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それぞれのマリーゴールド  作者: ゆうま
ルート⑪
22/43

ルート⑪3日目

3日目昼会いに行く人物:ナンバー

昨日は手紙の謎が分かっただけで誰にも会わなかった

前もナンバーに会いに行くつもりでホースとの会話を聞いただけで、誰にも会わないというのは変わらなかった

だから流れも変わらなかった


ホースの願いは達成されたが、謎は深まるばかりだ

動きや印象が1日目の指名失敗ペナルティとして開示する情報によって違い過ぎる

こればかりは参加者に聞いても分からないだろう


そうなれば次に謎の動きをする苺について知るしかない

だが、苺は明日会いに行く理由がある

今日はナンバーに会いに行き、なにかしらの情報を引き出すことにしよう


ナンバーもナンバーで謎ではある

だが、そんなことを言ってしまえば、そのゲームの参加者は全員謎で、全員おかしい

目を引く者にばかり気を取られていては駄目だと分かってはいる

だが、苺に関しては気にしないと先に進めない気がする


苺はホースと違い、行動に一応の一貫性が認められる

なにかしらの目的があることに間違いはない

それがなにかを知ることが、俺がこのゲームをクリアすることに必要なことだと思う


「あ…」


東棟のエレベーターに苺が乗っている

昨日と同じ展開であれば、ナンバーに会いに行くのだろう

エレベーターはやはりナンバーの部屋がある4階で止まる

非常階段を駆け上がり、慎重にドアを少し開ける

すると、ドアのすぐ向こうに2人がいるのが分かった


「呼び出してごめんね?」

「……別に。……なに」

「お願いがあって」

「……うん」


その返事は聞く前から引き受けると言っている様に聞こえる

それはナンバーと苺の関係と、これから起こることを知っているからかもしれない


「これ、鴬の名前。今晩指名してほしい」

「……どうして」

「昨日の様子見たよね。ウチのこと嵌めようとしてるんだよ。ホースの手紙だって本当だったか分からない」


苺がそう考えるのも無理はない

だが、それでどうしてすぐに鴬を指名しなくてはならないのか


「鴬はきっとひとりで生き残るつもりなんだよ。だから、みんなのためにも早く片付けないと」

「……誰か、指名、する。……だから、出来ない。頼む」

「うん」

「…誰」


その声色は真剣だった

みんなのために片付けるというのが鴬を指名する理由なら、苺が誰かを指名する理由は見当たらない


「ブルーだよ。ブルーは鴬と組んでるんだ。昨日ウサギがいないからって理由で鴬の発言を聞けなかったのはブルーがそう誘導したから」

「……それなら、僕、部屋出る、止めなかった」

「だってあなたはいつだって、ウチの味方でしょ?」

「…うん」


その声は少し沈んで聞こえた

利用されていることを少しは考えているのだろうか


「じゃあお願いね」

「……でも、あの子の、誕生日、夏頃」

「鴬はあの子じゃないよ。あなたは本来指名出来ない人。どうしてブルーが鴬と組んでるのかは分からないけど、きっとあの子のためなんだよ」

「…………分かった。……もうひとつ」

「なに?」


真剣な声色のナンバーに苺は軽いトーンで応えた


「……どうして、鴬、分かった」

「さっき「アメシストって何色だっけ?」って聞きに行ったんだ。そしたらピンクだって言うから。普通紫系の色を言うはずなんだよ。でも、鴬はピンクだって答えた。そんな変わり者、他には知らない」

