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それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
ルート⑪
25/43

ルート⑪6日目

6日目昼会いに行く人物:ウサギ

ブルーは死の際、以前言った夢について言わなかった

そして、代わりに「勝て」と言った

次のゲームがあること、まだゲームが終わらないことを示唆したのだろう


ウサギがひとりで生き残ったとき、ウサギは俺に夢の話しを聞かせてくれた

忘れていなかったのか、覚えていたのか、ブルーと話す内に思い出したのか、それは分からない

これは俺の直感でしかないが、恐らくウサギは「覚えてはいたが、忘れていた」のだと思う

そして「ブルーと話す内に思い出した」

だとすれば今ウサギは幼い頃ブルーと語った夢について思い出していない


あんな風に穏やかに話しが出来れば良いが、無理な気しかしない

なにせウサギは夢と希望を失ったのだから


互いに互いのいない世界で生きることを望んでいないことを分かっていながら、相手を勝たせるために自分を指名する

決して自分がその世界にいたくないからじゃない

綾辻信元はただ、金井茉莉に幸せになってほしかっただけ


自分がいなくても、幸せになれる

自分がいなくても、勝てる


綾辻信元は自分の命をもって、金井茉莉に伝えた

だが、金井茉莉にそれは伝わっていないだろう


「ウサギ様」


伝わっているのなら、ウサギは普通に生活をするはずだ

だが、いつもブランチを食べる時間になってもレストランに来ない

お昼を回ってもルームサービスの電話もない


部屋をノックすると、案外簡単にドアは開いた

その瞬間みぞおちに衝撃が走る


「あなた、あの子になにをしたんですか」

「ど、どういう意味っ、ですかっ」


クリティカルヒットしたその攻撃の痛みに耐えながらなんとか言葉を返す

ここでブルーのこと以外を言われるとは思っていないが、少しはとぼけた方が良いだろう


「あなたがなにか言ったんです。したんです。そうじゃなかったらあの子が自分を指名するはずなんてない」

「ブルー様はウサギ様が指名なさったのではないのですか」


驚きの表情を作る

声色がわざとらしくならなかったか、少し気になる


「とぼけないで」


語尾が少し強い

もしかして怒っているのだろうか

もう少しはっきり感情表現をしてくれないと分からない

ポーカーフェイスはギャンブルでは役に立つだろう

だが、これはギャンブルではない


「あの子は私に語った夢をずっと忘れない」


一筋の涙が頬をつたう


「語った夢…ですか」


あのウサギが泣いたことよりも、その言葉の方が気になってしまった

ウサギにとってあのとき聞かせてくれた夢は共に語ったという認識ではなかったのか

そういえばウサギは「出会った瞬間から」ブルーに殺されたいと思っていた、と言っていた

確かにそれなら、その夢が叶わないことは分かっているし、なにより綾辻信元に殺されることが夢になっている可能性もある

だとすれば共に語った夢だという認識をしていない可能性はある


「そう。「俺が最高のケーキを作る。そんで、お前がそのケーキと客の好みに合わせた紅茶を淹れる。その店は絶対に、世界最強だ」って言って目を輝かせていたあの子を、私は忘れない」


だから綾辻信元だったのか?

でもそれなら一緒に店を出す方が―――違う

幼い頃は現実を知らない

現実の厳しさを知らない

だから甘い夢に目を輝かせる

だが、知っていくごとに輝きは失せていく


綾辻信元はどうだっただろう

離れ離れになって消息が掴めなくても、自分と店を出すという甘い夢を見続ける青年の瞳は、厳しい現実を知ってどうなっていっただろう

それを金井茉莉はどう見て、なにを思ったのだろう


「ブルーは昔同い年の女の子にそう言ったって聞かせてくれた。その女の子だってきっと、忘れていなかった。だから私は「ここを出られたらきっと叶えられる」そう言った。それなのに、自分を指名するなんてあり得ない」


