表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
ルート⑪
24/43

ルート⑪5日目

5日目昼会いに行く人物:ブルー

苺は自分が2番目に望む形で死んだ

結果だけ見ればそうなのだが、果たして本当にそうなのだろうか

相手に、ウサギに、その意志が伝わっていないのに、結果だけで望んだ形と言ってしまっても良いのだろうか

死が良いとか悪いとかそういうことではない


苺が書いたシナリオにはきっと、ウサギの心境もあったはずだ

こう思ってほしい、こう考えてほしい、こう言ってほしい

なにひとつ俺は知らない

だが、恐らくそれは叶えられていない


本当は好きだって伝えたかったんじゃないかと、俺は思っている

これがナンバーの言う「絶対に叶うことのない願い」だったのだろうか

ウサギが自分の意志を持って苺を殺す

いいや、違う

だってナンバーはウサギを殺したことがある

ナンバーなら無理だと分かっていても最大限の努力をするはずだ

苺の願いとは一体なんなのか


それよりも今は目の前のことに集中するべきだ

考えるべきときが来たらもう一度良く考えれば良い

俺が知っている情報は少ない

苺の望む、苺自身の結末が知れたことは大きい

今はそれ以上知ることは出来ない


目の前のこと、ブルーのことに、集中だ


ブルーは鴬と2人で残ったとき、苺とナンバーを指名したときの様に「ここまできたら殺人とか言ってる場合じゃない」と鴬を本名で指名した

だが、残っているのは鴬ではなくウサギだ

ブルーが指名するのは考えにくい

では、どうすればブルーが生き残ると考えているのか

それは簡単だ

今からそれを伝えに行く


「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「先ほどウサギ様が簡易キッチンに向かっていましたが、ブルー様も行かれるのですか」

