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それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
ルート⑫
26/43

ルート⑫6日目

6日目昼会いに行く人物:苺

さて、現状を整理しよう

4回目、9回目と同じ様に進み、変わったことはない

生き残りはブルー、ナンバー、鴬、苺の4人

ルートが見えていると思われていたブルーで6日間のロスをしたことは悔やまれる

だが、忘れてはいけないことを思い出させてくれた


これはゲームではない


ゲームの参加者は俺と同じく、それまで人として普通に生きていた

その人物の言動や思考にはそれに至る背景がある

自分がゲームに勝つことばかり考えて忘れていた

忘れていなければ、あんなことを言えばブルーが自分を指名することは簡単に分かったはずだ


そういえば、いつだったか言われたな

誰にだっただろうか…


雨に打たれていても傘を差し出してはくれないのに、日差しに焼かれていると日傘を差し出してくれる

その日は海に来ているのに

あなたはそういう人

変わってほしいとか、そういうことじゃない

ただ、そういう自覚を持って、行動する前に一度考えて


分かりにくい例えだと思った

でも、今ならなんとなく分かる

俺はいつも相手がどう考えるか、という考えが足りない

そういう自覚はある


だから今回は間違わない

勝って、家に帰って、みんなを殺した罪を償うために、幸せになる方法を探す

そうだ、まずはあの子に会いに行こう

きっと良いアドバイスをくれる


いや、今は勝ったあとのことより勝つためにすることの方が重要だ

ナンバーに行っていて、ウサギが死亡なので、苺にしか行けないことは変わらない

以前と同じく俺が会いに行きたいのは苺だから問題がない


苺が今いるのは簡易キッチンだ

以前と同じくキッチンの掃除をするフリをして行く


「こんにちは」

「こんにちは。紅茶ですか。レストランのものでは不十分でしたでしょうか」


パックの紅茶を妙に丁寧に淹れている


「前に教えてもらったことがあるんです。パックの紅茶でもとっても美味しく淹れられる、簡単な方法。それを試してるんです」

「それをどうなさるんですか」

「もちろん自分で飲みますよ。冷めないうちに」

「ウサギ様のことが関係しているのですか」


探る様な視線をこちらに向ける


「はい。金井さんに教えてもらったことなので」

「本名で指名する必要はあったのでしょうか」

「もちろんです」

「どうしてですか」

「「あの子」がウチを守ってくれるって、証明するためですよ」


そう、これが嘘なんだ

だが、こう言うしかない

それしか自分の作ったキャラに合う説明がない

そして、ナンバーですらこの言葉を信じるだろう

安藤希和はそうして、なにかから自分を守っていた


「本当にウサギ様のことがお嫌いだったのですか」

「どうしてですか?」

「嫌いな人物の覚えているエピソードは大体嫌なことです。ですが、苺様は今でもパックの紅茶を美味しく淹れられる方法を覚えていて、試しています」

「そこに嫌なエピソードがあったかもしれないですよね」

「それなら淹れようと思わないはずです」

「殺したこと自体は悪いと思ってるの。それだけ。だからウチはもう、本当に危ないと思ったとき以外は本名で指名しない」


9回目のときは危ないことを指摘したが、今回は4回目と同じく指摘しない


「そうですか」

「はい。あ、そうだ。もうすぐ淹れ終わるんです。飲んでみてもらえませんか?」


これになんの意味があったのか、考えた

単に片付けが面倒だったのかもしれない

本当は飲むつもりがなかったのかもしれない


もしかしたら、俺が言うことを分かってそうしたのかもしれない

それなら苺がウサギに抱えている劣等感は本物だ

だったら尚更どうしてウサギに殺されたいなんて思うのだろうか


「ではいただきます」

「砂糖とミルクはどうしますか?」

「ストレートでいただきます」

「はい、どうぞ」

「いただきます」


4回目のときは気付かなかったが、覗き込む様に見るその瞳は不安気だ


「どうですか?」

「とても美味しいです」

「良かったです」


この微笑みもなにかから身を守るための嘘によって身に着けたのだろうか

そう思うと悲しい


「思えばウサギっていつも話しを振られたら話す、とか問題提起をする、とか真っ向から反対されたときに反論するとか、そんな感じでした。最初からウチらに気付いてたんでしょうか」