金井茉莉は綾辻信元が語った夢を忘れていなかった

そして、共に叶える意志があった


それを伝えて尚自分を指名した綾辻信元を、金井茉莉はきっと理解出来ないだろう


2人きりのときどんな会話をしていたかは分からない

だが、はっきりしていることは、2人共互いに気付いていて生き残る道を選ぶということだ

それは片方のためでもあり、自分のためでもあり、夢のためでもある


「どうしてブルーを殺したの」


今も涙はゆっくりではあるが、零れ続けている

涙の理由をはっきりと知るには情報が少ない

だが、ブルーが死んだことが原因であること以外はない


それなら金井茉莉は最後の部屋に行く前、どんな気持ちで俺に花を渡したのだろう

どんな気持ちで俺と接していたのだろう


「――俺が殺そうとしたのはきみだよ」


突然の告白に流石のウサギも驚きの表情をしている


「じゃあ…このゲームの勝者はひとりで、勝者は次のゲームに参加しなければならない。そういうことですか」


ブルーが「勝て」と言ったことだけでそれを察するとは


「苺が言ってました。「ここで人の死を無駄にしない方法は、殺した人が生き残ることだ」って。でも、私には出来ません。あやちゃんがいないと勝てません」

「どうしてですか。ブルー様はウサギ様が勝てるとお思いになってご自身を指名なさったのだと思いますが」

「私がなにをしても味方でいてくれる。守ってくれる。そんなあやちゃんがいない勝負なんて、勝てない」


確かにウサギはブルーと一緒に苺とナンバーを指名したとき以外本名で指名をしていなければ、動かなくてはいけない場面ですら動く様子はなかった

それは綾辻信元が殺してくれることを願っていたからであり、綾辻信元が守ってくれると思っていたからだろう


「どうして自分を殺そうとしたのか、聞かれないのですか」

「次のゲームはブルーの方が勝てると思ったから、とかじゃないんですか」

「いいえ、違います」

「それじゃあどうして」


あのときのことを思い出すと、どうしてか少し笑ってしまう


「トルコキキョウの花言葉を知っているね。教えてくれないかな」

「清々しい美しさ、優美、希望…ですけど、なにか関係があるんですか」

「うん、大いにある」


希望か、そうか

嬉しいね


「あのとききみがトルコキキョウをくれたからだよ」


本当の理由は俺がゲームをクリアしたいから

それを言ってもどうせ忘れてしまうし、言ったってかまわない

だけど、俺はきみの、きみたちの気持ちをもう少し考えるべきだった

確かにクリアしたあとどうなるかは分からない

だけど、ゲーム気分でやるべきことじゃなかった


「あのとき?トルコキキョウをあげた?」

「分からなくても良いんだ」


だって、それが当然だから


「なかったことになってしまうかもしれない。でも、きみは確かに、俺にトルコキキョウをくれたんだ」

「なんて言って渡したんですか」

「「これはトルコキキョウといいます」とだけ言って…渡すというより、押し付けるって感じだったかな」

「その感じだと他にも花があったんですね」

「8輪あったよ。ジニアとナスタチウム。あとはきみが言わなかったから分からない」


一点を見つめ、なにかを考えている


「それは、過去にあった未来の話しですか」


ループしていて、ループの最中に起きたことなのか、という質問以外に考えられない

それは俺がループしていることを知っているからなのか

いいや、確実にそう質問しているが、身を投じている俺がその操作を行うはずがない

だから誰かにこの会話を聞かれていることを考慮して少し曖昧に言ったのだろう


「パラレルワールドって分かるかな」

「はい。つまりあなたは別の世界で同じ時間に起きたことを体験した、又は情報として知っている、という意味ですか」


俺の言い方からして明らかに前者だということは分かっているだろう


「そういえば聞いてなかったね」


俺の目をじっと見て、俺の言葉を待っている


「それを知ってどうするつもりなのかな」


そうだ、と答えても問題はないだろう

この後の展開を具体的に聞いてくるとも思えない

だが、聞かれては困ることがひとつだけある


「では、質問を変えます」


ぐっと拳を握り、大きく息を吸う


「この回のゲームに勝者は必要ですか」

「!」


そんな質問をされるとは思わなかった

恐らくウサギの中でループをしていることは確信になっているだろう

つまりこの回のゲームを早く終わらせた方が良いか、と聞かれている


「―――今日の夕食会のメニューはウサギ様のお好きな物にいたしましょう。リクエストはございますか?」

「鯖の味噌煮とひじきの煮物とみそ汁と白米。あと沢庵が良いです」

「かしこまりました。では早速準備いたしますので、失礼致します」


お辞儀をすると背を向けて歩き出し、エレベーターに乗り込む




                    ***




「ごちそうさまでした」


満足気な顔で手を合わせて言うと、自分を指す


「金井茉莉」


金井さんが苦しみだす

やはりなにも言い残さず、机に突っ伏せている


ウサギのエンディングは回収している

遅れをとっている俺は、ここで無駄に日数を消化するわけにはいかない

ウサギから言ってくれたことは助かった

だが…


「ごめん…」


随分聞いていなかった「あいつら」のここでの言葉は耳に入ってこない

画面に映された金井さんの姿が歪んでいき、俺の意識は暗闇に落ちた

BAD END「全員死亡」

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