「悪いか」


明らかに敵意剥き出しだが、きちんと返事はしてくれる

そういうところ好きだぞ

わざとニヤついた笑顔を作るともったいぶる様に言う


「いいえ。ただ、よろしいのでしょうか。ウサギ様の本名が分かったら指名なさるのではないですか?それなら仲良くならない方がブルー様ご自身のためかと思います」

「俺はウサギを指名しない」

「そうですか…それは困りました」


実際そう返答されることは分かっていたので、それ自体には困っていない

むしろこれが望んだ回答だ


「なにが困る。このゲームで4人…いや、5人か。死んだんだ。このゲーム、面白くなかったのか」

「当たり前です」


ニヤニヤとした笑顔を浮かべる俺に不愉快そうな顔を向ける


「だって、このゲームの勝者はひとりだけなんですから。まだ終わっていないゲームのなにが面白いのでしょう」

「なっ…聞いていないぞ」

「指名は一斉でなくても良い、とも書いてありませんが黙認しています。後出しじゃんけんを先になさったのは参加者の皆様です」

「追加ルールだとでも言うのか」

「はい、追加ルールです」


ここまでは順調に前の通り進んでいる

だが気を抜いてはいけない


「追加ルールは参加者様によって異なります。口外なさらない様、お気を付け下さい」


少し思案する様子を見せると俺をじっと見る


「分かった。言わなければ良いんだな」

「いいえ。他の誰にも―――この場合はウサギ様のみですが、知られてはいけません」

「知られたらどうなる」

「ご想像にお任せいたします。ただ、無事に帰れるとは思わない方がよろしいかと」


今度は俯いて思案する


「知った方はどうなる」

「そちらもご想像にお任せいたします」


実際そんな追加ルールはない

だからそれで死ぬこともペナルティを追うこともない

ただ、そう思ってもらわなければいけない


「分かった。参加者ひとりひとりとお前の秘密ということだな」

「はい。ちなみに、ウサギ様には明日お伝えいたしますので、明日お会いになるのは控えて下さい」


自分を指名することはすぐに思い付くだろう

だが、今回はそれでは駄目だ


「俺はこれから会うのにか?」

「はい、ウサギ様の追加ルールは少し特殊ですので、体験していただきます。そのため時間がかかるのです。説明の最中に訪ねて来られると…」


にっこりと笑ってみせる


「人によってそこまで違うのか」

「詳しい内容はお伝え出来ませんが、機械を使っていただくので、その説明です」


訝し気に俺を見るがふんっと顔を逸らして簡易キッチンの方へ向かって行く

もちろんウサギにそんな追加ルールはない

そして今晩起こるトラブルへの対処法は既に確立している


「そうそう、もうひとつ」


ここからが重要だ

心臓の鼓動が妙に五月蠅い


「ブルー様なら既に思い付いておられると思うので、警告させていただきます」

「なんだ」

「ご自身を指名することは出来かねますのでご了承下さいませ」


ギロリと睨み付けられる


「やったらどうなる。違反行為で死ぬんだったら、指名に成功したことと変わらないだろ」

「残りの参加者様にペナルティを負っていただきます」

「どんな」

「それを言ってはゲームが面白くありません」


じっと見られた瞳には、目を逸らさない俺が映っている


「嘘だな」

「そう判断されるのは構いませんが、ウサギ様がペナルティを負っても構わないのですか?」

「どうせ俺が死ねばウサギのひとり勝ちだ。ペナルティもクソもあるか」


これは困ったな

このままでは今晩ブルーは自分を指名してしまう

ウサギのエンディングは回収した

寄り道をしている時間はない


「では特別にお教えいたしましょう」

「面白くないんじゃなかったのか」

「このままブルー様がご自身を指名なさる方が面白くないと判断いたしましたので」

「そうか。聞いてやる」


ブルーの顔はニヤニヤしている

まさか、これを狙ってわざと言ったのか


「ご自分を指名された方が参加されていたゲームで勝利された参加者様には、引き続き別のデスゲームに参加していただきます」

「なっ…!」


ぐっと拳を握る


「当然ブルー様は参加出来ませんのでウサギ様を守ることは出来ません」

「お前、本気で言っているのか」

「なにをでしょう」


眉を寄せて俺を見たあと、深くため息を吐く


「俺はウサギを守ったことなんて一度もない。全てはウサギの掌の上だ」

「分かっていらしたのですね。それではどうしてですか」

「俺はあいつが一番願っていることを叶えられない。だからだ」


互いが互いのいない世界で生きることを望んでいない…


「でもそうか…。俺がどうするべきか分かった。ありがとな」


妙にすっきりとした笑顔だった

俺に背を向けて歩き出す


「それではウサギ様とのお茶会をお楽しみ下さい。帽子でも被って行かれますか?」

「ふざけるな」


背を向けたまま悪態をつかれた

俺はこのやり取りをどうしてか、少し気に入っている




                    ***




2名が会議室Bの指定された席に座る


「明日は部屋から出られないと聞いたが、お前もそうか?」

「え?私は聞いていないよ」

「そうか。それなら、それも明日説明があるはずだ。俺は今日聞いたが、お前には明日伝えると言っていた」

「そうなんだ。なんだろう」

「ルール上言えない」


―――え?


「そっか。分かった。心の準備が少しは出来て良かったかも」


ウサギはそう言って少し笑った

今は確かに笑っているが、さっきの微妙な表情の変化はなんだったんだ

なんと表現して良いのか分からない負の感情が、そこにはあった


「そうか。なにか分からないと不安がらせるかと思って悩んだが、それなら良かった」

「ありがとう」


今日も2人して自然にナフキンを膝の上に置くと黙る

それを合図に立ち上がり料理を運ぶ

今日も無言で食事を終える


2人は箸を置くと一度だけ自分が殺した人物が座っていた椅子を見て、互いを指した


「せーの」


2人共指しているのはブルーだ

つまりブルーはブルー自身を指している


「綾辻信元」


苦しみだすブルーにウサギが慌てて駆け寄る


「どうして…」

「ほらな…。自分を、指名する…ことは、正しかったんだ…」


違う

正しくなんてない

このゲームに正しさなんてものはないんだ


「出来れば…幸せに、なってほしい…」

「あやちゃんがいなかったら幸せになんてなれないよ」

「はは…、それは、嬉しいな…。なぁ、茉莉…」

「なに、あやちゃん」

「生きるって…重たくて、辛いよな…。だから…生きて、くれなんて…言わない。だけど…勝てよ」


綾辻信元の身体の力がなくなり、ウサギの力では支えられなくなって一緒に倒れる


「あやちゃん、なにを言っているの。私はあなたに出会った瞬間から、あなたに殺されたかったのに」


ウサギの目は酷く虚ろだった


ぶつんと音を立てて監視カメラの映像が切れた

それがウサギの心を表しているかの様で、思わず目を逸らした

逸らさなくたって、なにもないのに

6日目昼誰に会いに行くか

ウサギ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