「わたくしには分かりかねます。ウサギ様とはこの様にお話しさせていただく機会もございませんでしたので」

「そうですか」


そう、Cを最初に公開される情報に選ぶと3日後にAを選んで最初に会いに行くしかない

だが、このときウサギに会うことに意味を感じない


「うん…、信じても良いかもねん」

「なにをですか?」

「秘密だよん」


この少女らしい笑顔を見て俺は最初、風に笑えたんだ、と思った

だがきっと、この笑顔が本当の笑顔なんだ

安藤希和はいつだって思わせぶりなだけで、場を回したり的確な質問をしたりしていた

この理不尽に真っ向から立ち向かおうとしていたのは、安藤希和だけかもしれない


「じゃあ片付けはよろしくねん」

「はい。ありがとうございました」

「金井さんには敵わないから」

「飲んだことがないものを評価することは出来ません。なので、わたくしにはこの紅茶の方が美味しいです」

「優しいんですね」


確かにウサギの淹れた紅茶は美味しかった

だが、味が美味しいだけで、なんとも思わなかった

だからこの紅茶の方が美味しいというのは本心だったが、憂いのあるその表情になんと言って良いのか分からなくなる


「でも、なにもかも…敵わない」


呟く様に言って声をかける間もなく簡易キッチンを後にした

呼び留めようとしたときに出た手はなにも掴めず、カップを両手で包む様に持った

なにもかもなんて、そんなことはない

それを俺は知っている

でも俺がなにを言ったところで優しいと笑うだけなんだろう




                    ***




4名が会議室Bの指定された席に座る

今日は全員が落ち着いている


今夜起こる事柄は4回目のときと変わらないはずだ


「昨日の話しの続きになるが、今日スタッフに会ったのは誰だ」

「ウチは会ったよん。他はいないのかなん?」

「会ってないわ」

「…………会ってない」

「うーん…。仮に1日に1人しか会えないとして、だからどうしたのかなってウチは思うんだけどねん」

「勝ち筋が見ているかどうか、見極められるかもしれないだろ」


言わんとしていることは分かる

だが、苺はその話しに乗らない

今日会ったときなにを「信じても良い」と言ったのかは分からない

だが、俺が「このゲームの中で」ただ勝とうとしているわけではないと、気付いたのだろう


「そうは思わないけどねん」

「どうしてだ」

「それなら今日はブルーに会いに行った方が良いと思うんだよねん。だからルーレットで決める、とかそういうルールがあるんじゃないかなって考えたんだけど、どう思うかなん」

「そうか?もし俺は会ったらここでの会話を聞いていたと確定して、狙いがあるんじゃないかと警戒する。それでまともに話しが出来るか?」

「そう言われると否定は出来ないねん」

「それなら肯定的な意見を言っていた鴬かナンバーに会いに行く。だがそれもここで確認されれば不信感につながる。だから無難に苺、という可能性もある」

「…………昨日、苺、言った。……可能性、無限、無意味」


このときナンバーが止めた理由は恐らくこの話しを続けると苺が不利になるからだろう

運営側である俺の味方をすることは、スパイである可能性を疑われる


「ナンバーの意見を無視するようで悪いんだけど、ふたつ考えたい可能性があるのよ。良いかしら」

「…………どうぞ」

「残ってる全員に敵意を向けられないって、話し合いが機能しなくなってゲームが滞る可能性があるんじゃないかしら」

「もう誰も本名で指名することなんてないと思うけどなん」

「そうね。どっちにしても今の状況なら滞るでしょうけど、一番可能性が高いのは全員がスタッフをある程度信頼したときだと思うのよ。だからブルーには会えなかった。そう仮定するわ」


苺は不服そうだ

4回目のときは理由が分からなかったが、今は違う

ナンバーの発言の意図を理解していたからだ

自分でも話しの流れとして危ないと思っていたのもあるだろう


「アタシとナンバーはスタッフに対して肯定的な発言をしてるのよ。苺も会ったときのことを普通に話してるってことはなんとも思ってないって可能性が高い。そうしたら会いたいのは苺じゃないかしら」