「……分かった。……僕らと、ウサギ、生き残るため、本当」

「うん、本当だよ」


確かに一般的にアメシストの色は薄い紫、透明に近い紫、濃くてもラベンダーなど、紫系統の色で表記されることが多い

だがそれだけで…いや、参加者全員が知り合いだという仮定があれば可能か

苺の足音が遠ざかり、エレベーターの扉が開く音がした


「……嘘吐き」


そう小さく呟くとナンバーも歩き出す

だが、その足音は明らかに部屋を通り過ぎている

ドアをもう少し大きく開けて覗いてみると、エレベーターを待っている

どこかへ行くつもりなのか


急いで非常階段を駆け下り管理人室へ行くと、丁度西棟のエレベーターに乗り込んだところだった

到着したのは4階、鴬の部屋がある階だ

なにをするつもりなのか全く予想がつかない


再び非常階段を駆け上がる

こんなに運動したのはいつぶりだろう

ナンバーと鴬の階を2階にしておくんだった


「なんでアタシにそんなことを聞くのよ」

「……協力してくれそう、鴬しか、いない」

「確かにそうかもしれないわね。でも急にゲームに積極的になって、どうしたのかしら」

「……守りたい人、いる。……このまま、危ない」


随分焦っている

一体なにを聞いたのか


「……渡せる情報、その人、自分、名前だけ。……でも、渡せない」

「当然ね。守りたいんだし、死にたくないんだから。でも、じゃあアタシのメリットはなにかしら」

「……鴬、メリット、ない。……だけど、ひとつ間違い」

「なにかしら」

「……僕、その人に、殺される。……でも、守りたい。変わらない。……ブルー、取引、したい。……でも、情報、ない。……取引、内容、言えない。……でも、きっと、守る」


少しの間

恐らく真剣な雰囲気のナンバーを前に迷っているのだろう


「多分、だけど」

「…うん」

「ケーキ屋の息子よ」

「…ありがとう」

「守れると良いわね」


鴬の優しい声色が廊下に響く


「ありがとう」


ナンバーは再びお礼を言うと、エレベーターに乗り込んだ

恐らく行先は苺の部屋だろう

ブルーとの取引なんて大嘘で、ブルーについて聞いたのは苺を止めるためだろう


非常階段を下り、3階のドアを少し開けるとナンバーが苺の部屋をノックしていた

だが、返事はなく、ドアも開かない


「……僕」

「なに?話しならさっき終わったでしょ。今更出来ないなんて言わないでよ」

「……違う。……このままブルーの指名、危ない」

「あの子のリスクなら分かってる」

「……違う。……ブルーの名前、違う」


やっと苺がドアを開ける


「どういうこと」

「……今、鴬、言った。……ブルー、ケーキ屋の息子。……もっと、危ない」

「大丈夫。予定に変更はない」

「まっ…」


ドアが閉まる音がした

大きくため息を吐いてドンという音がする

その場に座り込んだのだろう


もしかしてナンバーは始め、ウサギとブルーを別の人物と勘違いしていたのかもしれない

だから苺がウサギを「金井郁」と指名するまで気付かなかった

今回は情報が少なく、不確定だったため確信を得るために鴬を訪ね、そこで自分の間違いに気付く

だが、苺はウサギとブルーを正確に把握していたため、予定に変更はない


ナンバーと接触して変なことになっても困る

置いて行くのは心苦しいが、そう言っていては俺がゲームをクリア出来ない

もしかしたら、全員救う道があるかもしれない

1%でもその可能性があるのなら、一時の感情に流されず行動するべきだ




                    ***




5名が会議室Bの指定された席に座る


「鴬、昨日の発言について聞かせてもらおうか」

「朝起きたらドアに手紙が挟まってたのよ。手書きなのに新聞の切り抜きみたいにしてある手紙がね」

「どんな内容だったんだ」

「詳しい内容は言えないわ。でも、椎名の…平たく言えば「裏切り」かしら。それを示す内容が書いてあったわ。証拠はなくても、信じるしかない内容だったのよ」

「誰かが鴬にホースを殺させるために書いたってことかなん?」

「そうとしか考えられないわ。でも、そうだとしても、許せることじゃなかったのよ」


詐欺のことであればホースに確認してからしか指名しないはず

例え嘘を答えると考えていても、一度は必ず確認するはず

それが、俺の見てきた鴬だ


そう思っていたが、前提が間違いだった

俯いて拳を握る鴬の気持ちは計り知れない


「その文字は明らかに女の子の文字だったわ。苺は目的のためなら手段を選ばないってデモンストレーションのとき目が合った瞬間に思ったのよ」

「酷いこと言うねん」

「最後まで聞いて。…だから、最初は苺だと思ったのよ。でも椎名に駆け寄るナンバーを心配そうに見てた。ずっと、心配そうに見てた。だから違うと思ったのよ」


