ルート⑫7日目
7日目昼会いに行く人物:鴬
今日やらなくてはならないことは大きくふたつ
4回目のときはブルーに会って話す内に、ブルーが自ら鴬に情報を与えてしまっていたことに気付いた
それで言い逃れる物語を作るが鴬に信じてもらえず本名で指名される
当然ブルーも鴬を指名するから参加者全員死亡でやり直し
今回は鴬に会いに行き、言い逃れの物語に真実味を持たせることを言う
ブルーと話さなければブルーはその作り話をしないだろう
だからブルーには手紙を書く
これを接触とするかしないかは「あいつら」の判断によるが、一度は許される
つまり、チャンスは一度しかないかもしれない
だが、ブルーをひとりで勝たせるにはウサギと2人で残すわけにはいかない
1日目に開示される情報をBにしたとしても、ホースが加わるだけで状況は変わらない
ここで仕掛けるしかない
「おはようございます」
「おはようございます。そのパンは…焼きたてですか?」
「いいえ、トーストで少し温めただけです」
申し訳なさそうな顔を作って首を振る
「レストランに行かれるところを見かけたので、せめて温かいものをと思ってお持ちしました」
「アタシがレストランに向かったからってどうして」
「鴬様がいつもパンをお召し上がりになっていることは残りを見れば分かります。ご迷惑でしたでしょうか」
「貰うわ。ありがとう」
「喜んでいただけで嬉しいです」
にへら、と笑ってみせるとむくれた様な顔をして逸らされる
「別に喜んでないわよ」
こういうところは可愛いんだけどな
「そういえばナンバー様もパンがお好きだったのでしょうか。お世話になった、という様なことを仰ってみえましたが…」
「好きな食べ物なら情報にあるはずよ」
「それ以外にも好きな食べ物はあるはずです。それに、あまり表情の変わらないナンバー様がなにかを懐かしむ様な表情をされたことが気になりまして」
並べられた料理に向けていた視線を少しだけこちらへ向けて、料理に向け直す
なにが気になったのだろう
死んだ人間のことを考えていることだろうか
それとも、ただ単にナンバーの表情が変わったということに少し思うところがあったのだろうか
今はそれを考えている余裕はない
話しを進めよう
「お母様が再婚されたことが関係しているのかもしれませんね」
「誰の?」
「ブ…あっ、今のは忘れて下さい」
慌てた様子で口を押えてみせる
振り向いていた鴬が小さく口を歪ませて笑う
「無理な相談ね」
好戦的な部分を持っているとは思っていたが、これは違う気がする
俺と同じ様に、本当にゲームをしている感覚でいる
新たに有益な情報を得たときの笑顔
いつから鴬にとってこれはゲームだったのだろう
少なくともホースを殺すまではそう思ってはいなかったはずだ
そして、苺を殺した昨日の夕食会前までにはそう考えていただろう
だから簡単に殺せた
4回目のときにこれを当てはめれば鴬の言動も分かる
ブルーの話しを信じなかったのは、ゲームで言えば相手が自らのピンチの際に言うことは十中八九嘘だ
他に生き残っているキャラが存在すればいずれかのキャラの情報に繋がる場合もあるが、生き残っているのは自分と相手だけ
そんな状況で相手が言ったことを信じるのはゲームなら有り得ない
「ですね…。これ以上話してしまう前に退散します」
「もっと話してくれても良いのよ」
「いいえ。失礼します」
「そう。残念だわ」
そう言いつつも口元には笑みが浮かんでいた
その笑顔はある実験を思い起こさせた
囚人と看守に役割を分けて生活させるという有名な実験
鴬はいつからか本当にゲームのキャラクターになってしまったのだろう
待てよ
だとすれば俺が有益な情報を漏らしてしまうという展開は鴬が主人公のゲームなら都合が良いが、ブルーが主人公のゲームなら、鴬には都合が悪い
鴬はどっちを主人公として考えている?
