ルート⑨2日目昼
2日目昼会いに行く人物:ホース
このゲームに俺が勝つ条件は分かった
ずっとこの「名前当てゲーム」での勝利条件を探していて、見つけることが出来ずにいたが、それも当然だ
なんせ「あいつら」お得意の後出しじゃんけんで別のゲームに参加していた、なんて結果なんだからな
俺自身が参加しているゲームに勝利する為にしなくてはいけないことは、沢山ある様に思える
だが、実際のところはたったひとつだ
他の4会場にて同じルールで行われているゲームの管理人よりも早く「正しい終焉」を選ぶこと
ひとりで生き残るエンディングを迎えると「最後の部屋」へ行ける
そのとき6人の参加者のエンディングの中から「正しい終焉」を選ぶ
つまり6人の参加者全員が各々ひとりで生き残るエンディングを迎え、「最後の部屋」に行かなくてはいけない
そのルールを聞くのは「最後の部屋」に行ったときだ
つまり、ひとりで生き残るエンディングを迎えることが出来なければ、いつまでも自分が参加しているゲームに本当の意味で参加出来ない
俺はそのルールを聞くのが一番遅かった
最初にそのルールを聞いたとき「早い者は5人目、遅い者は3人目」だと言われた
完全に出遅れている
だが、ひとり目に時間をかけたことで3人のひとりで生き残るエンディングに見当は付いている
不幸中の幸いというやつだ
「こんにちは」
「こんにちは。こんなところに、どうしたんですか?」
「ただの見回りございます。ホース様こそここでなにをなさっているのですか」
展望ラウンジから外を見ている理由は当然ながら知っている
だが、なにかを言わなかったり、余分に言ったりすることで、流れが変わるかもしれない
初っ端からそれは避けたい
「歩いて降りることが本当に無理なのか、確認したかったんです。車で来たとき目隠しをされていたわけではないので景色や道は見ていました。だから無理だと分かってはいるのですが…」
「諦めるのは早計だと考えられていらっしゃるのですね」
「いえ…、正確には「考えていた」です。途中で道が見えなくなっています。それでは脱出の提案をすることなんて出来ません」
小さく首を振って俯く
「仮に脱出しようとしたとします。この山道を1日で降りるのは不可能ですから野宿しなくてはいけません。野生の動物は必ずいるでしょう。自分の命をかけても守れない可能性の方が高いです」
「ご自分の命をかけて守るつもりが、おありなのですか」
「はい。恥の多い、とまではいきませんが恥ずべき人生でした。人を救えるのなら、それも良いかと思っているんです」
この心意気は常に持っているはずなのだが、Aを最初に選んだときだけは違ったな
原因は分かっていない
「ご自分を殺そうと考えている方がいても、ですか」
「はい」
「もし誰かの名前が分かったとしても、ですか」
「はい」
ゆっくりと穏やかに微笑む
「恥の多い、とまではいきませんが恥ずべき人生でした。とさっき言いましたよね。指名されるのなら、そういう運命だったんですよ」
「恥ずべき点がない人なんていませんよ。むしろそう自覚していないことが恥ずべきことです」
「そうかもしれません」
だが世の中そんなヤツばかりだ
そして、高校生がそういう考えを持たなくてはいけないこの世界は、汚れ切っている
「気付いていますよ」
「なにをでしょうか」
「あんな雑多な情報で人を特定出来るはずがありません。少なくともひとりは「ある程度深い関係」なんですよね。どうして俺に会いに来たんですか」
「偶然ですよ。招待者の基準についてお答えすることは出来ません」
「そうですか」
この時点でホースが気付いているということは鴬も気付いている可能性がある
一度この流れをやったときそう思った
だが、良く考えれば2日目に会ったとき、鴬ははっきりと個人を特定出来ている様子ではなかった気がする
だとすれば鴬を本名で指名しない理由はやはり彼女のことだけなのか
不思議な関係だ
「そう思われたということはどなかた見当が付いている方がいらっしゃるのですね」
「そう考えられても仕方ない質問でしたね」
小さく微笑んで俺を見るがすぐに俯いてしまう
「もし「あの子」がここにいるのなら、それは俺のせいです。俺が巻き込んでしまったんです。本来こんなゲームに巻き込まれる立場の子じゃない」
ゲームに巻き込まれる「立場」の子…か
いつだったかウサギに「こういったものに巻き込まれる原因には、環境があります。それと、運でしょうか」と言ったことがある
俺の印象とホースの言ったことを合わせるなら、鴬はただ運がなかっただけだ
「お願いがあるんです」
「一先ずお聞きいたしましょう。わたくしに可能でしたら考えさせていただきます」
「ありがとうございます」
このときこんなに真剣な顔をしていたのか
自分のことで精一杯で気付かなかった
「もし俺が指名されてそれが成功したら、その人を守って下さい」
「それは…」
「言い方を間違えました。守る努力をすると、嘘でも良いので言って下さい」
この「自分が死んだあとの約束を聞く」という行為がどれほどの意味があることなのか、俺にはまだ分からない
「ホース様を指名出来るのは先ほど巻き込んでしまったと仰られた「あの子」だけだとお考えなのでしょうか」
「違うかもしれません。でも良いんです。この約束は嘘なんですから」
ただ、こんなことになっても誰かを守ろうとするナンバーやブルーと同様に、眩しい
俺が参加したゲームの他の参加者や管理人を思い出す
「―――俺には全員を守ってみせるなんて言える技量も頭脳も知識も運動能力も正義感も自信もない。だけど、出来れば全員を守りたい。その気持ちだけは、絶対に嘘じゃない」
「信じます。だから泣かないで下さい」
困り顔に優しい笑顔を浮かべて俺の頬に触れると親指を動かす
それで初めて自分が泣いているのだと気付いた
前のとき泣いたのはどうしてだったか、もう忘れてしまった
「あなたにはあなたの事情があって、どうしても今の役目をやらなくてはいけない。それが分かって、だから今の言葉で十分です」
どこからどう見て、どう考えても、俺は自分たちを殺そうとしているヤツの仲間だ
それは変わらないはずなのに、自分も理不尽なゲームに参加しているのだと知って、まだ終わらないのだと知って、この言葉が胸に沁みた
「俺は部屋に戻りますね」
「ありがとう。…ごめんね」
「いいえ、俺はなにも。それに、約束してくれたじゃないですか」
にっこりと笑うとエレベーターに乗り込んだ
「でも、俺はきみを殺すよ」
もう誰もいないエレベーターホールに向かって、小さく決意を口にした
保障はどこにもないし、そんなに甘いヤツらじゃない
でも「正しい終焉」を俺が導くことが出来れば、もしかしたら、全員で帰れるかもしれない
だから今回、きみには死んでもらう