「俺がさっき言ったことと同じだな。一理ある、としか言えない」

「そうね。もうひとつが誰かに意図的に操作されてる可能性よ」

「誰かに会う人が決められてるってことかなん」


苺としては流れ的に話し合いに参加しないわけにはいかない

だからブルーが先に発言してくれたこと、無難な発言が出来たことを内心喜んでいるだろう


「自分で決めた気になって選ばされてる。選んだ相手にしか会えないように誘導されてる。そういう可能性もあるってことよ」

「鴬の言ってることは理解したよん。でもそれを話し合ってどうするって言うのかなん?」

「スタッフがこのゲームを良く思ってないけどゲームを進めないって選択肢がないことはそのときこの場にいた全員が賛同したはずよ。だから、スタッフに会っても話さないことを提案したいのよ」

「確かに、一見世間話のようなことを言ってきてゲーム関連の話しになるって感じだったからねん」

「そうなのか。分かった」

「…………了解」


料理を運ぼうと席を立つと鴬の穏やかな声が聞こえた

見ると微笑んでいる


「賛成してくれて良かったわ」


このとき俺はなにかおかしいことに気付きつつ、どうすることも出来ず料理を運んだ

違和感の正体もそうなってしまった理由もすぐに分かる


扉を開けて料理を置いていく

鴬だけでなく、鴬以外の3人もなにも言わない

俺はそのまま部屋を出た


「今日こそきっと、誰も死なないわよ。苺、やる?」

「えー…。良いけど、なんか…」


苺も今ので違和感を覚えたのかもしれない

だが、なにか言えるほどではない


「せーの」


結局苺が少し不安そうな顔で言う


「南京太郎」

「安藤希和」


ナンバーと苺が苦しみだす


「……希和、守る、出来なかった。……ごめん」

「十分。ありがとう…京太郎」


互いに伸ばした手が触れ合うことはなく力尽る


「まさか鴬が苺を指名するとはな」

「ブルーはナンバーのこと指名すると思ってたわよ。苺に危険をもたらすかもしれない人物なんでしょ?」

「そういう鴬はどうして苺を指名した」

「会ったのはこれを含めてたったの2回なのよ。でもフルネームを覚えてる。これが意味することが分かるでしょ」


好きな人がずっと好きな人への嫉妬

それだけではなく、子供の頃会ったときの嫉妬を思い出してってことか


「ああ…照れ隠しの煽りに遭ったのか」

「照れ隠し?」

「次の日来て、本当は同い年の女の子であるお前と仲良くしたかったのにって凹んでいたからな。元々夏休みしか来ないから来年しか会えないんじゃないか、そう言って慰めたがお前はあれ以降来なくなった」

「おじいちゃんが亡くなっておばあちゃんボケちゃって施設に入ったからだわ。でも3年後だったかしら。行ったときには店はなかったわよ」

「移転したからな」


ため息を吐いて視線を逸らす


「今の話し合いはなんだったんだ」

「アタシも指名されると思ってたからさ、なにか最後に話そうって思っただけよ。でも、そう…。そうだったのね」


これは自分を指名するのが苺だと思っていたから指名しなかった理由について言っているのだろう

ブルーもこれでなんとなく察したはずだ

このゲームで一番まともだったのは、苺であることが


「部屋に戻れ。2人の遺体はスタッフと運ぶ」

「ありがとう」


頭をがしがしと撫でると背中を優しく押す

鴬が部屋を出て少しするとブルーも部屋を出てロビーできょろきょろと周囲を見回している

俺がいる管理人室は案内図に載っていないし、誰にも言っていない

ロビーの奥で作業でもしていたことにして出て行くか


「おい。苺とナンバーが死んだ。部屋に運ぶ。手伝ってくれ」


状況的に片方殺したの絶対自分なのに「殺された」みたいな言い方

これだけは、どんな過去があろうとも許せそうにない

7日目昼誰に会いに行くか

ブルー 鴬


*管理人がウサギの淹れた紅茶を飲んだのは「ナスタチウムの決意」の「ルート⑦5日目」

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