ゲームをプレイしているのなら主人公だろうが、そう簡単なものだろうか
主人公という言葉を使えば、俺の考えが違った場合鴬がその考えに至り計画が崩壊する恐れがある
ゲームや創作物を連想させる言葉を使わず、どちらかを確認する方法はあるだろうか
「行かないんですか?」
「最後にひとつだけ―――」
これは賭けだ
「スタンフォード大学のあの有名な実験に参加するなら、どちらが良いですか?」
藪蛇な質問に首を傾げる
だが、ゲームならこの問いに意味がなはずがない
ゲームとして考えているという俺の考えが違っていても、この問いの意味を考えてくれれば良い
考えて、混乱して、ブルーの作り話に惑わされろ
「看守…ですかね」
「どうしてですか」
「囚人は看守の意地悪に耐えるだけです。でも看守は役割になり切って気付かない間に心境が変化していきます。それを体験してみたいです」
残念ながら、もう体験しているよ
「鴬様は――人からヒントをもらうことは出来ても、答えをもらうことは出来ないのですね」
「どういう意味かしら」
「実験の模様が映画化されています」
「見たわよ」
「どちらであろうと、体験すること自体が辛いことだと思いませんか。わたくしはその様に思いました。ですが、映画は誰かが出した答えでしかありません。鴬様はそれでは満足出来なかったのですね」
ゆっくりと瞬きをして開けた目は、冷めた色をしていた
「結局なにが言いたいのかしら」
「今言った通りです。それでは失礼します」
ヒントは与えた
そして、これがヒントだとも示した
あとはブルーに手紙を書いてドアに挟めば良い
『問い、昨日の夕食会で最初に夏休みと言ったのは誰?』
4回目のときはこれを自分で気付いて対策を立てていた
これくらいが丁度良いだろう
***
鴬とブルーが会議室Bの指定された席に座る
互いに殺されると分かっていて落ち着いていた4回目と違い、鴬が少しそわそわしている
考えがまとまらなかったのだろう
それで良い
そして、ブルーが自分の犯したミスに気付いたのなら、ブルーが言おうとしていることは変わらない
そして鴬は動揺を悟られない様いつもの態度で接しようとするだろう
最初の会話の流れは恐らく変わらない
「鴬」
「なによ。今更命乞いなんてしても無駄だから」
「違う。謝っておきたいことがある」
「許すかどうかは別にして、聞いてあげても良いわ」
小さく微笑んで微かにため息を吐くと、鴬をじっと見つめる
「苺のことで嘘を吐いた」
「死んだ人間のことなんてどうでも良いわ」
「良くない。これは俺が考える、お前のための話しだ」
「自己満足かもしれないって最初に言うのね」
棘のある言い方にぐっと拳を握るが、あくまでも表情は変わらない
「苺はお前と会った翌日、店に来ていない」
「どういうこと?」
「照れ隠しの煽りは嘘だったってことだ」
小さく首を振る
「いいや、特定の時期を出せばボロを出すかもしれないと思ってありがちな夏休みと言った。だからあの辺りのことは全部嘘だ」
本名で指名出来ると思っているかもしれないが、嘘だからそれは間違いだと
本当のことを嘘だと言うことで鴬を混乱させる作戦
だが、鴬は既にブルーの実家がパン屋かもしれないと思っている
ここから会話の流れが変わる
「ゲームに勝つために思い出を嘘だと言ってしまうのね」
「俺が本当のことを言っているのは今だ」
「じゃあなんでナンバーの本名を知ってたのよ」
「店の常連だったからだ。母親が家の方にまで上げて可愛がっていた」
「ほら、あのケーキ屋さんじゃない!」
「ケーキ屋?俺の実家はパン屋だが?」
さらっと嘘を吐いたうえに「しまった」とでも言いたげに自分の口を塞ぐ
「嘘だわ。確かに近くにパン屋もあったけど、そこの息子さんとはあまり話しをしたことがないもの」
「俺だって同い年くらいの女の子と仲良くした覚えはない」
「じゃあ苺はなんなのよ」
「白髪の男の子はいつもひとりだった。髪のせいで学校でいじめられているが家にも居場所がないと言ったその子を不憫に思って家の方に上げて時間を潰させていた」
どうしてだ
どうして会話の内容が同じなんだ
このままでは互いに本名で指名して全員死亡でやり直しになってしまう
ブルーの攻略ルートが本格的に見えなくなる
「俺はいつも練習から帰ったあと話しながらおやつを食べてそこで宿題をする。終わる頃にあいつが帰る。それがいつもの流れだった。それが変わったことは記憶の中では一度もない」
「嘘よ」
「本当だ。だからすまない」
座ったまま頭を深めに下げる
「嘘よ!苺と3人で犬猫論争したじゃない!そのときアタシが鳥派だって言ったの覚えてたんでしょ!」
「知らないって言ってんだろ!」
「じゃあ――ひとつだけ正直に答えて」
ここで変わるのか!
「今の父親と血は繋がってる?」
「は?」
その反応は当然だろう
俺が言えたことではないが、藪蛇も良いところだ
「お願い」
「――いいや、血は繋がっていない」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
ブルーがここで嘘を吐ける理由がない
本当に父親と血が繋がっていないのか
だが、これで鴬の中では確定したはずだ
ブルーはケーキ屋の息子ではなく、パン屋の息子だと
そして、鴬はどちらの名前も覚えている
今夜鴬がブルーを指名する名前はパン屋の息子だ
鴬が静かにブルーを指す
それに倣ってブルーも鴬を指す
「福島基」
「厚地加奈」
鴬が苦しみだす
「やっぱり…嘘、だったのね…」
「ああ。だが、最後の質問の答えは本当だ。ただ、母親とも血縁関係はない」
「そう…。それでも…アタシが、知ってる…母子の中で、一番、素敵よ…」
「ありがとう」
小さく微笑むと身体の力がなくなり、椅子から転げ落ちる
ブルーはゆっくりと椅子から立ち上がると、鴬を床に寝かせる
「ごめん…」
手を握るとそう呟き、大粒の涙が零れ落ちる
「これで…、これで満足か?俺が勝った。早くこんなゲームを終わらせてくれ」
これで終わらないのがこのゲームの嫌らしいところだ
自分を指名出来る以上、自分で自分を指名しないということを続けなければゲームは終わらない
この状態のブルーにそれが出来るか…
「そうか。そうなんだな。分かった」
小さく呟くとふらふらと部屋から出て行った
花瓶の花をどうするか
・そのままにする
・生き残った参加者に話す




