ルート⑪4日目
4日目昼会いに行く人物:苺
今思えば鴬の手紙について苺が言ったことはおかしい
鴬は手紙の内容を信じたから行動に移した
それなのに苺は「鴬が信じてくれない」と言った
更に言えば、誰が書いたかなんてあの状況になってしまえば、どうでも良いはずだ
むしろ当人ならバレたくない
だが、特定の誰かに指名されたがっているのであれば嘘を吐いた理由に納得がいく
相手は自分が殺しているナンバーでも鴬でもない
ホースは思い出していない様子だかし既に退場しているから意味のないことだ
だから違う
残っているのはブルーとウサギ
どちらも苺を指名出来るが、どちらが指名してもおかしくない
それならウサギのことを「金井郁」と指名することが関係あるのか?
苺は「金井さんにはなにもかも敵わない」と言っていた
それが関係するのなら、ウサギに負けたくないと思うのが普通だ
最初に言っていた「負けたくない人がいる」というのは嘘ではなかったということだろうか
だが、なにかしっくりとしない
苺という人物が掴めていなさ過ぎる
ナンバーとの思い出を語った苺が嘘を吐いているとは思えない
だが、それならどうしてナンバーを殺すことが出来たのか
ナンバーといえば、最後に言っていた「願いが絶対に叶うことのない彼女の世界に終わりを」というのはどういう意味だろうか
願いはひとりで生き残ったときの報酬で叶えられるはずだ
最後まで残っても叶えられない願いを、苺は持っているのだろうか
それは一体なんだろう
「こんにちは」
「こ、んにちは」
朝食のバイキングを昼食のバイキングに変えていると、後ろから急に声をかけられた
「驚かしちゃいました?」
「ええ…、この時間はいつも誰もみえないので」
「人数も減ったしねん」
昨日自分が2人殺したと分かっていて言っているのか
「鴬とナンバーを指名したのは誰だと思います?」
こいつどんな神経してんだ
「そうですね…。鴬様はブルー様、ナンバー様はウサギ様でしょうか」
「どうしてそう思うんですか?」
「ブルー様は鴬様が危険だと思ったから、ウサギ様は…分かりません。ただ、鴬様でも苺様でもないと思ったので」
楽しそうな顔で俺を見ている
全く違うんだから可笑しいだろうな
「どうして鴬でもウチでもないと思うのかなん?」
「連続で指名に成功すれば自分の身が危ないことは分かり切っています。極力連続は避けるでしょう。苺様は積極的に指名しそうにないと、わたくしは思っておりますので」
「へぇ、意外」
「そうでしょうか。わたくしにはなにか目的があって道化を演じている様に見えますが」
こんなことを言うのは賭けかもしれない
だが、苺の目的が誰かに指名されることなのであれば、今晩の指名の内容は変わらない
「ウサギ様となにかあったのですか」
表情が厳しくなる
「どうしてですか」
「管理人という立場ですから、皆様のことは夕食会でお食事をご用意させていただくときに観察させていただいております。それに一応年上ですから、なんとなく分かることもあるんですよ」
「人生経験ってやつですか」
「そう大したものではありませんが、一般的にはそういう言い方をしますね」
にやにやとした表情に戻すと俺を下から上まで一度見てから目を見る
なにかを言う気はなさそうだ
それならこちらが質問をするしかない
「ウサギ様を指名なさるのですか」
「え?」
驚いた顔と呆けた顔を混ぜた様な顔をしている
俺は夕食会のときの会話を知らないことになっている
当然の質問だと思うが、違ったか?