鴬の視線が動いた先にいた人物に視線が集まる


「なにも知らない。だけど信じられないのは分かるよ」


苺の方をちらりと見る


「―――私は今の家の環境から出来るだけ早く逃げたい。6人で帰ればそれがすぐにでも叶う。だから、誰かに誰かを殺そうとさせるメリットが全くないんだよね」

「それもどう信じれば良いんだ」

「私の名前が分かったら、言っていることが分かるよ。兎に角、私は知らないから」


これ以上言うことはない、とでも言う様に視線を伏せる

次に視線が集まったのは当然鴬だ


「分かったわ。これが椎名の望んだことだって、信じることにするわ。ウサギ、椎名からアタシへの伝言は聞いたかしら」

「聞いたよ」

「椎名があの子のことを本当に好きだって分かったから、もう良いのよ」

「そう。分かった」


その反応は少し冷たいが、とてもウサギらしい

参加者たちもそう思ったのか、4人共小さく笑った


話し合いも終わったし、料理を運ぼう

今日は以前のルートで鴬からリクエストのあった抹茶のロールケーキだ

また作ることになってしまったことは悲しいことだ


「さっきっていうより昨日からだけど、嫌疑をかけられたことだし、やっぱり面倒がって人と関わりを避けるのは無理があったと思うんだよね」


全員が食事を終えて少しして視線で掛け声の押し付け合いが始まりそうな頃、ウサギが唐突に言った


「だから少し協力的になってみようかと思うんだけど、そういう理由だから変な勘繰りは止めてね」


他の4人が不思議そうに顔を見合わせる


「せーの」


全員が誰かを指し示して名前を言う


「厚地加奈」


鴬が苦しみだすと別の冷淡な声が聞こえた


「南京太郎」


ナンバーを正しく指名した冷淡な声の主は、苺だ


「どう、して……あなたが…」

「……ごめん。………大切な、ものが、ある」

「そう…。アタシの死と…あなたの死で…その人が、守れる、なら…すて」


苺の方向に倒れたが、押し返されてウサギの方へ倒れる

慌てて受け止められた鴬に駆け寄ろうとしたナンバーが数歩歩いたところで膝から崩れ落ちる


「……素敵じゃ…ない。……こんなの…絶対。……ウサギ」

「え、なにかな」

「……願いが…絶対に、手に…入らない。……彼女の、世界に…早く、終わりを…」

「分かった」


小さく微笑むと地面に横になって、動かなくなった


「なにが起こった。苺、ウサギ、どういうことだ」

「分からない…」

「そんなわけないだろ!」

「ナンバーの言葉の意味が本当に分からない。私、苺のことを殺せるの?」

「そうだねん。ウチもウサギのこと殺せるよん」

「でも…南京太郎なんて人、知らないよ」


この時点で俺は嘘だと気付いた

Bを1日目の指名失敗ペナルティとして開示する情報として選んだルートでウサギがナンバーを正しく認識していることは分かっている

どういうつもりで言っているのか

まさか自分は指名するつもりがないから黙っていろ、と言っているわけではないだろう


「き…、さまは、どういうつもりだ」

「どうって…鴬が悪いんだよ。本当のことを教えてあげたのに、ウチのこと信じてくれないから。京太郎だって、鴬に入れ込んじゃって。京太郎はウチの駒なのに」

「お前!そんな言い方ねぇだろ!」

「分かった」

「なにがだっ」

「許せなかったんだよね。駒に恋をしてしまった自分を。だから殺した。その周囲も滅茶苦茶にして、殺した。絶望した顔が見たかったんだ」


驚きと軽蔑の顔で苺を見る


「でもナンバーは最後まであなたのことだけを思っていた」

「―――恋は盲目ってことだねん」

「その使い方は違うと思う」

「合ってるんだよ。誰に出会っても、偽の笑顔も偽の口調も、どれだけ意識しても時々出るんだよねん。だけど、京太郎といるときは全然出なかった。京太郎が引っ越して会えなくなっても、それはずっと変わらなかったんだよねん」


ウサギが小さく微笑む


「それなら、合っているかもしれない」

「しかし、少し親切にしただけで殺されてちゃ命がいくつあっても付き合いきれないな」


つられてブルーも少し笑うと壁を見た


ブルー 誕生月:6月

ウサギ 好きな数字:7


「人の死を無駄にしない方法ってなんだと思う?」

「そんなものはない」

「ここではあると思うなん。それはさ―――」


苺の表情が歪んだ笑顔を浮かべる


「殺した人が生き残ることだよ。ウサギ、本当は京太郎のこともウチのことも分かってるよね」


大きな笑い声をあげて部屋を出て行く


「えー、待って。私本当にし」


部屋を出たため、音が途切れる

大きなため息を吐いたブルーも部屋を出て、画面が暗くなる

4日目昼誰に会いに行くか

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