、日数分しか情報がないと仮定すればあと2つなにか分からない情報がある。なんとなくの予想はついているから、よほど変な情報でなければ分かる」
「それなら鴬のことは任せるね」
だからあんなミスが起こったのか
「ああ。じゃあ夕食会で」
「うん、またね」
ウサギがエレベーターに乗り込むのを見送って部屋に入る直前、入っていた部屋のドアを開けた
当然持ち出すのが面倒だと思っていた掃除道具を持っている
流石に手ぶらでは不自然過ぎる
「聞いていたのか」
「申し訳ありません。話しが話しだけに出て行けず…」
「誰にも言わなければ、それで良い。もちろんウサギにもだ」
ドアノブに手をかけたその手の上から自分の手を被せる
「離せ」
「本当に今日の夕食会でナンバー様を指名なさるのですか」
「ああ、約束したからな。それに俺だって死にたくない」
「ウサギ様はブルー様に守ってほしいと仰いましたが、ウサギ様はブルー様になにをしてくれるのでしょうか。そもそも本当に苺様を指名出来るのでしょうか」
ギロリと睨まれる
「嘘を吐くメリットがない。それにウサギの情報がなければナンバーの特定も出来なかった」
「ブルー様にナンバー様を指名させ、翌日苺様にブルー様を指名させるおつもりでは?」
「確かに一度なら間違えたと言えるだろう。だが、俺に自分を知らせるという行為はどう説明する」
そんなの、ブルーなら絶対に守ってくれるからに決まっているだろ
「それなら単純に2人を同時に指名しないデメリットを考えた、と考えるのが普通だ」
「では、どうしてわたくしはブルー様にわざわざ警告をしているのでしょう」
「は?」
「お客様には常に平等に接するべきですので、本来ならこの様な助言はしないのですが…」
「なにか知っているのか」
「そうですね。ですが、これ以上のヒントは出しかねます。お客様には常に平等であるべきなので」
視線が泳ぐ
「十分にお考え下さい」
そう言い残してエレベーターへ向かった
***
6名が会議室Bの指定された席に座る
「今日なにかある人はいるかな」
ホースの問いに全員が沈黙で答える
「そうだね。最終日までは純粋に夕食会を楽しもう。とっても美味しいしね」
全員なにも言わず皿に乗せてあるナフキンを膝の上に置く
今日そうなることは分かっていたので、すぐに行ける様に準備はしてある
夕食を配り終えて管理人室に戻る
「せーの」
視線で押し付け合った結果、今回の掛け声もホースだ
「安藤希和」
苺が苦しみだすが、その口元は笑っている
望みが叶えられたのだから、当然だ
「悪い…」
「どういうこと」
指した相手はナンバーだったが、言った名前は出鱈目なものだった
「あれから考えた。どうしてお前が俺にあんなことを言ったのか」
「死にたくないから。あなたと一緒に帰りたいから」
「違う。お前は……ひとりで勝とうとしている」
ウサギを含め4人が驚きの表情を見せる
「違う!どうして信じてくれないの」
「…………ウサギ、もう無駄。……信頼、失う、回復、無理」
ナンバーの守りたい人の中にウサギが入っているのは、苺を殺されていないという前提条件があるはずだ
「困ったなぁ」
「そういう風には聞こえないわね」
「でも実際、相当困る状況だね」
「想定外なんだよ、ブルーが私を裏切るなんて」
「そうか、信頼してくれてありがとう」
皮肉たっぷりに言われた言葉に苦笑する
「ホース、私と手を組まない?」
「無理だね」
「実際に裏切られたのは私なのに?」
「俺は鴬を殺さない」
「じゃあいらない」
情報の映し出された壁を見るとさっさと部屋を出て行く
ホース 将来の夢:ジョッキー
ブルー 好きな色:赤褐色
ナンバー 好きな食べ物:ホットケーキ
鴬 好きな食べ物:抹茶
「ブルーは良かったのかな。昔仲が良かったんじゃない?」
「昔の話しだ。俺はあいつを裏切った」
ため息を吐いてホースの肩を軽く叩く
「もう結末は見えたな。お前等は仲良くやれよ」
部屋を出て行くブルーの背中を見届けてから鴬が不思議そうに首を傾げた
「どういう意味かしら」
「どうだろう」
ナンバーをちらりと見て言葉を続ける
「明日にでもゆっくり考えることにして、今日はゆっくり休もう」
「そうね」
2人が部屋から出て行くとやっとナンバーが動き出す
椅子から転げ落ちた苺を優しく抱き起す
「…ごめん、―――希和。でも、もう手に入らないもののために足掻く必要はないんだ」
そういえば「願いが絶対に手に入らない、彼女の世界に早く終わりを」と言っていたことがあったな
いつのことだったかとか、記憶が混同して分からない
今の様に忘れていることも多いだろう
「僕もすぐに行くから。行き着く先がどこだろうと、僕は必ず希和の傍にいる」
床に寝かせると静かに部屋を出て行った
監視カメラの映像が暗くなり、音声がなくなる
これが狙ったことではある
だが、心を痛めるなというのは、無理がある
4日目昼誰に会いに行くか
ナンバー
*ナンバーがホースの提案を「最適解」と言ったときのことは「ナスタチウムの決意」の「ルート②4日目夜」参照、「最適解に近い」と言ったときのことは「ナスタチウムの決意」の「ルート⑥2日目」参照
*ナンバーの「願いが絶対に手に入らない~」という発言は「ナスタチウムの決意」の「ルート⑦4日目」参照