「まだまだ青いんだねん。まさか、そんなことするはずないよん」
年下に青いと言われるのは不服だが、指名されるのが狙いだと気付いていないと思っていれば当然かもしれない
だが、ここで「ウサギに指名されたいのか」と問うのは飛躍し過ぎている
「では、ブルー様を」
「違うよん。ウチはもう、誰も本名で指名しないよ。絶対にね」
やはり指名されるのが目的
どっちだ
今夜の指名先が変わらなければ関係ないという問題ではない
苺とナンバーは攻略ルートが見えていないのだから、少しでも情報を集めなくてはいけない
どちらなのか、それはとても重要だ
「では…指名されたい、ということでしょうか」
最初の方にこのルートをやっていれば、苺の狙いに全く気付くことはなかっただろう
だが、強くてニューゲームなんでね
「やっと正解だねん。どっちだと思います?」
「ブルー様でしょうか。ウサギ様を守るために苺様をいち早く指名なさるでしょうが、ウサギ様は中々重い腰を上げそうにはありませんから」
「それはそうだねん。でも全てが正しいわけじゃない。それも答えのひとつに含まれるってだけ。だから減点だねん」
相手がブルーであればこのゲームの中で分かりえる最大の理由が減点
全てが正しいわけじゃない
「もしかしてどちらでも良いのですか」
「ある意味正しいけど、少し間違ってるねん」
「では、ウサギ様が望ましいが、ブルー様でも構わない。といったところでしょうか」
「正解」
「それはブルー様自身でも良いとういうことですか。それとも、間接的にウサギ様に殺されているから、それでも良いということですか」
どの回だって、ウサギはいつもブルーを誘導していた
全てが上手くいったわけではないからブルーでない人物に殺されることも、2人で生き残ることも、ひとりで残されてしまうこともあった
だが、いつだってブルーはウサギのことを考えている
「後者だよん」
「どうしてです」
安藤希和という人物の背景にはなにがある
どうして金井茉莉に殺されたい
安藤希和にとって金井茉莉は敵わない相手
今なら勝つことが出来る
それなのに、殺されることを望んで行動をする
「ウサギ様に負けて、一体なにが出来ると言うのですか」
言っただろ
「例えなにかを証明出来たとしても、それを知らせることが出来なければ、証明出来たことにはなりません」
「出来るよ。だって、ウサギはひとりで勝つから」
確かに、俺がブルーに言うべきことを言えばウサギはひとりで生き残る
だが、放置すれば2人はそのままチェックアウトするだろう
ホースの言葉を引用すれば、両名どちらかがいない世界を望んではいないからだ
「どうしてそう思われるのですか」
「秘密。いつも誰かが答えをくれるわけじゃないんだから、自分で考えなくちゃ駄目だよん」
「耳に痛い言葉です」
得意気に笑って顔を寄せる
「あなたも上司に報告するんでしょ?だから記録が残る」
「上司…ですか」
俺がこの組織の一員なら、まだ良かったのかもしれない
だが、俺もただのゲームの参加者で「あいつら」にとっては駒でしかない
きっと報告をするのは俺が参加しているゲームのゲームマスターだろう
「違うのかなん?」
「いいえ、このゲームの参加者7名のここでの生き様は、わたくしが責任を持って報告いたします」
「宜しくねん。それじゃ、また」
「はい」
レストランを出て行く背中を見送る
なんとなく釈然としないのは変わらないが、疑問に思っていたことがひとつ分かった
苺がウサギを「金井郁」と指名するのは、脅威が迫っていることをウサギに認識させるためだ
***
3名が会議室Bの指定された席に座る
「苺、お前はひとりで生き残って報酬を受け取るつもりか?」
「そうだよん」
「なにを手に入れられるんだ」
「夢」
真剣な響きだが、これが嘘なのだと思うと人間不信になりそうだ
「自分の力で手に入れなかったものなんて、失うのがオチだ」
「ここで勝つのはウチの実力だよん。だから、失わないんだなん」
「屁理屈だ。それ自体を手に入れたのは実力ではない」
「じゃあそれを認めたとしよう。それで、なにが言いたいのかなん?」
本当は分かっているはずのことを挑発的な態度で聞く
それでもブルーは落ち着いている
恐らく、こういう態度で来ることは予想していたのだろう
「3人で生きて帰ろう」
不安そうな顔で、ゆっくりと、言葉にした
「ウサギはどう思ってるのかなん?」
「私もそう」
「自分の言葉で言わなくちゃ伝わらないよん」
「3人で、生きて帰ろう」
真っ直ぐ苺を見つめる
「い・や・だ」
にたりと笑う
「そうか。それなら俺は、お前を殺す」
「ウチはウサギを殺す」
睨み合いが続く
「せーの」
唐突に聞こえた平坦な声に驚いて2人共宣言した相手を指す
「金井郁」
「安藤希和」
苺が苦しみだす
「どうして…」
「あなたが勘違いしていることは予想していたよ。だから3人でって提案したのに、残念だなぁ」
「はは…、やっぱり…嫌い、あんたなんて…大、きら…い…」
これは「どうして自分を本名で指名しないのか」という問いだったのだろう
だが、ウサギは答えなかった
ウサギにとってはこれが本当の回答だったのかもしれないし、敢えて答えなかったのかもしれない
それは分からないが、苺は敢えて答えなかったと思ったのだろう
だから嫌いだと言った
望みを知っていながら、そうしてくれなかった金井茉莉を、自分で行動しなくても手に入れることの出来る金井茉莉を、嫌いだと言った
そして、敵わないと
椅子から転げ落ちても支える者はいない
「どうして、こんなことに…」
「やっと再会したのに?」
力なく頷く
「私はここで再会するために離れ離れになったんだと思うな」
「どういう意味だ」
俯いていた顔を上げる
ウサギを見たその目は、涙できらきらと光っていた
「そのままの意味だよ。運命は悪戯をしない。私はそう思っているから」
「そうか。分かった」
きっとブルーはなにも分かってなどいない
今までは、それでも分かろうとしてきた
それをもう止めたんだろう
ウサギ 好きな食べ物:白米
2人ともそれを見ると部屋を出て行った
監視カメラの映像を映していた画面が暗くなる
5日目昼誰に会いに行くか
ブルー ウサギ